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貴重な干潟を後世に引き継ぐために

〜東京湾干潟サミットin千葉〜


 「東京湾干潟サミットin千葉」と題したシンポジウムが2017年9月16日、千葉市でひらかれました。主催は千葉県弁護士会、共催は日本弁護士連合会(日弁連)と関東弁護士会連合会です。100人が参加しました。
 このイベントは第60回日弁連人権擁護大会・シンポジウム(10月5、6日、滋賀県大津市)のプレシンポとして位置づけられました。
 最初は、県弁護士会の中丸素明弁護士による基調報告「東京湾に残された干潟を将来の世代に残すために」です。つづいて、谷津干潟、葛西三枚洲(さんまいす)、三番瀬、盤洲(ばんず)干潟の現状や課題などについて4人が報告しました。そのあと、県環境生活部自然保護課主幹の竹重貴志さんが「三番瀬の自然環境総合解析結果」、法政大学人間環境学部の高田ゼミ生一同が「東京湾をテーマとした自主学習の紹介」を報告しました。
 それぞれの報告について質疑応答や意見交換をおこなったあとはシンポジウム宣言の採択です。宣言文は、三番瀬、盤洲干潟、葛西三枚洲のラムサール条約登録を求めるとともに、「依然としてつづく開発の策動と人間活動による悪影響から現存するすべての干潟を守り、豊かな命をはぐくむ自然を将来の世代に引き継ぐため、わたしたちは今後もたゆみなく活動をつづけてゆく」としています。
 以下は報告の要旨と宣言文です。


東京湾に残された干潟を将来の世代に残すために

千葉県弁護士会 弁護士 中丸素明さん

 日本の湿地は著しく減少している。国土地理院が1996〜99年に調べた結果、日本に存
 在する湿地は約821k㎡で明治・大正時代の40%足らずでしかない。現在残っている湿地
 も劣化がはげしい。環境省が昨年4月に発表した調査結果では、「日本の重要湿地」961湿地のうち823湿地から回答が得られ、そのうち524湿地(64%)が「悪化傾向」としている。劣化の最大の原因は開発である。
 東京湾では、埋め立てによって干潟が9割も喪失した。こうしたなかで、千葉県では1971年以降、埋め立て反対運動が高まった。運動によって盤洲干潟と谷
 津干潟を保全した。谷津干潟は1993年にラムサール条約登録を実現した。県が1993年に発表した三番瀬埋め立て計画も2001年9月に白紙撤回させた。
 東京都の葛西三枚洲(葛西海浜公園)は東京都内に残された貴重な干潟・浅瀬である。スズガモなど渡り鳥の国内有数の飛来地である。来年ひらかれる第13回ラムサール条約締約国会議(COP13)でのラムサール条約登録に向けて気運が高まっている。
 三番瀬は依然として開発の危機にさらされている。盤洲干潟は、隣接する袖ケ浦市の埋め立て地に超大型の石炭火力発電所が計画され、温排水の影響が心配されている。谷津干潟は干潟環境が悪化傾向にある。
 こうしたなかで、これらの貴重な干潟を将来の世代に手渡すために何をなすべきか。それがわたしたちに問われている。


環境改善が急務 〜谷津干潟〜

千葉県弁護士会 弁護士 中丸素明さん

 谷津干潟の面積は約40haである。谷津干潟は大蔵省所管の国有地であったため、公有水面埋立法では埋め立てることができなかった。その後、習志野市が谷津干潟を埋め立てる計画をうちあげた。そのため、「千葉の干潟を守る会」や「千葉県野鳥の会」、袖ヶ浦団地住民を中心とする習志野市民などが共同で大規模な埋め立て反対運動をくりひろげた。その結果、市は1984年に埋め立て計画を断念した。1993年、谷津干潟はラムサール条約湿地に指定された。干潟としては国内初のラムサール条約登録であった。
 谷津干潟は渡り鳥(水鳥)が減りつづけている。とくにシギ・チドリ類は大幅減少である。シロチドリ、メダイチドリ、ハマシギなどである。
 減少の主な原因は、淡水が流入しなくなったことによる泥の流出やアオサの堆積などである。こうしたことから、環境省関東地方環境事務所は2010年度から谷津干潟の環境保全事業をはじめた。砂付け(干潟のかさ上げ)やアオサ除去などの対策をすすめている。しかし、いまのところ効果はでていない。 「千葉の干潟を守る会」などは淡水導入などを提案している。


