泡瀬干潟「自然の権利」訴訟始まる

籠橋隆明(日本環境法律家連盟事務局長/自然の権利基金事務局長/弁護士)

1. まもなく泡瀬干潟「自然の権利」訴訟が提訴されます。

「泡瀬干潟を守る連絡会」の前川さんたちに、現地を案内していただいた後、弁護団結成記者会見をしました。(2005年1月23日)
 原告は「泡瀬干潟」を始め、泡瀬干潟に集う野生生物たちです。もちろん泡瀬の自然とともに泡瀬の干潟を守ろうとする人たちも原告です。泡瀬干潟「自然の権利」訴訟の弁護士は日本環境法律家連盟(JELF)の弁護士で構成されます。裁判を進める費用は地元の人々とともに「自然の権利」基金が応援します。

2. 本件事業

 中城湾港(泡瀬地区)公有水面埋立事業は、港湾審議会第132回計画部会(平成2年8月)を経て承認された「中城湾港港湾計画(改訂)」、沖縄県地方港湾審議会(平成6年12月)及び港湾審議会第156回計画部会(平成7年11月)を経て承認された「中城湾港港湾計画(一部変更)」に基づいた泡瀬地区の約187haを埋め立てるものです。
 計画ではふ頭用地、マリーナ施設用地、繋留・展示施設用地、宿泊施設用地、観光商業施設用地、業務・研究施設用地、教育・文化施設用地、住宅用地、緑地、多目的広場用地、道路用地、管理施設用地及び護岸用地を確保するものとしています(環境影響評価書第2章第2節1「事業計画の概要」)。
 本件事業が進められるに当たっては港湾法、公有水面埋立法、環境影響評価法などが関係します。中城湾は港湾法に定める重要港湾とされ、港湾管理者により港湾計画が策定されます。本件では港湾管理計画の中で中城湾の浚渫、浚渫土による埋め立て事業が計画されてきました。港湾管理計画作成の過程で環境影響評価法に基づく環境影響評価(環境アセスメント)が行われています。そして、港湾管理計画が作成された時点で公有水面埋立法に基づく承認申請あるいは免許申請が行われます。
 埋立の承認を得るためにはいくつかの書類を添付しなければなりませんが(法2条3項)その中に公有水面埋立法施行規則3条が規定する「環境保全に関し講じる措置を記載した図書」が含まれています。さらに、通達(昭和49年6月14日通運省港官第1580号、建設省河政発第57号)によれば、「環境保全に関し講じる措置を記載した図書」については「埋立及び埋立地の用途に関する環境影響評価に関する資料を含む環境保全措置を記載した図書であること。」と規定しており、公有水面埋立免許、あるいは承認に際して環境影響評価結果が添付されることになります。

3. 本件事業による自然破壊とその違法性

 環境影響評価実施要綱に基づいて93年から98年まで環境影響評価の調査等が実施されて99年3月に準備書が作成され、環境影響評価法が制定された後の99年6月からは同法に基づいた手続が進み、同年11月には一旦評価書が作成されましたが、追加調査の上、2003年3月に補正された評価書が作成されています。評価書では海浜の整備等の環境保全措置を実施したり、海草移植の代償措置を検討する等として、環境保全についての配慮が適正になされていると記載されています。しかし、アセスメント実施に当たって、そもそも「埋め立てはしない」という案を検討する必要がありますがそれを検討していません。野鳥の調査が不十分であり多くの種類を見落としています。加えて、クビレミドロについては未検討で準備書段階では見落としていた上に、対応策については移植という確立していない方法を評価書は提案しました。実際、クビレミドロの移植実験については失敗しています。環境影響評価についてはこうしたいくつもの問題点を抱えています。法は環境影響評価法のいわゆる横断条項を設けて開発とアセスメントを結びつけています。こうした不十分なアセスメントが自然に対して適切な配慮を行っていないとして環境影響評価法に違反するものと考えられます。また、国際的に重要な湿地の保護を求めたラムサール条約や生物多様性条約にも違反するものです。

4. 本件事業の目的とその違法性

 事業は、国と沖縄県が事業主体となって、泡瀬干潟と周辺海域の公有水面185ha(内訳は総合事務局が175ha、沖縄県が10haを埋め立てるもので、総合事務局が308億円、沖縄県が180億円とされています。本件は埋立事業予定地の北東の中城湾新港地区航路浚渫工事に伴って発生する浚渫土砂の処理であり、もう一つは沖縄県および沖縄市が企図するもので、両者が埋立地に計画する「マリンシティ泡瀬」というマリーナ・リゾートの建設です。
 沖縄県、沖縄市とも事業資金は基本的には起債によってまかない、最終的には沖縄市が90ha、沖縄県が39haを民間に売却して返済資金を回収する計画を立てています。詳細は省きますがこれらの事業が実現する可能性は全くないと言って良い状態です。このような事業は必要最小限の経費で最大の効果を上げなければならないという地方自治法や地方財政法の原則に反するもので違法と言わなければなりません。

5. 今回の訴訟はこうした違法性から自然保護を訴えます

 裁判は住民訴訟という形式で実施されます。これは、地方自治法に定められたもので自治体の違法な財政行為を市民が追及できるという制度です。本件は国の事業ですが、弁護団でいろいろ工夫して国の責任をも追及できるような裁判につくり上げる予定です。

6. 今回の裁判は「自然の権利」基金も全面的に応援して進めます
 「自然の権利」基金は、アマミノクロウサギを原告とした「奄美『自然の権利』訴訟」を契機に1996年に設立されました。「自然の権利」運動を応援するとともに、自然保護のために裁判などの法的手段を利用する、全国各地のNGOを応援しています。
 「自然の権利」基金では訴訟のためのカンパを集めています。「自然の権利」基金への支援(入会金3000円、カンパ)は、次の「郵便払込取扱票口座番号」、「加入者名」をお使いください。口座番号「00870−6−185583」、加入者名「泡瀬干潟」。
 是非ともみなさまにご参加いただきますようお願いいたします。

(JAWAN通信 No.80 2005年3月20日発行から転載)