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有識者会議による
ダム検証システムの欺瞞

遠藤保男 (水源開発問題全国連絡会共同代表)

■コンクリートから人へは頓挫

 2009 年8 月、政権交代が実現したときは「コンクリートから人へ」の道が開けると私も喜んだ。水源連の分野でいうならば、「ムダなダム事業の徹底見直しがやっと実現する」という期待である。それは「出来るだけダムにたよらない治水・利水」という河川行政の路線転換である。
 私が水源連に関わっている一番の動機は、さしたる必要性もないダム事業によって生活と地域社会が破壊されることを拒否するダム予定地住民の悲痛な叫びである。ダム事業がまともに見直されるのであれば、「ダム事業中止」という結果に至るはずである。「ダム予定地住民が長年の苦しみから解放される!」、これを現実のものにするには政権交代は不可欠であった。
 鳩山内閣発足直後は「川辺川ダム中止、八ッ場ダム中止、全ダム事業凍結して見直し!」と勢いがあった。この目標に向かって実務作業に入るや、見直しへの勢いは減速どころか逆さかさまへと舵が切られていった。当時の国土交通大臣・前原誠司氏の真意がどこにあったのだろうか?

 前原国交大臣は「出来るだけダムにたよらない治水・利水」を目指すとして、「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議」(以下、有識者会議と記す)を立ち上げた。なんとこの会議は法的裏付けのない大臣の諮問機関に過ぎないのである。
 しかも明確なダム疑問派を、委員構成から除外していたのであるから、「出来るだけダムにたよらない治水・利水」が論議されるわけがない。
 その上、会議はマスコミ以外には非公開なのである。国会議員も傍聴を許されなかった。もうこれでは過去への逆行を宣言したのも同然のことである。
 私たちは全国百を超える住民団体の皆さんとともに、「有識者会議委員の再人選」、「会議の全面公開」を前原国交大臣に何度も求めたが一顧だにされなかった。複数の与党議員も前原国交大臣に「有識者会議委員の再構成」、「会議の全面公開」を何度となく上申されたが、その都度、最後は「私を信用してください」で終わっている。
 これまでの河川行政のあり方を根底から変えるには一大臣の諮問機関ではなく、公的機関として公開が義務づけられている社会資本審議会河川部会がふさわしかった。

■ダム検証システムの欺瞞

 時間の経過に従って問題は顕著になる。
 2010 年に国土交通省がダム事業者に求めた検証検討は、国土交通省が作成・配布した「ダム事業の検証に係る検討に関する再評価実施要領細目」に基づく検証検討であった。

第1 目的
本細目は、「国土交通省所管公共事業の再評価実施要領(以下「実施要領」という。)」に基づき、平成22 年9月から臨時的にかつ一斉に行うダム事業の再評価を実施するための運用を定めることを目的とする。

