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■シンポジウム「日本の湿地を守ろう2018」の講演要旨

湿地の恵みを考える

法政大学人間環境学部 教授 高田雅之さん

 湿地は人間にさまざまな恩恵を与えている。しかし人間活動の影響を受けやすいため、湿地の保全と利用にあたっては持続性の視点が不可欠である。
 国土地理院のデータによると、日本の湿地は明治大正期の21.1万haから1980年代の8.2万haへと61%も減少した。その半分(50.7%)は農地に変わった。残りは荒地21.1%、森林15.9%、淡水域6.5%、その他5.9%となっている。
 環境省のデータによると、日本の干潟は1945年から1995年ごろの約50年間で41%減少した。2000年以降の減少量は明らかではないが、もともと日本にあったと考えられる多くの湿地面積から考えると、最近の減少速度は弱まったとは必ずしもいえない。残された湿地をどう保全するかが課題である。
 湿地には多くの機能(=恵み)があることが知られている。その恵みは1990年代以降、一般に認識されてきた。そして近年になり、各方面で意識が強まっている傾向がみられる。
 「生態系と生物多様性の経済学」(TEEB)の湿地版(2013年)によると、森林や草原に比べて湿地の経済価値は高く、とくにサンゴ礁、沿岸域の湿地、内陸湿地が高いことが示されている。日本でも2015年に環境省が湿原と干潟の経済的価値を推定し、公表した。
 このような機能認識や価値評価が広まりつつあるなかで、社会的な関心も近年高まっている。それは、書籍の発刊や、各地で湿地に関するネットワークがつくられてきていることからも推察される。東京湾の干潟への関心ポテンシャルの高さを示す研究例もみられる。
 これらをふまえて社会が湿地とどのようにむきあっていくべきかについて3つの視点を提起したい。
 ①湿地のもつ機能を強く意識し、その機能を社会的手段で維持向上する
 ②触れて楽しむことで、多くの人に湿地の恵みを実感してもらう
 ③もう一歩先をみて、湿地の本当の恵みとは何かを考える
 今後は人口が減少し、社会資本の維持管理費が制約される。そのようななかで、グリーンインフラという自然環境のもつ多機能性や回復能力を活用するインフラ整備が注目されている。とくに費用対効果や波及効果の観点から多機能性が重視されている。
 単に湿地に親しむことにとどまらず、知識を得る、体験する、教育の場とするなど、湿地の恵み(機能・サービス)をより実感し、生物の息吹を感じてもらうとりくみが重要になってくる。
 最近の研究によって、湿地のもつ価値の利益率は高いものの復元コストが高いことが示されている。また、別の研究から復元は技術的にむずかしいことが示されている。いちど湿地を失うと本来の価値を得るための復元は経済的にみあわないことがわかってきた。
 現在ある湿地を保全し、そこから価値を得るのが、社会経済的に最も望ましいことは明らかである。

(JAWAN通信 No.123 2018年5月20日発行から転載)

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