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環境政策に関する情報公開と市民参加を考える

〜敦賀市でシンポジウム〜


 環境政策に関する情報公開と市民参加を求めるシンポジウムが2017年9月23日、福井県敦賀市でひらかれました。主催は福井弁護士会、共催は日本弁護士連合会(日弁連)と中部弁護士会連合会です。シンポのタイトルは「地球の未来を守るため、オーフス条約で環境政策を私たちのものに」です。このシンポは第60回日弁連人権擁護大会・シンポジウム(10月5、6日、滋賀県大津市)のプレシンポとして開催されました。
 オーフス条約は、環境政策に関する情報公開と市民参加をうながす国際条約です。正式名称は「環境に関する、情報へのアクセス、意思決定における市民参加、司法へのアクセスに関する条約」です。日本はこの条約に加盟していません。
 第1部の基調講演では、大阪大学の大久保規子教授が、条約の内容や日本が条約に加入する意義などを説明しました。
 第2部はパネルディスカッションです。大久保教授のほか、中池見湿地(敦賀市)の保全にとりくんでいるNPO法人ウエットランド中池見理事長の笹木智恵子さん、原発問題にとりくむ明通寺(小浜市)住職の中嶌哲演さん、衆議院事務局職員の後藤一平さんがパネリストとして意見を交わしました。
 以下は、講演と、パネルディスカッションにおける発言の要旨です。

●講演(要旨)

 環境政策への市民参加とオーフス条約

大阪大学法学研究科 法学・政治学専攻教授 大久保規子さん
写真4-2

 オーフス条約は、環境問題を解決するために市民参加を保障する条約である。参加するためには、まず情報がないと参加ができない。そのため、3つの権利(原則)が必要となる。①情報アクセス権、②参加権、③司法アクセス権である。この3つのどれひとつ欠けても参加は十分に実現できない。これがオーフス条約の考え方である。
 オーフス条約では、一定の要件を満たす場合は、民間事業者であっても情報を公開しなければならないとしている。排気ガスを排出するとか工場から煙を出すなど、環境の中になんらかのモノを出す場合は、営業の秘密を理由として不開示にすることはできない。不開示に該当する情報であっても、ほかの公益と比較して不開示にするかどうかを検討しなければならない。
 日本にも情報公開制度がある。それは、国の情報公開法(行政機関の保有する情報の公開に関する法律)や地方自治体の情報公開条例などからなりたっている。環境法独自の開示制度もある。しかし日本では、オーフス条約とちがって、民間事業者には情報開示義務がない。情報開示は国、自治体、独立行政法人が対象になる。
 環境アセスメント(環境影響評価)についてわたしたちが意見をだせるというしくみは、日本の法律にも定められている。しかし、説明会のやりかたは事業者にゆだねられている。
 これにたいし、オーフス条約では「事業者がやることだから」と言ってはいけない。参加権の保障は行政に求められている。事業者にやらせる義務が行政にある。
 日本でアセスメントの対象になるのは建設事業だけである。新幹線をつくったりダムをつくったりする場合にはアセスメントをおこなわなければならない。
 一方、オーフス条約では、事業の変更、拡張、見直しもアセスメントの対象になる。原発の稼働を延長する場合もアセスメントをしなければならない。このように、活動についてもアセスメントの義務がある。これがオーフス条約の大きな特徴となっている。
 活動についてもアセスメントの義務を課すというのは、オーフス条約に加盟していない国でもかなりのところがおこなっている。しかし残念ながら、日本では建設事業しかアセスメントの義務がない。
 日本でも、オーフス条約の3原則をふまえた環境政策の推進が切にのぞまれる。
 

●パネルディスカッションの発言(要旨)