 2018年のラムサール条約登録をめざして
〜葛西三枚洲〜

日本野鳥の会東京 飯田陳也さん

 葛西三枚洲は、葛西臨海公園の南側に広がる海浜公園である。臨海公園は埋め立て地だが、海浜公園は沖の三枚洲を埋めずに残すために考えられた「海上公園」である。
 葛西三枚洲は数万羽のスズガモ、数千羽のカンムリカイツブリの越冬地である。シギ・チドリ類も多く飛来している。国内でも最大級の水鳥の生息地である。
 ラムサール条約に登録するため、わたしたちはさまざまなとりくみをおこなっている。その結果、今年2月24日、江戸川区議会で区長が「ラムサール登録をすすめる」と答弁した。3月15日は都議会で小池知事が「ラムサール登録を推進する」と発言するまで進展した。 
 東京都は、「課題は山積している」としながらも、葛西三枚洲のラムサール条約登録を着実にすすめていく意欲をみせている。わたしたちは、葛西三枚洲の将来像を関係者で共有し、「賢明な利用」のイメージを考えていくことにしている。


世論を味方につけて埋め立てを中止させた
〜三番瀬〜

三番瀬を守る連絡会 代表世話人 中山敏則

 三番瀬は千葉県の船橋、市川両市の地先に広がる約1800haの干潟と浅瀬である。
 1950年代から1990年代はじめまで、三番瀬は「利権の海」と呼ばれた。土地ころがしを目的として、三番瀬が次から次へと埋め立てられたからである。遊園地(船橋ヘルスセンター、東京ディズニーランド)の建設・拡張をうたい文句にして民間企業がみずから海を埋め立て、その土地を数倍、数十倍、さらには100倍以上の価格で転売するということがくりかえされた。
 1993年3月、県は三番瀬の新たな埋め立て計画を発表した。三番瀬保全団体は「これ以上埋めるな」という運動をはじめた。署名を30万集めるなど、埋め立て反対の世論を盛りあげた。
 2001年春の県知事選では三番瀬埋め立てが最大の争点になった。朝日、読売、毎日の新聞各紙が選挙中におこなった県民世論調査では、いずれも「埋め立て反対」が過半数を占めた。これをみた堂本暁子候補は、選挙戦の途中で三番瀬埋め立て計画の白紙撤回を唯一の公約に掲げ、当選した。
 堂本知事は2001年9月、三番瀬埋め立て計画を白紙撤回した。しかし、浦安寄りの猫実川(ねこざねがわ)河口域で人工干潟を造成するという計画をうちだした。この海域に第二東京湾岸道路を通すことが目的である。
 三番瀬保全団体は、人工干潟造成と第二湾岸道路建設を阻止するためにさまざまな運動をくりひろげた。その結果、ついに2016年10月、県は人工干潟造成を中止した。第二湾岸道路の建設も食い止めることになった。
 とはいえ、第二湾岸道路構想はいまも残っている。そのため、わたしたちは運動の手をゆるめないことにしている。三番瀬をラムサール条約に登録する運動もすすめている。


