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諫早湾に春を

諫早湾しおまねきの会 大島弘三

 2017年4月17日、長崎地方裁判所は原告農業者の訴えを認め、「開門差し止め」の判決を出した。
 すでにこの裁判の仮処分の判決が2013年11月に同じ裁判長から「開門差し止め」で示されており、結果は予測されていたが、その判決の根拠をみるとまさに、この20年間の冬の季節がまだまだ続くのか、との思いが募る。
 基本的なことからおさえておくと、すでに2010年12月、福岡高裁で「開門しなさい」との判決があり、国が控訴せず確定している。裁判所の判決には誰でもしたがわなくてはならない。世界中、どこの国でも当たり前のことが、この国では通らない。世の中には、金の支払いを裁判所から言い渡されて無視する輩もいるそうだ。日本国政府がその程度の「輩」とは、恥ずかしい限りである。お隣の国に「国際法を遵守しない…」などとのたまう前に、シッカリと国内法にしたがって施策を実行するのが国の責任である。

1.これまでの経過

 今年で閉め切り20年が経過した。簡単に経緯を振り返ってみる。 1997年4月諌早湾閉め切り(ギロチン) 2001年12月養殖ノリの被害を受けて、第三者委員会が中長期開門調査を答申 2007年11月諌早湾干拓工事完了 2008年4月営農開始
 主な裁判の流れを見てみよう。(原告別にまとめてみた)

開門を求める漁業者 国(農水省) 開門反対の営農者・住民
2010.12 福岡高裁
3年間の猶予と5年間の常時開門 → 国が受入、確定
2013.11 長崎地裁
開門差し止めの仮処分
2013.12上記の確定判決を国は不履行 2014.1佐賀地裁
確定判決の執行停止を求める(請求異議) →2014.12棄却
2015.1 最高裁
間接強制申立(開門した場合、制栽金を課す)を認める
2015.1 最高裁
確定判決を履行しない国に制裁金を課す(間接強制)
2014.12 福岡高裁に控訴
2015.10 福岡高裁が和解勧告(現在係争中)
2017.4 長崎地裁
開門差し止めの判決
2017.5 被告(国)は控訴せず

2.これからの展望と対策

 裁判に関していえば、国は制裁金を払い続けて開門を先延ばしにする。金の出所は国民の税金であり、自民党政府、農水官僚は一切身銭を切ることはない。これではまさに原告にとって「勝訴確定判決は絵に描いた餅」にすぎない。
 諫早湾の裁判の判決がでるたびに、国内の報道各紙はこぞって「国が責任を持って対処せよ」と論説している。
 国(総理大臣、農水大臣、農水官僚)は、口を合わせて「二つの判決に挟まれて、身動きがとれない」と言う。
 はたしてそうなのか。二つ目の差し止めの判決(長崎地裁)にそのナゾを解く鍵がある。 判決文に
 「開門すれば農地には塩害、潮風害、農業用水の水源喪失があり被害重大」
 「被告(国)の予定する事前対策は実効性に疑問がある」
 「開門されても、有明海の漁場環境が改善する可能性及び改善の効果は高くない」
 「補助参加人(漁民原告)の主張する改善の効果は、被告(国)の主張に抵触し採用しない」(国がダメだと言うので証拠としないという意味である)
 さらに
 「開門調査による解明の見込みは不明であり、農業に重大な被害がある」
 農業の事前対策は、みんなで相談して国が実施すれば問題はない。長崎県知事が「イヤだ」と言っているから、していないだけ。
 開門による漁場改善の効果は「高くない」といい切っている。高裁の確定判決は「3年間準備をして、5年間開けてみなさい」と言っているのに、国が「漁民の主張を採用するな」と言うから裁判所は証拠としないなど、国と裁判所がグルになって「開門しない」という結論をだした。
 干拓工事で失われた広大な干潟と、その影響を受ける宝の海への思いなど、彼らには全く眼中にない。
 原告に残された手段は「強制執行」がある。これは、裁判所に申し立て、実質的に「開門」をさせる。いわば、言うことを聞かないヤツへの最終手段である。
 今、私たち市民は「話し合いの場」を求める活動に取り組んでいる。
 長崎県知事は「開門についての話し合いはしない」と公言し、あらゆる対話の道を閉ざしている。隣の佐賀県知事はもちろん、私たち長崎県民の請願に対しても、「開門派とは面談しない」と突っぱねている。ここは鎖国時代の長崎か? と面食らう。
 この現状を打開するために「諫早湾干拓問題の話し合いの場を求める会」を立ち上げ、広く市民の賛同を得て街頭での署名活動や、地域の家庭を訪ねての話し込みを展開している。署名をまとめて、いずれ長崎県、諫早市をはじめ関係機関と折衝する。「開門派」「開門反対派」などのレッテルをはった対立から脱却する話し合いの場を求める。
 これからの諫早湾と有明海を展望し、子供たちへ引き継ぐ遺産を残すことが今の時代を生きる私たちの責務である。

(JAWAN通信 No.119 2017年5月30日発行から転載)

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