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東京湾 三番瀬をめぐる新たな局面

中山 敏則 (三番瀬を守る連絡会 代表世話人)


 東京湾奥部に残る貴重な干潟・浅瀬「三番瀬」に再び危機が迫っている。
 森田健作千葉県知事が「三番瀬再生会議」を解散し、人工砂浜造成のスピードアップ化を表明したからである。

■住民参加「三番瀬再生会議」を解散

 森田知事は昨年12 月、知事の諮問機関である「三番瀬再生会議」を解散した。再生会議は徹底した住民参加と情報公開が売りだった。三番瀬埋め立てに反対した自然保護団体の代表も委員に加わっていた。
 県は、再生会議に代わる組織として、行政が主体的に再生事業を進めるための新たな推進体制をつくる。また、その助言組織として「専門家会議(仮称)」を立ち上げる。この会議は知事の諮問機関ではなく、助言をするだけである。さらに、住民や自然保護団体の代表は排除され、少数の専門家だけで構成される。

中山三番瀬の干潟分布地図

■泥干潟の人工砂浜化をめざす

 県が再生会議を解散した目的は、「干潟的環境の形成」という名で「人工干潟」(人工砂浜)造成のスピードアップを図ることである。対象は、市川側の猫実川河口域である。
 その真のネライは、三番瀬に第二東京湾岸道路を通すことである。この道路は、埋め立て地はほとんど用地が確保されているが、三番瀬で中ぶらりんになっている。猫実川河口域だけはどうしても通さないと道路建設が不可能である。そこで、猫実川河口域を人工砂浜にし、その造成工事の際に道路を埋め込むというものである。
 しかし、猫実川河口域は、三番瀬の中で最も生物相が豊かである。大潮の干潮時には広大な泥干潟が現れる。魚類の産卵場や稚魚の生育場でもあり、東京湾漁業にとって大切な“いのちのゆりかご”となっている。
 この海域には、三番瀬の他の環境条件には存在しない底生生物が多く発見されている。泥干潟特有のアナジャコもたくさん生息している。カキ礁とその周辺からは、普通の干潟では考えられないような多種多様な生物も次々と発見されている。この海域を人工砂浜に変えれば、三番瀬の生態系や生物多様性を破壊するだけでなく、東京湾の環境にも大きな影響をおよぼす。それは、諫早湾の泥干潟がつぶされたために有明海が“死の海”になったことでも明らかである。

猫実川河口域の泥干潟。左の黒っぽいのはカキ礁
猫実川河口域の泥干潟。左の黒っぽいのはカキ礁

■2月県議会で3会派が懸念を表明

 そのため、先の2月定例千葉県議会の代表質問では、全5会派のうち3会派が県の姿勢を質した。
 湯浅和子議員(民主党)は、「三番瀬は千葉県が誇る干潟・浅瀬である」「何十万年もかけてつくられてきた自然を相手にする事業なので、県民と専門家が十分な時間をかけて調査や実験を行い、慎重のうえにも、より慎重に再生事業を進めていくべきだ」とクギをさした。
 丸山慎一議員(共産党)はこう述べた。
 「(猫実川河口域は)三番瀬の中で最も生物相が豊かである。市民調査の会のみなさんが毎月やっている市民調査などでは動物195種、植物15 種が確認され、本当にすばらしい自然が残されている」「人工干潟が造成されれば、泥干潟の生態系は死滅する。県民の不安を払しょくするためにも、人工干潟の造成はやらないと宣言すべきだ」「湾岸地域の東京・千葉断面の交通量が減ってきているいま、はじめに3環状9放射のネットワークありきの発想は止めて、第二湾岸道路の計画は中止すべきだ」
 大野博美議員(市民ネット・社民・無所属)は次のように述べた。
 「事業内容を見ると、実質は砂の投入による人工ビーチ化を推進するものに過ぎない。しかし、猫実川河口域は泥干潟であり、三番瀬の他の底質と異なる。生物相も他と異なり、より豊かな生態系がみられ、陸域からの汚濁負荷の浄化などで大きな役割を果たしている。この泥干潟を人工ビーチ化することは、三番瀬の環境改善、漁場再生どころか、生態系や浄化機能を壊すこととなる」
 大野議員はまた、三番瀬で緊急に求められていることは、人工砂浜造成ではなく、三番瀬の貝類に甚大な被害をもたらしている青潮対策や、大雨時に行徳可動堰が開放されることによる淡水・汚泥・ゴミの一挙流入対策、さらには江戸川からの真水の常時流入をはかることである、と強調した。

■市民調査結果を小冊子に

 千葉の干潟を守る会や三番瀬を守る会など、「三番瀬を守る連絡会」を構成する三番瀬保全団体(9団体)は、なんとしてでも三番瀬の破壊を防ぐため、さまざまな団体・県民などと連携を深め、保全運動を強めることにしている。
 「三番瀬市民調査の会」(伊藤昌尚代表)はこの2月、8年間におよぶ市民調査の結果をまとめ、小冊子『三番瀬・猫実川河口域は“宝の海”』を発行した。たいへん好評であり、発行後2週間で1300 部が売れた。私たちは、この小冊子を猫実川河口域の人工砂浜化阻止に活用することにしている。

(JAWAN通信 No.99 2011年3月31日発行から転載)

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