原風景が残る貴重な干潟を守るために
〜盤洲干潟〜

小櫃川河口・盤洲干潟を守る連絡会 事務局長御簾納照雄さん

 盤洲干潟(小櫃川河口干潟)は、東京湾の小櫃川河口に広がる国内最大規模の砂質自然干潟である。
 盤洲干潟は前浜と後浜(三角州)からなる。前浜に広がる干潟は総面積が1400haにおよぶ。最干潮時は水際がみえないほど遠くまで干潟があらわれる。
 後浜の面積は43haで、塩性湿地が広がっている。多数多様なカニ類が生息しているほか、ハママツナ、シオクグといった塩性湿地植物の大群落がみられる。
 一昨年、盤洲干潟に隣接する袖ケ浦市臨海部で日本最大級の石炭火力発電所建設計画がもちあがった。毎秒84トンの温排水排出はノリ養殖や底生動物に対する影響がはかりしれない。
 連絡会は発足当初から、盤洲干潟を県自然環境保全条例にもとづく自然環境保全地域に指定するか、ラムサール条約に登録することを県(自然保護課)に働きかけている。だが、自然環境保全地域の指定やラムサール条約登録はなかなかすすまない。最大の障害となっているのは地元の金田漁協が反対していることである。
 盤洲干潟には日本の干潟や海岸の原風景が残っている。盤洲干潟をこれ以上損なうことなく後世へ引き継ぐことが必要である。三番瀬保全団体や全国各地の湿地保全団体などと連携し、保全運動をすすめることにしている。


三番瀬自然環境の総合解析結果

千葉県環境生活部自然保護課  主幹 竹重貴志さん

県は三番瀬において1980年代から自然環境調査を継続的に実施している。1998年度、2003年度、2010年度、2016年度に総合的な解析を実施した。2016年度解析結果の概要は以下のとおりである。

(1)地形の変化
 2011年3月の東日本大震災によって、三番瀬の海底は地盤が20〜30cm低下した。
(2)青潮・貧酸素水塊
 三番瀬では青潮が年間に数回発生する。沖合には大規模な貧酸素水塊が形成されている。三番瀬における生物生息環境はきびしい状態がつづいていると考えられる。
(3)底生生物
 増加傾向がみられた種としてはアラムシロガイとホンビノスガイがある。減少傾向の種としてはホトトギスガイ、ムラサキイガイ、アシナガゴカイ、イトエラスピオ、コノハエビ科、イソギンチャク目などがある。
(4)魚類
 2015年度の仔稚魚出現種では、夏季にマハゼ、ニクハゼ、ハゼ科、秋季にヒメハゼ、ハゼ科、冬季にイシガレイが多く確認された。この傾向は変わっていない。
(5)鳥類
 三番瀬で長期的な減少傾向がみられる種として、シロチドリ、キアシシギ、キョウジョシギ、コサギ、ウミネコがあげられる。一方で、増加傾向の種としてはミユビシギ、ミヤコドリ、カワウ、オオバンがあげられる。
(6)今後の変化の考察
 物理・化学環境については、5年後において大きく変化する可能性はないと考えられる。
 生物環境も、5年後において生息状況が大きく変化する可能性は低いと考えられる。


東京湾をテーマにした自主学習

法政大学人間環境学部 高田ゼミ生一同

 法政大学人間環境学部は、人間と環境をキーワードとし、「横断的な学習」「現場から学ぶ」「教養ある豊かな人間性づくり」を通して「持続可能な社会」について考え実践する力を養うことをめざしている。高田ゼミは、人間と生態系との関係をさまざまな視点で考究することをテーマとしている。
 高田ゼミは、A3ゼミとA4ゼミの2つのゼミをあわせて70人である。各ゼミが6つの班に分かれ、テーマ別に活動している。生物調査班、生物と人班、緑地自然班、緑地と人班、水辺環境班、東京湾と川班である。
 A4ゼミは、今年の主な活動として、東京湾・川と人との関係についてさまざまな角度から調べ、それを情報誌的にまとめることをめざしている。「三番瀬市民調査の会」による三番瀬・猫実川河口域の生物調査データの分析も試みている。
 「市民調査の会」は、三番瀬の浦安寄りに位置する猫実川河口域のカキ礁とその周辺干潟において、2003年から生物調査をつづけている。わたしたちは2013年3月以降、のべ16回にわたり、毎回数人ずつ調査に参加させてもらっている。
 市民調査では、水質調査や生き物調査などを手伝い、東京湾の息吹を直接感じる現場体験をさせていただいている。また、「市民調査の会」がこれまで調査した生物種のデータから、継続的な確認がされているとみなせる80種を会に選定していただき、それらの集計分析を試みている。
 東日本大震災によって三番瀬は海底地盤が20〜30cm沈下したとされている。その影響がおよんでいる可能性のある種などを示すことができれば、と考えている。


