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■シンポジウム「日本の湿地を守ろう2018」の講演要旨

日本に出回るアサリと潮干狩りをめぐる実情

〜政界業界のタブー「アサリロンダリング」を事例に〜

アジアの浅瀬と干潟を守る会 山本茂雄さん

◆日本のアサリは絶滅寸前

 私は2003年ぐらいまで二枚貝専門の卸売業をやっていた。国内の干潟が減少し、海域の水質が悪化したため、地元だけでは商品をまかないきれなくなった。そこで、最初は国内産地をいろいろ探し歩いた。90年代初頭には、中国とか北朝鮮とか近隣のアジア諸国に活路を求めた。
 テレビのスポットニュースでは「今年は豊漁で大粒のアサリがザックザク」という話になるのだが、今年は潮干狩りの話があまりでない。最近は日本のアサリが絶滅寸前になっているからである。
 私が知るかぎりでは、輸入のアサリを放流している。それだけでは楽しみがないので、要注意外来生物のシナハマグリもいっしょに放流し、「ハマグリもとれますよ」というようなうたい文句で潮干狩りをやっている。そのようなニュースをみると腹がたつ。テレビ局に電話すると、とたんにアーカイブス(保存記録)が削除されて見られなくなる。

◆三角貿易で原産地が不明に

 JAS法の改正によって原産地を表示しなければならなくなった。JAS法は国内法なので、輸入元が中国であれば産地表示は中国となる。ところが中国も海洋汚染がひどくなっていて、中国の近海でとれる海産物は少ない。したがって中国を経由してくるが、必ずしも中国でとれたものではない。
 じつは北朝鮮の領土の一部もいまは中国の領土になっている。アサリやハマグリも、北朝鮮でとれたにもかかわらず、中国産と名のっていいという強引な貿易のとりきめがある。このような三角貿易がおこなわれている。いまはロシアからもアサリが一部入っている。
 三角貿易をすると原産地の情報が消えてしまう。これはアサリロンダリングとよばれている。アサリロンダリングというのは、マネーロンダリングに知を得た造語である。沿岸開発によってアサリがとれなくなったために、その代用品を他産地から移入(活貝流通調達)することである。複数の国を経由することもある。
 アサリだけではない。ヤマトシジミも、最大の産地がロシアの樺太だったりする。しかし、その実情を調べるのはまずいようだ。
 アサリロンダリングは覚醒剤密輸の温床にもなっている。アサリを生きたまま流通させなければならないので、通関をなるべく早く通したい。アサリの場合は貝毒検査がある。そこだけ通したら、ほとんど目をつぶって輸入ができてしまう。それで億単位の覚醒剤密輸に使われたこともある。
 最近は、中国でもアサリがとれなくなった。韓国も、日本とおなじように干潟の減少が著しい。最大の産地を干拓によって失ってしまった。韓国も日本とおなじような状態になっている。
 小売を含めた流通業者にとっては、輸入アサリのほうが原料が安いので、それを高く売ればもうけが大きくなる。だから、アサリロンダリングはなるべく知らせてはいけないということになっている。

◆感染症が蔓延

 いまは畜養という方法によって熊本県あたりでアサリを一時保管している。そこでは種が入れ替わっている。
 アサリを生きたまま運んでくると、混獲されるものがある。ひところ問題にされた外来の食害種サキグロタマツメタガイなど、われわれ業者がゴミとよんでいるものである。このように、商品でないものまでいっしょにとれて放流されてしまう。食害がかなりでてているので、補助金をだしてそのような外来種を駆除する。そういうこともいまだにおこなわれている。
 輸入アサリの放流にともない、目に見えない感染原因生物・ウイルスによって感染症も蔓延している。その結果、国内ではアサリの稚貝が発生しないようなことになっている。どこでもほぼ壊滅状態になっている。
 私の地元である愛知県も例外ではない。いろいろな病害虫が蔓延したため、アサリをとる業者はほぼ休眠状態になっている。年間2万トン近くあった漁獲がいまは10分の1ぐらいに激減した。潮干狩りはほぼできなくなった。

◆生物多様性を毀損(きそん)

 国土交通省が10年ぐらい前に調査した結果によると、東京湾では年間400万人ぐらいが潮干狩りや釣りを楽しんでいる。
 潮干狩りについてはいえば、熊本県の三角港、熊本新港、八代港、福岡県の三池港などに中国籍の貨物船が入って、20kg入りの麻袋に入ったアサリを生きたまま放流する。それを東京湾の潮干狩り場にも撒(ま)いている。国内のアサリがほぼ絶滅状態なので、観光潮干狩りも輸入に頼るしかない状態になっている。
 これは、いちばん身近なところで生物多様性を毀損しているということでもある。外来種のアサリを生きたまま放流するからである。これが潮干狩りの現状である。
 私のささやかな抵抗ということで、これらの問題をなんとか表沙汰にしたい。表沙汰にしないと議論もおこらない。しかし、表沙汰にすることについては反発もある。
 千葉県も、このような潮干狩りの実態は知っている。ただ、漁業者の裁量の範囲でやっているから仕方ない、というスタンスである。
 環境省だけではどうにもならない。農水省や、港湾を担当する国交省などもかかわって新たなしくみをつくらないと、生物多様性は守れない。しかし、これらの問題を報道したメディアはないと思う。外来種のアサリを海にそのまま撒いてしまうので、いろいろとまずいことが起こる。したがって法整備でしっかり守ろうというのが、私の提案である。
 東京湾もかなり被害がでているはずだ。たとえば輸入の貝が生きてしまって、そこで卵を産んだり、精子を放流したりする。そうすると、交雑はないにしても、熊本県のように種が入れ替わってしまう可能性がある。早めに対策を講じることが必要である。東京湾の場合は、もともとパンダアサリとよばれるような固有の殻や精子をもっていたアサリがいた。ところが、それが輸入アサリにとって替わられるおそれがでている。

(JAWAN通信 No.123 2018年5月20日発行から転載)

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