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ラムサール条約湿地「琵琶湖」について

植田 潤 (湖北野鳥センター/琵琶湖水鳥・湿地センター)

 琵琶湖はその流域面積や周囲の人口、湿地をめぐる生活文化・歴史などどれをとっても国内最大規模のラムサール条約湿地と言っても過言ではないでしょう。これら複雑にからみついた要素が、環境保全や開発のまさつ、様々な課題の掌握を難しくさせています。
この様々な側面を持ち合わせる琵琶湖を見ることは、ラムサール条約の掲げる「湿地の賢明な利用と保全・再生」を考える上で欠かすことのできないのではないかと思っています。

環境に対する意識の転機

 1972年より琵琶湖の利水と治水の目的で「琵琶湖総合開発」というものが始まりました。この大規模な開発計画が琵琶湖の生態系に、大きな変化をあたえたと言われています。そのひとつが、淡水赤潮の発生です。一気に意識が琵琶湖に集中しました。それまで当たり前にあった琵琶湖の恵み(水環境や生態系)というものが、実はさまざまなバランスのもとにうまく保たれてきていたものだったのだと気付かされた瞬間でした。
 この琵琶湖での淡水赤潮発生を転機に、琵琶湖や環境に対する意識が大きく変わりました。赤潮発生で、勢いを増した「石けん運動」は有名です。当時私は小学生でしたが、「琵琶湖を守ろう!」「水を汚さないようにしよう!」というフレーズは、合言葉のように様々な場面で目にしていました。

琵琶湖(1993年より条約湿地に登録)

ラムサール条約と琵琶湖

 環境に対する意識の変化から琵琶湖の環境を再生・保全するために様々な取り組みがなされました。特に湖の水質だけにとらわれず、ヨシ群落や琵琶湖集水域の森林に対する保全・保護まで広がりを見せています。
また、滋賀県が「琵琶湖ルール」というものを設け、その中で琵琶湖岸の利用地域と保護地域を分ける条例をつくりました(滋賀県琵琶湖のレジャー適正化に関する条例)。この条例は、プレジャーボートのエンジンによる騒音や越冬期の水鳥保護の面から設定されているものです。しかし、結果的に湖岸の利用区分を分けることとなり、湖岸水域の生物群集の保護に大きく貢献していると言えます。
 ラムサール条約湿地となり、琵琶湖の水鳥への関心は高まりました。しかし、まだまだ湿地の保全や賢明な利用が適切になされているとは言い難い状況です。また、ラムサール条約が、水鳥の生息環境保全のための条約であるという位置づけがいまだ一般的です。なかなか行政やNGOの取り組みの中でも、ラムサール条約が効果的に用いられる機会が少なく、大きな課題となっていることは確かです。
 2008年、琵琶湖につながる内湖のひとつ西の湖が拡大登録されました。西の湖は琵琶湖を凝縮したような存在です。規模の小さい西の湖での取り組みや課題などが、琵琶湖へ反映できるかもしれないと期待しています。

新たな転機?

 琵琶湖岸のヨシ原では6月頃コイやフナ、モロコなどの産卵を見ることができます。最近、産まれた卵が、孵化しないでそのまま死んでしまうという現象が見られるようになってきました。原因は水質なのか、その他の要因によるものかまだわかっていません。私の知り合いの漁師さんは「琵琶湖の中で目に見えない変化が起こっているのではないか」と危惧しておられます。
 バクテリアや細菌類など目に見えない生き物たちも生態系の中で重要な役割を果たしています。今までと視点を変えて水環境というものを見ることが必要になって来ているのかもしれません。重要な生態系という湿地の保全・保護について、琵琶湖はまだまだ一歩を歩みだしたばかりです。

ヨシ群落の中でコイの産卵
(JAWAN通信 No.101号 2012年1月31日発行から転載)

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