トップ ページに 戻る

いのちの海を埋め立てないで!

〜瀬戸内・長島の海から自然との共生を考える〜

長島の自然を守る会代表 高島美登里

生物多様性のホットスポット 上関

 〈希少生物の宝庫〉
 山口県熊毛郡上関町長島やその周辺海域が世界的に珍しい希少生物の宝庫であり、瀬戸内海で最後に残された生物多様性豊かな場所であることが、長島の自然を守る会と日本生態学会・日本ベントス学会・日本鳥学会などに所属する研究者との共同調査で明らかになってきた。
 主な確認例としては①IUCN(国際自然保護連合)絶滅危惧種であるカンムリウミスズメの周年生息域②オオミズナギドリの世界初の内海繁殖地③貝類の進化の分岐点にあるヤシマイシン近似種の繁殖地④世界で1個体しか確認されていないナガシマツボの産地―などである。
 〈瀬戸内の最後の楽園〉
 “瀬戸内の最後の楽園”と評されるほど、他の地域では絶滅あるいは絶滅に瀕している生物がここでは健全に生息している。鳥類ではカラスバト(環境省R.D.B.準絶滅危惧)・ハヤブサ(環境省R.D.B.絶滅危惧Ⅱ類)、水生哺乳類のスナメリ(水産庁R.D.B.希少)、原索動物のナメクジウオ(水産庁R.D.B.危急)、腕足類のカサシャミセン、植物のキンラン(環境省R.D.B.絶滅危惧Ⅱ類)・ギンラン(山口県R.D.B.絶滅危惧Ⅱ類)・ビャクシンなどである。
 瀬戸内の“小さな太平洋”&“小さな日本海”
 豊後水道から流入した黒潮の影響を受けて、普通は外洋でしか見られない暖流系の海生生物が多産し、“瀬戸内の小さな太平洋”的様相を見せる。貝類のアマクサウミコチョウ(熊本県R.D.B.希少)などが代表的である。一方で、海藻類は低温性の日本海特産種が飛び地的に確認され“瀬戸内の小さな日本海”的様相を呈している。主なものはスギモク群落・オキナウチワなどである。

高島 田ノ浦スギモク3.jpg
スギモク 瀬戸内海で最大の群落

生物多様性のホットスポット”を育む自 然環境

 〈瀬戸内の原風景〉
1960年代の高度成長期に瀬戸内海は埋め立てや護岸工事、海砂採取などの人口改変により多様な生態系をほとんど失ってしまった。そんな中にあって奇跡的にかつての自然環境を残しているのが上関原発予定地長島と周辺海域である。現在、瀬戸内海の自然海岸は21.4%しか残っていないが、上関町長島には75%もの自然海岸が残っている。また、埋め立て予定地である田ノ浦を取り囲む照葉樹林は薪炭林あるいは魚付き保安林として地域住民により大切に利用されてきた。
 〈豊かな田ノ浦の澄水生態系〉
 田ノ浦は海底の湧水量を調べた結果、雨量に換算すると一日最大780 ミリもの集中豪雨のような地下水がわき出ていることが解明された。このような入り江は現在の瀬戸内海では数箇所しか残っていない。湾内の海水温は湾外に比べて低く、スギモク群落など日本海特産種の海藻の生育条件になっている。また豊富な栄養分が供給されることで、海藻の種類も多くプランクトンや稚魚の成育場所である