 その細目には上の囲みに示すように、検証検討本来の目的「『できるだけダムにたよらない治水』への政策転換」が一切記されていなかった。①事業の必要性を検証した上で、②ダムなしの代替案をいくつか立てて、③従前のダム事業案と複数の代替案それぞれの実現性、事業費等の経済性などを踏まえ、④それぞれの総体的な評価をおこない、⑤その中で最も有利な事業を選択して国土交通省に報告する旨が手順として記載されていた。
 事業費等の経済性の評価にあたっては、現事業の残事業費と代替案事業費との比較とされているので、進捗度が高い事業が高い評価を受けるに決っていた。検証検討の手法としてダム事業の関係自治体と事業者による検討の場での意見聴取に重きが置かれた身内での見直しであること、整備目標水準が河川整備計画程度とされていたことなどから、事業の必要性については「既に確認済み」とされ、「早期完成」の合唱の場になった。
 「破堤しにくい堤防」という選択肢は全ての事業体が「実現性なし」として切り捨てた。
 これまでの方向に批判的な意見が委員から出されても、それがきちんと審理されることはなかった。各事業者から国土交通省に報告された検証結果は、中止・継続共に事業者のそれまでの方向性を踏襲したものばかりであった。事業者がダム推進であれば、「見直したがやはりダム」という検証結果報告が相次いだ。
 再評価実施要領細目では住民の意見・有識者の意見を聞くことも事業者に求めてはいた。事業者による検証検討結果報告素案に対する流域住民からのパブリックコメント募集、ダム予定地住民等関係者の意見発表(公聴会開催)等を実施した。
 しかし、ともに事業者は、「細目に書かれていることはやりました」、「流域住民・関係者からのご意見はいただきました」に終始し、すべてが「聞き置く」という扱いになっている。
 この検証検討作業は国土交通省の公共事業の再評価実施要領に基づくとされていたことから、各事業者はそれぞれの事業評価監視委員会に検証検討結果を報告し、了解をもらう仕組みになっている。
 それぞれの事業評価監視委員会で、委員が事業者の報告に異論を出しても審議されることはなく、委員長が再調査等を求めることもなく、事業者の報告を追認するかたちでまとめるのみであった。各事業評価監視委員会も事業者が委員を選任する構造なので追認機関として機能し、チェックがかかることはあり得ないのである。
 事業者からの検証検討結果が、国交省に報告されると、国土交通大臣は①事業者から受けた報告を有識者会議にかけ、②有識者会議の意見を受けて直轄ダムと水資源機構事業ダムについては今後の方針を、補助ダムについては補助金交付継続か中止を、決めている。
 有識者会議が検証したのは「有識者会議が示した共通的な考え方に沿った検証がなされているか否か」のみであった。
 「検証方式妥当」を受けた国土交通大臣は「継続」もしくは「中止」「再検証」等の判断をくだす。事業者からの報告が「継続」で有識者会議が「検証方式妥当 継続」と答えれば、「今後の治水対策のあり方に関する有識者会議のご意見を踏まえ、検討内容は、パブリックコメントを行った際に有識者会議が示した考え方に沿って検討されたものであると認められる。
 事業者の方針決定が「中止」である場合は、国交大臣の決定とその理由は上記の「継続」が「中止」に置換されているだけである。
 (島根県の矢原ダムと波積ダムについては、有識者会議が再検証を事業者に求めた。)

■事業者追認の象徴「石木ダム事業」

 「事業者追認」を象徴したのは、石木ダム事業がかけられた昨年2 月23 日の有識者会議であった。石木ダム事業はその完遂を図るために事業認定申請が長崎県から九州地方整備局に2009 年に出されている。 
 有識者会議の進行次第では土地を奪われることに道を開かれてしまう反対派地権者がその進行を見届けようと現地長崎から傍聴に駆けつけた。しかし有識者会議は反対派地権者とその支援者を会議室に近づかせぬために職員を大動員して館内廊下にピケを張ったのである。
 この日の有識者会議では鈴木雅一委員が、「石木ダムの検証は有識者会議が示した共通的な考え方で評価されていない=土地所有者等の協力の見通しが明らかにされていない」と当然の異論を呈したが、「石木ダムについてはあわせて長崎県に『石木ダムに関しては、事業に関して様々な意見があることに鑑み、地域の方々の理解が得られるよう努力することを希望する』旨を通知する」としながらも、事業者の検証報告「石木ダム事業推進」に追認を与えた。
 こんなことでは「できるだけダムに依存しない治水・利水」は望む可くもない。大きな世論を盛り上げて、徹底検証を勝ち取るのが私たちの喫緊の使命である。

■「公共事業徹底見直し実現」に向けての市民運動

 民主党政権が自公政権に換わった。財源は消費税増税による増収を当て込み、その内容は3.11 東日本大震災につけ込んだ「国土強靱化法」が閣法として国会に再上程されるのは時間の問題である。
 既存施設の補修・更新が新たに盛込まれるとしても、その本質は公共事業バラマキである。私たちにはこの「国土強靱化法」に対抗する運動を早急に構築することが求められている。
 この1 月に、これまで公共事業問題に関わってきた諸団体が結束して「公共事業改革市民会議」を結成した。公共事業のあるべき姿、すなわちその内容と手続きについて検討し、成案ができ次第ひろく提案してその実現を目指すことにしている。
 「もはや新たな公共事業はあり得ない」「国民の意思を反映した事業決定と見直し」を中心に据え、「公共事業徹底見直し実現」に向けて結集しようではないか!!

11階の通路は全て封鎖
11階に到着すると各所20人もの人垣でピケを張り我々の移動を阻止する。背後にも同数以上の職員が包囲する

(JAWAN通信 No.104号 2013年2月15日発行から転載)

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