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ラムサール条約第12回締約国会議(COP12)の特徴

〜テーマは「未来のための湿地」〜

釧路公立大学環境地理学教授 小林聡史

ラムサール条約COP12開会式の様子

 2015年6月1日月曜日、南米初となるラムサール条約COP(締約国会議)がウルグアイで始まった。大西洋に面したリゾート地プンタ・デル・エステ(東の岬という意味)、コンラッド・ホテルが会議場だ。1986年に関税と貿易に関する国際交渉、ウルグアイラウンドが開催されたのもこのホテルという話だ。
 前日、会場受付には1993年の釧路会議からずっとラムサールCOPに参加している条約事務局の女性職員がいた。彼女も私もCOPはこれで8回目だね、という話をしていたら、オーストラリアNGO代表も通りかかって、「私も8回目、まあこれで最後にしようかな、とも思っているんだけど…」とどこまで本気なのかわからない発言を笑顔でしている。小耳に挟んだ条約事務局の職員が「冗談でしょ、次回はドバイでもっと近いんだからぜひ参加して」と和やかな雰囲気になった。私が条約事務局にいた頃は、COPの最後に次回開催地の発表がされていたが、今回はすでに次回開催地が決まっていた。
 会議初日は、条約の常設委員会が開催されていた。午後からは地域会合が開催されたので、アジア地域会合に参加してみた。次回開催地であるアラブ首長国連邦政府代表が議長をやっていた。若いのに、英語も流暢(りゅうちょう)で湿地に関する専門知識をもっている。これならば次回のCOP準備や運営は問題なさそうだ。
 しかし、それよりも今回のCOP時間割、2日目の午後4時から開会式というスケジュールになっている。実質的な協議は常設委員会や地域会合で始まっているとはいえ、2日目の夕方から本会議ということは、全9日という枠組みはこれまで通りだが、本会議自体は従来より少なくとも1日半、開会式を除くと2日間分も会議全体の長さが短くなっていることになる。今回は採択予定の決議案の本数も少なめにまとめてあるが、ふたを開けてみるまでわからないのが本会議なので、少し心配ではあった。
 案の定、会議運営がうまく行われたとは言えない状態となった。今回のCOPでは事務局長、事務局次長、さらにCEPA(広報等)担当官も、新人かつラムサール条約の外からのリクルートという、異例の幹部陣営による初めてのCOPとなっていた。いや、むしろこういった状況にもかかわらず、よく頑張ったものだと言えるだろう。 決議案ごとの協議をするための小委員会が開催され、水面下で意見の調整をすることになったものの、どの小委員会がいつどこで集合するかのアナウンスが混乱した。また、本会議での協議用最新決議案が、ひとつ前のバージョンだったり、決議案をダウンロードするためのウェブサイトがアクセスできなくなったり、古いバージョンがアップされたままだったり、議長たちが頭を抱えるシーンが度々あった。まあ、COP運営に関しては次回は大幅な改善がなされることだろう。
 各国政府にとって、各国拠出金による条約運営の方向性は当然ながら重要であろう。しかしながら個人的には、数字羅列が付属する、予算枠組みに関する決議が第1番目の決議となる最近の傾向は何とかしてほしい。COPの成果を問われたときに、目玉となる決議が最初に登場する一昔前の並び方の方がいいのではと思う。
 条約事務局の新執行部が力を入れた新しい『戦略計画(2016年から24年までが対象)』が決議2として採択された。これまでより長い期間を対象とした一方、内容的にはコンパクトにまとめられていると思う。我が国が今後9年間、次のCOPまでに国内登録湿地を何カ所増やそうという話以外で、戦略計画を基に国内の湿地保全全体の底上げを出来るのか見守っていきたいと思う。
 2015年を目標にした「ミレニアム開発目標」や気候変動枠組み条約の今後の取り組みにどう対応していくのか、他の地球規模での条約や活動とのかかわり方を模索していく一方で、個々の湿地保全をどう担保していくのか。乗員ひとりひとりの健康に配慮しながら荒波の中を舵取りしなければならないという難しい時代となってきている。
 2000カ所を越える登録湿地の話が出来ないのは無理もない。しかし、個別湿地の話がほとんどされることのなかったラムサールCOP12は、特に世界各国から参加していたNGO代表たちには物足りなかったかも知れない。地に足のついた活動を、という声は条約事務局にも届いている。
 7月1日から、条約事務局次長アニア・グロビッキー博士率いる登録湿地保全のための条約調査団が、北欧ノルウェーのティーリーフィヨルド湖地域を訪れている。予定されている自動車道路と高速鉄道網の建設が登録湿地に悪影響を与えないか評価した上で、ノルウェー政府と話し合いをするためだ。ノルウェーは63カ所の登録湿地を指定しているが、モントルーレコードに掲載して危機的状況を訴えている湿地は1カ所もない。しかしながら、問題の重要性から政府の要請/招待によって調査団派遣となったものだ。予定では報告書は9月に完成、全世界に向けて公開されることになっている。
 ラムサールの条約事務局長クリス・ブリッグス氏も日本を度々訪れ、その中には中池見湿地視察も含まれていた。メッセージは明らかだ。ラムサール条約では個々の湿地保全がうまくいってこそ、地球環境全体を視野に入れることが出来るのだ。

日本からは新たに4カ所の登録湿地が指定された
(JAWAN通信 No.112 2015年8月30日発行から転載)

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