中池見湿地をめぐる情報公開と市民参加の現実

NPO法人ウエットランド中池見 理事長  笹木智惠子さん
写真4-3

 中池見湿地ではかつて、工業団地造成や大阪ガスのLNG備蓄基地建設の計画がもちあがった。わたしたちは、貴重な湿地を守るため、全国のみなさんの支援をいただいてナショナルトラスト運動を展開した。そして六百数十人による「共有地トラスト」を実現した。全国初のトラスト運動であった。
 この運動が功を奏し、LNG備蓄基地建設計画は中止になった。その後はラムサール条約登録にむけて活動をすすめてきた。
 2012年7月、第11回ラムサール条約締約国会議(COP11)がルーマニアのブカレストで開かれた。そこで中池見湿地はラムサール条約に登録された。ところが、登録と同じ日に北陸新幹線の計画が発表された。あわてて帰国して資料を集めてみたら、ラムサール条約の登録区域内を新幹線が通るという計画であった。新幹線が通ったら中池見湿地は壊れてしまう。わたしたちは情報収集と連絡に奔走することになった。
 中池見湿地はラムサール条約に登録された。しかし、湿地に水を供給する重要な深山に新幹線のトンネルが掘られる。トンネルが掘られたら湿地の水環境が変化する。中池見湿地でいちばん重要なのは泥炭層である。この泥炭層は10万年の歴史がある。それが重大な影響をうける。水源のトンネル掘削でどうなるかわからない。専門家にもわからない。
 その後、新幹線のルートが少し変更になった。しかし、変更後のルートも依然としてラムサール条約登録区域内を通ることになっている。水源にトンネルも掘られる。だから湿地への影響は避けられない。このように、中池見はようやくラムサール条約湿地になったのに、わたしたちは新たな心配事をかかえている。
 ラムサール条約登録湿地のなかでこのような大きな開発計画があるのは、世界でも初めてである。もしこの計画が続行されたら、日本では、ラムサール条約に登録された湿地でも開発などによって壊されていく。そのはじまりではないか、と思っている。
 中池見湿地の保全問題では、わたしたちは新聞報道によって新しい情報を得てきた。敦賀市における情報公開をみると、残念ながら、会議が終わったあとでいろいろなものがわかる。そのときに知ったのでは手遅れになるということもある。
 それを事前にどのように察知して動くか。それが、これまでの大きなとりくみになっていた。正式に公表された情報ではなく、巷(ちまた)で生まれた情報をウサギの耳のようにキャッチしながら活動するというかたちで動いてきた。
 敦賀市は「中池見湿地保全協議会」を設置している。だが、わたしたちはそれに加わっていない。蚊帳の外である。協議会には商工会議所や金融機関などが参加している。そこでどのような議論がされているかは、わたしたちにはわからない。
 中池見湿地を通る北陸新幹線計画が認可されたとき、それを環境省も知らなかった。国の省庁間でも情報がわからないようになっている。
 関係者に聞くと、開発計画は土地の買収などお金にからむことがあるので、ギリギリまでみんなに知らせることができない、ということだった。ようするに環境面はまったく考えていないということである。たんに土地の買収にからむことしか考えていない。それがいちばんの問題だと思う。


●パネルディスカッションの発言(要旨)

