大入島廃棄物埋め立て工事の中止を要請

 日本湿地ネットワークでは大分県に対して、佐伯市大入島(おおにゅうじま)の廃棄物埋め立て工事の中止を求める要請書を、2005年1月28日と30日の2度に渡って提出しました。2005年3月現在、工事は中断しており、地元住民は「白紙撤回」を求めて抗議行動を続けています。



大分県知事 広瀬勝貞殿

2005年1月28日
日本湿地ネットワーク(JAWAN)
  代表 辻 淳夫

大入島地区港湾環境整備(廃棄物埋立護岸)事業の中止要請

 大入島石間浦の廃棄物護岸工事が強行再開され、地元漁民や、お母さんたちが身体を張って反対されていると聞いて胸を痛めています。子どもたちが通う小学校の、目の前の海が産業廃棄物で埋められることに、誰が平気でいられるでしょうか。
 日本湿地ネットワークは、1991年に結成されましたが、それは1960年代からの全国的な臨海開発による海の自然破壊に抵抗する草の根の活動を受けたものでした。大阪湾、瀬戸内海をはじめに、次いで東京湾、伊勢湾の臨海工業用地造成で、つぎつぎと干潟や藻場、浅海域が浚渫埋立によって失われました。
 日本全体が工業立国を目指し、高度経済成長政策を大方の国民が支持して進めてきた道を、それによって物質的なゆたかさを享受し発展してきた事実は、否定できません。しかし、それがもたらした大きな損失、渡り鳥や希少な生物の減少や絶滅だけでなく、私たち人間の生存基盤である海の生産力を破壊してきたことも明らかな事実として、いまや多くの国民が認めています。
 国も、そうした弊害を認め、公共事業の見直しや、20世紀に損なわれた環境をとりもどそうと、「自然再生推進法」をつくったのです。そうした中で、廃棄物埋立護岸事業を進めるのは、どうみても、「時代の要請」に反するものといわねばなりません。
 渡り鳥の視点に立てば、ほとんどの重要渡来地が失われたが、市民活動の盛り上りでかろうじて最後のひとつが守られたという全国的な状況の中で、瀬戸内海西部、周防灘には未だゆたかな自然が息づいていることを、世界的な希少貝類が生息するなどの生物相が教えてくれます。そうした多様な生態系の力を生かしていくことが、日本が加盟しているラムサール条約の理念です。
 
 緊急に、次のことを、要請します。
  1. 現在進められている工事を即刻中止し、計画の見直しをすること。
  2. 「磯草の権利」を持つ地域住民や、関係漁民、研究者を交えた計画の再検討をすること。
  3. 生物相の詳細な調査を実施し、その結果に基づいて大入島全体の環境保全計画をたてること。
 どうか、これ以上の自然破壊はやめて、よりよい環境をいつまでも伝えてゆくことを、大分県政の最優先課題としていただきますよう、地球のいのちと次世代に代わってお願いいたします。

以上


2005年1月31日

大分県知事 広瀬勝貞殿

日本湿地ネットワーク(JAWAN)
代表 辻 淳夫

大入島東地区港湾環境整備(廃棄物埋立護岸)事業の中止要請

 浅瀬域は、海の生態系全体を様々な面から支えています。そして、人類もその恩恵を多大に受けており、「お金に変えられない価値」が認識され、浅瀬域保全がもたらす生物多様性の恩恵は地球的規模のものであるとする意識が高まっています。
 松田裕之著・環境生態学序説、p108より以下を引用します。
【地元の漁協に対して補償交渉を行い、漁業に関わる価値を算定する。それでは足りない。漁業者は、尊い自然の恵みのほんの一部を利用しているにすぎない。漁業者が漁業を続けることは、漁業補償に比べて桁違いの自然の価値を守る事を意味する】とあります。
 水産物は海の生態系の一部から得られるものです。大入島での廃棄物埋立護岸事業に漁業者や地元住民が中止を求める声をあげています。海の価値は海の幸を享受している漁業者や地元住民が一番よく身をもって知っている筈です。抗議の運動は、決して過激な反対運動などではなく、“地元の海のかけがえのなさ”を日々の生活により知っているからこその必死の抵抗に他なりません。
 日本では浅瀬・干潟の埋め立てに対する厳しい法規制は不十分です。だからといって何をしても許される訳ではなく、ラムサール条約という国際条約に加盟している日本は、日本だけの都合で貴重な生態系を損なう事は、決して許されない筈です。
 国際的なものさしで、大入島東地区で着工されている廃棄物埋立護岸事業を考えると、とても認可されるような内容のものではありません。
 米国の例を挙げますと、埋め立て計画がある場合、それが再生を目的とする埋め立てであったとしても、精密な調査にもとづく慎重な検討が行われています。米国にはClean water Act (CWA)という法律があり、事業者が埋め立てをしようとする場合、以下の条件を“全て”満たしていなければなりません。
(条項404)
1)どうしても、その場所を埋め立てるという理由がある(その場所を埋め立てるしか他に代替措置が無い)
2)絶滅危惧種を脅かす恐れがない。
3)海の環境に多大な影響を及ぼさない。
これらの条件を満たさない限り、埋め立ては許可されないのです。さらに、404(b)(1) ガイドラインのセクション230.31には埋め立てに対する項目があり、生態系の生物学的特性に影響を及ぼす恐れがある場合、特に注意が必要、とあります。食物連鎖の中における水生生物の中には、魚類、甲殻類、貝類、多毛類、プランクトン等が含まれます。
 また、Endangerd Species Act(ESA)という別の法律では、希少種などの存在も厳しくチェックする条項もあり、希少種がいる場合は、埋め立てや、再生事業に法的歯止めがかかります。もし、それらを無視して開発が進められた場合、市民やNGOには開発側を訴える権利があります。
 そして、そのような環境に事業計画が持ち上がった場合には、最低でも一年をかけて念入りに、詳細な影響調査をしなければならないのです。
 大分県・大入島での強行埋め立てを米国の法律に照らし合わせると、埋め立てが実行に移される事はまずないでしょう。
 埋め立ての理由が、港湾計画の予算の消化→これは、1)の、【その海域を埋め立てるという強固な理由がある、そして、その場所に埋め立てをする以外に代替措置が無い】・・にはあてはまりません。世界で三箇所にしか生息していない希少な貝類が生息している事からも、2)の【希少種を脅かす恐れがない。】にもあてはまりません。そして、海の事をよく経験により知っている漁業者が埋め立てに強く反対していますから、3)の、【海の環境に多大な影響を及ぼさない。】とは言い切れません、一年以上の長い期間での影響調査も行われていません。
 数少なくなっている貴重な自然資産を保有している地域は、その自然資産を大切に残し、そこから、恵みを享受する道(ワイズユース)を選択する事が不可欠になっている時代です。ワイズユースの一つに環境教育への活用もあります。現に、事業が強行されている海域は、次世代を担う小学生が環境教育の場として活用している海岸だと聞きます。現状で豊かな生態系が成り立っている海域を、予算上繰り越せない、などという理由で、住民の反対を押し切って産業廃棄物で埋め立ててようとしている・・・こんな状況は、先進国として、非常に嘆かわしい事だと感じます。
 21世紀は環境の世紀といわれます。恵み豊かな自然環境を守り、将来に継承していくために「ごみゼロおおいた作戦」を掲げられる知事の英断による「廃棄物埋立護岸事業」の即時中止と見直しを求めます。

以 上


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