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三番瀬・猫実川河口域は“宝の海”

〜市民調査で証明〜

三番瀬市民調査の会 事務局長 中山敏則

 三番瀬(さんばんぜ)は東京湾奥部に残る唯一の自然干潟と浅瀬である。千葉県が1993年に策定した三番瀬埋め立て計画は、反対運動や30万署名、そして「これ以上埋め立てないで」という県民世論の高まりなどにより、2001年9月に白紙撤回された。しかし、千葉県は三番瀬の開発をあきらめていない。浦安寄りに位置する猫実川(ねこざねがわ)河口域を「干潟的環境形成」の名で人工干潟(人工砂浜)にすることをめざしている。目的は、この海域に第二東京湾岸道路を通すことである。そこで三番瀬保全団体は、猫実川河口域を守るため2003年に「三番瀬市民調査の会」(伊藤昌尚代表)を設立し、調査をつづけている。遊船協会が市民調査を支援し、モーターボートを何艘もだしてくれている。

図

*東京湾の生命維持装置

 調査は、3月から9月にかけて月1回実施している。調査項目は、生き物、カキ礁、アナジャコ巣穴数、酸化還元電位、強熱減量、塩分濃度、透視度などである。調査員のほか、学者、研究者、大学生、弁護士、議員、記者なども参加している。その数は300人を超える。
 かつて、地元の市川市などは猫実川河口域を「ヘドロの海」と呼んでいた。だが、市民調査によって、この海域は三番瀬の中でもっとも生物相豊かな海域であることが証明された。そのため、「ヘドロの海」と言うものはいなくなった。
 猫実川河口域は魚類の産卵場や稚魚の生育場であり、東京湾漁業にとって大切な“ゆりかご”となっている。東京湾で巻き網漁を営む大野一敏さん(前船橋市漁協組合長、船橋市観光協会会長)は、「三番瀬は東京湾の生命維持装置。ここが死んだら湾が死ぬ」と強調している。また猫実川河口域について、「海にいろいろな生き物がいないと漁業は成り立たない。あそこが埋まったらゲームオーバーだ」と警鐘を鳴らす。
 猫実川河口域には約5000㎡の天然カキ礁が存在する。無数のアナジャコも生息する。それらが市民調査ではじめて明らかになった。それをマスコミが大々的に報じてくれた。市民調査は、人工干潟化と第二湾岸道路建設を食い止めるうえで重要な役割を果たしている。

写真1
モーターボートを降りてカキ礁に渡る。右後方は浦安市のマンション群
写真2
カキ殻の中に卵をびっしり産み付け、それを守っているチチブ
=6月15日、青山一さん撮影
写真3
チチブの卵を拡大鏡で見ると目玉がみえる=青山一さん撮影

*大学生が33人参加

 2004年以降、猫実川河口域のカキ礁周辺で動物161種、植物17種(ほかに野鳥39種)を確認した。千葉県が2004年11月から05年7月にかけて実施した生物調査結果では、この海域で動物195種、植物15種が確認されている。そのなかには、県レッドデータブックに掲載されている絶滅危惧種も、ウネナシトマヤガイ、エドハゼなど11種が含まれている。
 昨年と今年の調査には法政大の学生33人も交替で参加した。干潟に足を踏み入れるのは初めてという学生ばかりだ。こんな感想がだされた。
 「カキ礁が多様な生き物の住処(すみか)になっていて、それぞれが共存関係にあることがわかった。こんなところが埋め立てられたらさびしい」
 「絶滅危惧種や希少種がたくさんいるのを知り、びっくりした。たくさんの生き物がいる場所は大切にしなければ、と思う」

写真4
調査の合間に泥干潟の上で記念撮影 =7月13日
(JAWAN通信 No.108 2014年8月31日発行から転載)

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