原発問題で問われていること

明通寺 住職  中嶌哲演さん
写真4-4

 わたしは1968年ごろから原発問題の情報を集めるようになった。その時点ですでに小浜市の周辺では7基の原発が建設・計画中であった。
 小浜市民は原発関連施設の立地を5度にわたって阻止した。原発の立地計画が3度、使用済み核燃料中間貯蔵施設の誘致計画が2回浮上したが、すべて阻止した。しかし、小浜市民は15基の原発に包囲されている。そのような皮肉な現実に直面している。
 小浜市民の運動を支えてきたひとつの理念は「美しい若狭を守ろう」である。若狭で営んできたわたしたちの先祖代々の暮らし、命の営み、そして歴史や文化、それらのいっさいがっさいをふくめての美しい若狭を守ろうというものであった。
 いま、若狭には原発が15基も集中している。関西の大電力消費のために、なぜ若狭にばかり原発がつくられるのか。科学者の講演を聞き、わたしたちはこういうことを知った。たとえば大飯原発の3、4号機の2基を1年間動かすだけで、広島型原爆の2000発分の死の灰と長崎型原爆の60発分のプルトニウムをつくりだす、というものである。わたしたち住民にとってはこの情報だけで十分であった。けっして情報が隠ぺいされているわけではない。明々白々な客観的な事実や情報がある。これをどうみつめ、どうするのか。そこに問題がある。
 このようなことをふまえ、小浜市民は、集めた情報を小浜市の全市民、全有権者に伝えた。そして、有権者の過半数から署名を集め、市長と市議会につきつけた。そのような運動をくりひろげるなかで、小浜市民は今日まで5度にわたって原発関連施設を拒否した。
 大飯原発3、4号機の増設にも反対した。若狭では14、15基目の増設だった。
 わたしたち小浜市民は実質上の地元住民である。というのは、大飯原発の10キロ圏内の住民分布をみると、小浜市民は約1万9000人近くで、75%を占めるからだ。「地元」といわれるおおい町は3600人、14%でしかない。
 ところが小浜市民は「隣接自治体」としてあつかわれている。大飯原発はおおい町に立地している施設なので、「地元自治体」はおおい町だけとなる。こんな屁理屈によって、小浜市民は「地元自治体」から排除されてきた。
 わたしたちはさまざまな反対運動をつづけた。しかし、公聴会はたった1日、それも数時間だけである。「地元住民の声を聞いた」というセレモニー、アリバイづくりでしかなかった。
 わたしたちは猛烈な反対運動をくりひろげた。県内外から2600人が集まって抗議集会とデモ行進もおこなった。なんとそこに、東京の警察庁の一元指揮のもとに機動隊1500人と制服・私服の警察官400人がやってきた。2600人の集会・デモ参加者にたいして計1900人である。何にたいして何を守ったのか。原発を増設しようとする人たちを2600人のデモから守ろうとした。デモに加わった公務員4人がみせしめとして逮捕された。日本の原発をめぐる市民参加の実態については、以上の実例でご推察いただきたい。
 第60回日弁連人権擁護大会シンポジウムが10月5日に大津市で開かれる。そのひとつのスローガンは「地球の未来を守る」である。壮大なスローガンである。わたしたちは、このような視野に立たなければいけない。そのような危機的状況に直面している。
 2016年3月、大津地裁は高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の運転を差し止める仮処分決定をだした。差し止め仮処分は滋賀県民の有志が申し立てた。大津地裁は、近隣自治体の住民も被害をうける可能性があるとし、再稼働差し止めの判決をだした。しかし大阪高裁はその判決をひっくり返した。
 大津地裁がなぜそのような判決をだしたかというと、滋賀県知事(当時)の嘉田由紀子さんが、「われわれも被害地元だ。もし琵琶湖が汚染されたら、1450万人の関西住民がすべてアウトになる」と言った。知事みずからがイニシアティブをとった。それによって滋賀県民の世論が形成されていった。
 福島県は10基の原発をおしつけられた。それらの電力供給先はすべて首都圏である。原発は環境問題だけでなく、人権侵害や差別の問題でもある。福島の原発問題はそれが問われている。首都圏の住民も、当事者として今後どうしていくのか、ということを考えなければならない。

●パネルディスカッションの発言(要旨)

日本はオーフス条約のレベルに達していない

衆議院事務局職員 後藤一平さん

 オーフス条約の3本柱にそって話したい。
 まず環境情報へのアクセス権である。これについて日本は措置ずみ、というのが政府の見解である。その根拠として、情報公開請求権が保障されていることをあげている。オーフス条約の第5条で掲げられている環境情報の収集にもいちおう対応している、というのが政府見解である。
 しかしオーフス条約では、環境情報へのアクセスの対象となる公的機関のなかに公的な機能を有する民間企業も含めている。民間企業が環境に影響をおよぼしうる事業をおこなう場合も、オーフス条約は情報開示を求めている。ところが日本では、それらは情報公開の対象外とされている。日本の情報公開法における例外規定の運用は行政の裁量によるところが非常に大きい。したがって、オーフス条約で
 
 求められているレベルのものは満たしていない。
 たとえば2009年の衆議院環境委員会において、当時委員長であった水野賢一議員が、フロンの問題は非常に重要である、と発言された。そして経済産業省にたいして、事業者から提供されているはずのフロンガス排出量のデータ開示を求めた。ところが情報公開法の例外規定により開示を拒否された。そのため、水野議員はわざわざ環境委員会の委員長として抗議の記者会見をひらいた。
 このような状況をみると、情報公開法があっても、日本はオーフス条約のレベルには達していない。日本にもそれなりの法制度はととのっている。だが、オーフス条約が期待しているレベルには達していない。
 日本の環境保護活動に関する私見をのべさせていただく。環境保護団体は、国会ロビー活動にも力をいれていて、国会議員にいろいろと要望している。それにたいし、国会議員はこのように考えている。それらの要望はごく少数の人たち(マイノリティ−)が求めていることではないか、ということである。そうでないというのなら、たとえば1万人とか2万人の署名をみせるなど、みなさんが世論を代表して来ているということを示してほしい。そういうことを国会議員は求めている。もうひとつは、議員立法を提案するさいは条文案(たたき台)を示してほしい、ということである。

写真4-1
環境政策に関する情報公開と市民参加を議論したシンポジウム
=9月23日、敦賀市で
(JAWAN通信 No.121 2017年11月20日発行から転載)

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