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釧路からアジア、そして南米へ

釧路公立大学 小林聡史(JAWANアドバイザー)

 10月5日(日)、釧路のNPO法人「トラストサルン釧路」主催による植林事業にゼミ生と参加した。
 前日は雨だったので少し心配だったが、植林当日は見事な快晴となり、60名ほどの参加者が二手に分かれて、ドングリ拾いやら植林作業やらを実施した。ゼミ生のひとりが当日は親と一緒に参加するので、ゼミ生のグループとは別行動になるかも知れないと言っていた。確か、彼は静岡出身なので、親がわざわざやって来ているのだろうかと不思議だったが、富士ゼロックスという会社がボランティア活動をやっている「端(は)数(すう)倶楽部」のメンバーだということだった。地元の「こどもエコクラブ」の人たちや一般参加者、札幌や東京などからの参加者もまじえ、午前中いっぱい作業を行った。
 今年はドングリの豊作年とのことで、ミズナラのどんぐりがたくさん落ちていた。拾ったものを苗畑で育てたミズナラなどを今度はせっせと植林する。根っこの多い場所に穴を掘るのはちょっとしたコツがいるのだが、なれてしまえば作業は早い。教員と学生で16名の部隊でかなりの本数を植えることができた。
 さて、植林の方はゼミ活動として参加したが、今度は有志によるタンチョウの冬季採餌場作りのお手伝いを実施した。10月18日(土)、卒論でタンチョウ保護の課題について考えている3年生女子の呼びかけで数名がボランティア参加することになった。タンチョウは冬になると釧路湿原北部、鶴居村や釧路市阿寒町にある給餌場に大部分が集まってくる。まだ給餌をやめることはできないと考えられているが、鳥インフルエンザなどの要因を考えると集中していることは好ましくない。できれば冬もタンチョウたちが自ら餌を採るようになって欲しい、そのために採餌適地の整備を少しずつ行っている。「日本野鳥の会」鶴居伊藤タンチョウサンクチュアリの職員とともに、湿原北部で川辺のやぶ払いを実施する。冬になっても凍結しない河川で、タンチョウが小魚などの餌を探しに川の中へ入っていけるよう通り道を作るためだ。2週間前はスコップで植林をし、今回はノコギリで木の枝を払う作業である。どちらも自然保護に役立つということを学生は理解してくれるだろうか。腰まである胴長(ゴムのつなぎ+長靴が一体となったもの)を履いて、水の中での作業だ。この時期を逃すと、冬の早い釧路地方では寒すぎて作業が困難になってしまう。この日はおにぎりを食べ、夕方まで作業を行った。
 もうひとつ、今度はエゾシカによる食害を卒論に考えている学生を調査助手として、再び釧路湿原北部の標茶町に向かった。10月31日(金)、シカの食害に悩むという牧場を訪れ酪農家の方に聞き込み調査を実施した。これまでの環境省の調査では、シカの群れは釧路湿原の中央にも頻出するようになっており、絶滅危惧植物であるヤチツツジなども食べ始めている。10月上旬には酪農学園大学が釧路湿原内でエゾシカを捕獲し、発信器をとりつけている。
 今後、季節的な移動や冬季の利用場所などを調べることになっている。また、北海道立総合研究機構では、将来的なシカの間引きがタンチョウなどの希少生物に悪影響を及ぼさない手法を検討する。こちらは様々な利害関係者(ステークホルダー)の意見収集を実施する。日本国内の湿原、そしてラムサール条約登録湿地では初めての試みである。先日、ラムサール条約のメーリングリストである「ラムサール・フォーラム」に他の国で似たような事例、シカなどの有蹄類の個体数調整と湿地における絶滅危惧種保護のバランスをとる試みについて問い合わせてみた。条約関係者はじめいろいろと情報をもらってはいるが、いまのところ同様の事例は報告されていない。まだわからないが、ひょっとしたらラムサール条約がらみでは世界初かも知れない。

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アジア湿地シンポジウム/ラムサール条約アジア地域会合
:参加者とともにトンレサップ湖へ

☆アジア湿地シンポジウム/アジア地域会合

 ラムサール条約の締約国会議(COP)が近づくと、アジアでは「アジア湿地シンポジウム」が開催されるし、世界各地域では条約による地域会合が開催される。今回はアジアでこの2つが同時開催されることになった。11月3日(月)〜7日(金)までカンボジアのシエム・リアップという町に行ってきた。世界遺産アンコールワットのお膝元の町である。しかしながら公式スタディツアーは、遺跡巡りではなくて、インドシナ半島最大の淡水湖、トンレサップ湖を訪れた。
 雨季と乾季の面積が3000〜1万6000平方キロと極端に異なり、最小でも日本最大のラムサール湿地、琵琶湖の4倍程度だ。当然、湖岸の位置も数十キロも移動してしまう。そのため、水上生活者が湖上に村(浮遊村)を形成している。15年前に初めて訪れた時は、水上生活者の数は100万人と言われてびっくりしたのを覚えている。
 会議はイランなどの中近東(ラムサール条約では西アジアという位置づけ)を含むアジア地域の事例報告(シンポジウムの要素)と、条約事務局職員が中心となって来年のCOP12で議論される『決議案』についてアジアの視点から意見をまとめる議論の部分(地域会合)とが行われた。湿地保全に頑張っている自治体や地域住民に賞を与える仕組みを作ろうという決議案に韓国政府代表が積極的支援を呼びかけたが、日本政府代表が煩雑になる作業や混乱の可能性に懸念を表明するなど、本会議までの調整が難しそうな案もあった。アジアは条約では6つの地域の一つだが、人口では世界の半分以上ですから。
 ラムサール条約の次回COPは2015年6月上旬に南米初となるウルグアイで開催される。その前に釧路では来年早々、条約と関係が深い、東アジア〜オーストラリア地域の渡り鳥フライウェイのワークショップが開催される。1月中旬の釧路はかなり寒いが、足を伸ばせば給餌場でタンチョウの群れを観察することができる。ウルグアイはさすがに遠いでしょうけど、冬の釧路を未経験の人はぜひ釧路に足を運んでみてください。

(JAWAN通信 No.109 2014年11月30日発行から転載)

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