シンポジウム宣言

 四方を海に囲まれた日本は、かつて豊かな湿地に恵まれ、その恩恵を受けていた。
 しかし、埋立てをはじめとする開発行為により、明治・大正時代には約2111平方キロメートルあった湿地は、2000年には821平方キロメートルまで減少した。実に湿地全体の約61%が消失した。東京、千葉、埼玉の首都圏では、湿地の減少率は90%を超える。東京湾の干潟も、開発により大部分が消失した。千葉県では、1960年代から県が主体となって造成工事を行い、広大な干潟を次々と埋め立てた。わずか10年ほどの間に、自然豊かだった東京湾岸の景色は工業地帯やニュータウンなどへと一変した。
 しかし、このような行政主導の開発最優先の流れに一石を投じる動きが生まれた。習志野市地先の干潟埋め立て計画が認可されたのを機に、干潟の保全を訴える住民たちが「いのち豊かな東京湾を子孫に残すために」をスローガンに立ち上がった。そして住民運動は、1993年、谷津干潟を、日本で7番目、干潟としては初めて「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」(通称「ラムサール条約」)登録湿地に指定させるという大きな成果を獲得した。
 その後、干潟保全活動は、船橋・市川地先に広がる三番瀬を守るたたかいへと発展していった。秘密裏に計画を進めようとする行政に対し、開発計画を市民に周知し、貴重な干潟の存在を訴えた。市民活動は広がりをみせ、埋立中止を求める署名は、最終的に30万筆に達した。こうした住民運動の高揚と世論の高まりによって、2001年、県は埋立計画を白紙撤回した。しかし、三番瀬は、その後も第二湾岸道路建設を中心にした開発の危険にさらされてきた。2002年以降は、猫実川河口域の人工干潟造成をめぐる攻防が続いた。人工干潟造成の目的は、この海域に第二湾岸道路を通すことだった。ねばり強い運動の結果、人工干潟造成は2016年10月に中止となり、第二湾岸道路の建設も食い止めた。
 小櫃川河口にひろがる盤洲干潟は、国内最大級の砂質自然干潟であり、地球上この干潟にしか生存していないキイロホソゴミムシなど、貴重な生物が多数生息している。しかるに、隣接する袖ケ浦市の埋立地に国内最大規模の石炭火力発電所建設計画が持ち上がるなど、依然として開発の波にさらされている。
 葛西三枚洲は、東京都内にわずかに残された貴重な干潟と浅海域であり、保全の必要性が高く、ラムサール条約への早期登録を求める動きが官民に広がっている。
 政府と関係自治体は、2018年にドバイで開かれる第13回ラムサール条約締約国会議(COP13)において、未登録の、三番瀬、盤洲干潟、そして葛西三枚洲の登録実現に向けて、全力を尽くすべきである。あわせて、谷津干潟も含め、質的劣化を食い止める有効な方策を講じるべきである。
 自然環境は一度失われれば、二度と元に戻ることはない。依然として続く開発の策動と、人間活動による悪影響から、現存するすべての干潟を守り、豊かな命をはぐくむ自然を将来の世代に引き継ぐため、私たちは、今後もたゆみなく活動を続けてゆく。
 以上、宣言する。
 2017年9月16日

第60回日本弁護士連合会人権擁護大会プレシンポジウム
東京湾干潟サミットin千葉 参加者一同

写真5-1
第60回日弁連人権擁護大会プレシンポジウム「東京湾干潟サミットin千葉」=9月16日、千葉市
(まとめ・写真/中山敏則)
(JAWAN通信 No.121 2017年11月20日発行から転載)

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