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■石垣島シンポジウムの報告(要旨)

ラムサール条約湿地「中池見湿地」の現況

NPO法人ウエットランド中池見 理事長 笹木智恵子

写真11-1

中池見湿地は福井県敦賀市の東にある。三方を山に囲まれた約25haの小さな湿地だ。中池見湿地は、地形が袋状になっていることから「袋状埋積谷」とよばれている。40mを超える厚さの泥炭層が10万年もの歴史で形成されてきた。このような泥炭層は世界的にもほとんど例がない。過去から現在までの自然環境の変化や気候変動を知ることができるので、学術上もたいへん重要となっている。

わたしたちの運動がみのり、中池見湿地は2012年にラムサール条約登録湿地となった。ところが、登録と同時に北陸新幹線のルートが発表されて問題となった。新幹線が登録区域内を通る。しかも、新幹線は「うしろ谷」の真ん中を斜断し、集水域の中をトンネルで抜けるというものである。「うしろ谷」は、湿地本体と異なった生態系を有する希少なエリアである。

このことをわたしたちが知ったのは、ルーマニアでの中池見湿地のラムサール登録を見届けてラムサール条約締約国会議から帰国した直後である。その後、情報収集と発信によって、ラムサール条約事務局長はじめ、国内外から多くのみなさんがかけつけてくださった。コメントを発するとともに、国交大臣、環境大臣、県知事、市長、そして建設主体の鉄道・運輸機構理事長などに意見書や要望書を矢継ぎ早に提出していただいた。

こうした結果、鉄道・運輸機構が検討を依頼していた専門家による委員会も、ルート変更を提言した。これを受けて機構はルートを変更した。2015年5月8日、変更ルートで国交大臣の認可を受けて工事に着手した。

しかし、トンネル出口の墓地が遺跡に該当するのでは、との指摘によって「大蔵北遺跡」の発掘調査・確認に2年を要した。ようやく今年1月21日からトンネル掘削をはじめた。ところが、2月初めに掘削土からヒ素が検出されたため工事はストップした。自然由来のものであろうとしながらも、先行試掘・分析確認中となっている。

これは、ラムサール条約決議にもとづく「環境管理計画」にもよるものだ。問題が発生したときには工事を中断して確認し、代替措置などをとることとしている。

水環境については、水涸れ、減水のおそれがある現水源への対応措置として、配水管敷設がおこなわれている。

わたしたちは、工事による周辺環境への影響について観察や監視をつづけていくことにしている。鉄道・運輸機構は、環境管理計画でうたった「モニタリング管理体制」のなかで、中池見で活動する市民団体をステークホルダー(利害関係者)に含めている。問題発生時には情報提供と対策の連絡・説明がある。これは中池見湿地がラムサール条約湿地になっているための対応で、異例といえる。

図11-1
(JAWAN通信 No.127 2019年5月30日発行から転載)

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