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■シンポジウム「日本の湿地を守ろう 2016」報告要旨

瀬戸内海の現状と今後の課題

環瀬戸内海会議 事務局長 松本宣崇さん
写真6-1

 環瀬戸内海会議(環瀬戸)は1990年6月、ゴルフ場・リゾート乱開発に危惧した市民住民団体によって、「瀬戸内海を毒壺(どくつぼ)にするな」を合言葉に結成された。バブル経済の真っただ中であった。
 以来、立木トラストを展開し、ゴルフ場開発やリゾート乱開発の歯止めに一定の役割を果たしてきた。しかし、それは環境破壊への一因をほんの少し減らしたにすぎなかった。果たして瀬戸内海の環境は守られているか、という問いに直面したのである。
 

◆瀬戸内法改正

 1996年、産廃不法投棄とたたかう豊島(てしま)と出会い、産廃持ち込みの深刻な状況を目の当たりにした。以来、わが国最初の「海の環境法」である瀬戸内法(瀬戸内海環境保全特別措置法)の検証を進めてきた。瀬戸内法は瀬戸内海の環境保全に役立っているのか、ということである。
 検証の結果、市民による瀬戸内法改正試案を公表した。そして2003年以降、①産業廃棄物の持ち込み禁止、②海砂採取禁止、③埋め立て禁止、の3項目を瀬戸内法に明記するよう法改正を求め、全国的な署名活動を展開した。国会議員へのロビー活動もつづけた。しかし、内閣交代や国政選挙が相次ぐなかで停滞をよぎなくされた。
 2007年、兵庫県漁連の提起を受け、瀬戸内海環境保全知事市長会議が「瀬戸内法改正」の署名に乗りだした。その内容は私たちの主張と異なるものだった。そして2013年、自民・公明両党の議員だけで「瀬戸内海環境議員連盟」を立ち上げ、両党が14年6月に改正案を上程するというように急展開した。
 自公改正案は、過去の埋め立ての検証もなく、規制法を事業実施法に変えるものであった。また、富栄養化条項を削除するなど、大きな問題を内包していた。
 環瀬戸は、民主、共産、社民、維新などの議員を通してこれらの問題点を指摘した。また、自公改正案の修正を求めた。その結果、自公改正案を修正し、付帯条項を付けた改正法が15年9月の通常国会で成立した。
 付帯決議では、「埋め立てを厳に抑制すべきものとした従来の方針に鑑み、未利用地や既存施設の活用が新たな埋め立てに優先して行われることとなるよう、地方公共団体に対し、情報提供等必要な措置を講ずること」などの文言が盛り込まれた。今後は、この付帯決議をどう生かすかが課題となる。
 

◆辺野古埋め立て土砂搬出反対

 辺野古埋め立て用土砂を西日本各地からの採取・搬出するという計画が2013年5月に明らかになった。
 この年の12月24日、私たちは沖縄県知事と環境・防衛両省に対して採取計画の中止を申し入れた。しかしその3日後、当時の仲井真沖縄県知事が辺野古の埋め立てを承認してしまった。
 私たちは2015年5月、奄美大島で「辺野古土砂搬出反対全国連絡協議会」を設立した。協議会の参加団体は18団体である。採取地とされるすべての地域の団体が加わっている。辺野古の埋め立て資材「ケーソン」の製造に反対する三重県の市民団体も参加した。
 2015年10月、土砂搬出に反対する署名5万2429人分を総理大臣に提出した。今年4月は沖縄で学習交流集会を開いた。

◆瀬戸内海沿岸の海岸生物調査

 環瀬戸は、埋め立てとの関係で瀬戸内海沿岸の海岸生物調査も進めてきた。
 瀬戸内海では自然海岸が20%ぐらいしか残っていない。海水浴場のほとんどは、養浜事業と称して各地から砂をもちこんでいる。
 海岸生物調査の参考資料として唯一あったのは、故藤岡義隆氏の調査「地点別・総種類数の年次変遷」である。これは、広島県呉市周辺の沿岸6カ所の生物種類数を1960年から調査したものである。
 環瀬戸は、生物にくわしい知識をもっていなくても市民が気軽に調査に参加できることをめざしている。夏場の大潮の日に、岩礁帯ではイボニシとカメノテの個体数を、干潟・前浜では無作為に選んだ1㎡内のアサリの個体数を数える。このほかに可能なかぎり生物種を確認していく手法をとっている。
 この調査結果は、30年、50年の積み重ねのなかで重要なデータとして残っていくのではないかと思っている。

図6-1
(JAWAN通信 No.116 2016年8月20日発行から転載)

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