ナガシマツボ 世界中で上関町田ノ浦の1個体しか確認されていない巻貝

危機に瀕する上関の自然〜

〈 原子炉設置許可も出ないのに埋め立て着工〉
 1982 年の計画浮上以来、対岸約3,8キロにある祝島をはじめとして、約4割に達する地元民の根強い反対運動で諸手続きは大幅に遅れてきた。2008年10月、原子炉設置許可が出ていないにもかかわらず、二井関成山口県知事は公有水面埋め立て許可を出した。2009年4月からは陸域準備工事と称して照葉樹林の大幅な伐採に取りかかった。9月からは海面埋め立て工事に着手しようとしたが、反対派住民や支援者の抗議行動に阻まれ、埋め立て境界線にブイを設置するにとどまっている。
 〈ずさんな環境アセスメント〉
 中国電力はアセス法が施行される直前の1999 年4月末に「環境影響評価準備書」を提出したが、希少生物のスナメリ・ハヤブサ・ナメクジウオ・ヤシマイシン近似種を見落とすなど、内容の不備が多く、再調査を命じられ、建設計画が1年間延期になった。その後もカラスバト・カンムリウミスズメなど希少生物の新たな確認が相次ぎ、長島の自然を守る会や研究者の再三の指摘を受け、追加調査を繰り返している。
 1999 年から現在まで日本生態学会が7度、日本ベントス学会が3度、日本鳥学会が2度にわたって、アセスメントの不十分さを指摘し、やり直しを求めてきた。中国電力も国の管轄機関である環境省や経済産業省もこれに応えていない。2010 年1 月(広島)3月(東京)5 月(山口)と3 学会は連鎖で合同シンポジウムを開催し、2 月15 日には「上関原子力発電所建設工事の一時中断と生物多様性保全のための適正な調査を求める要望書」を3学会共同で提出した。これはきわめて異例のことである。
 〈“ホットスポットではない”との企業宣言〉
 長島の自然を守る会は数十回にわたり、中国電力にアセスメントのやり直しと計画の即時中止を申し入れてきた。ところが中国電力はカンムリウミスズメの保護について「私企業であるので生態系には責任を持てない。」「鳥は飛んで逃げるでしょう。」と公言した。また、3学会共同提出の要望書に対し社長が記者会見で「ホットスポットではないと思っている。」と述べ、企業モラルの低さを露呈している。

カンムリウミスズメ 国際的な指定保護鳥
カンムリウミスズメ 国際的な指定保護鳥

救え!!いのちの海

 〈漸く国政の場で「上関」が取り上げられるように!〉
 昨年10 月に近藤正道参議院議員、今年1月に川田龍平・平山誠参議院議員、5 月連休には山崎誠衆議院議員と国会議員の上関視察が相次いでいる。視察に訪れたか各氏は異口同音に「かけがえのない長島の自然と祝島の人々の暮らしを守らなければならない!!」との思いを深め、国会内での発言や院内集会開催などに心強い支援をもらっている。
 参議院環境委員会では川田龍平・岡崎トミ子の両氏が環境アセスメントのあり方について質問に立ち、5 月11 日の衆議院本会議では山崎誠議員が質問の冒頭に「瀬戸内海に残された生き物の宝庫であり、瀬戸内の原風景を今に伝える、対岸には自然との共生が息付く祝島、ないものにも代えがたいはずのかけがえのない豊かな自然が、そして人々の美しいくらしが原子力発電所建設にともなう埋立工事によりこわされようとしています。」と述べ、環境に対する基本的な考え方として環境と経済の調和について鋭い質問を投げかけた。

ヤシマイシン近似種 繁殖も確認
ヤシマイシン近似種 繁殖も確認


 〈周防の生命圏〉
地元の漁師さんは田ノ浦を「魚たちのゆりかご」と呼んでいる。豊かな餌資源があるから多くの鳥やスナメリも生息でき、漁業で食べてゆくこともできる。田ノ浦は周防の生命圏の中心である。
 湯浅一郎氏によると、瀬戸内海全体の水が90%いれかわるのに1 年半から2 年かかる。このため大量の温排水は瀬戸内海全体に拡散・滞留し、海水温の上昇につながると予測される。実際に海外の研究者は、四国の伊方原発ができてから、瀬戸内海の海水温が上がっていると報告している。上関に原発ができれば伊方原発以上に大きな影響が出ると予想される。また温排水には原子炉内に貝などがつかないようにするための塩素処理水が含まれており、魚の卵や稚魚にも影響があるので沿岸漁業すべてにとって非常に大きなダメージが予想される。上関原発計画は“いのちの海”を殺す。
 〈COP10に向けて〉
 長島・祝島は生物多様性豊かで持続可能な自然との共生が実現している、まさにCOP10のモデルとして日本が世界に誇るべき地域である。上関周辺海域を含む瀬戸内海の環境保全が国家戦略の中に明確に位置づけられ、上関原発計画が中止されるよう、世論の後押しを期待する。


(JAWAN通信 No.97 2010年7月10日発行から転載)

>> トップページ >> REPORT目次ページ