トップ ページに 戻る

「まつろわぬ民」になろう

~「影法師 in 永田町」~


フォークグループ「影法師」は3月13日、参議院議員会館でコンサートを開いた。タイトルは「影法師 in 永田町」。国会議員会館での開催は4年ぶりである。白崎映美さん(歌手)の歌や佐高信さん(評論家)の意見発表もあった。ドキュメンタリー映画『飯舘村 私の記録』も上映された。

観客を魅了した影法師。左から遠藤孝太郎さん(バンジョー、渉外係、農業)、船山正哲さん(マンドリン、インターネット配信、団体職員)、横沢芳一さん(ボーカル、ギター、作曲、農業)、青木文雄さん(ベース、作詞、フリーランス)

◆社会的メッセージを歌で発信

影法師は山形県長井市に拠点をおく。1975年の結成以来、数多くの社会的メッセージソングをつむぎだしてきた。民衆の暮らしや農業、自然環境、政治の問題などをテーマにし、演奏をつづけている。正真正銘のフォークグループである。来年は50周年を迎える。

影法師は4人組だ。ふだんは農業などをしている。その忙しい合間をぬって歌をつくり、各地で演奏活動をつづけている。「農村バンド」とよばれることもある。

この日は5曲を演奏した。『父さんの昔ばなし』『花は咲けども』『ある農業青年の主張』『白河以北一山百文』『20年目の少年少女へ』である。

影法師が制作した100曲超の楽曲は大半がメッセージソングである。東日本大震災から2年後の2013年、『花は咲けども』を発表する。NHKから流れる復興支援ソング『花は咲く』への違和感からつくった。NHKの『花は咲く』は、放射能に汚染されて人が住めなくなっても花は咲く、というニュアンスの歌だ。「なつかしいあの街を思い出す」と歌う。これにたいし、影法師の『花は咲けども』はこう歌う。「花は咲けども春をよろこぶ人はなし 毒を吐き出す土の上 うらめし、くやしと花は散る」。

2014年5月、YBCラジオスペシャルが「花は咲けども~ある農村フォークグループの40年~」を放送した。山形放送(YBC)が、影法師の40年の歩みをたどりながら『花は咲けども』を歌うまでの葛藤を記録した番組である。この番組は最高峰の賞であるギャラクシー賞や放送文化基金大賞などを獲得する。『花は咲けども』の認知度が一気にあがる。日本テレビ系列の「NNNドキュメント15」も、『花は咲けども』をめぐる影法師の思いや演奏活動を全国放送した。

「白河以北一山百文」は、明治維新のころ、薩摩・長州中心の官軍が、反官軍となった東北地方を侮蔑した言葉である。白河は、みちのく(東北地方)の玄関口だ。「白河の関から北の奥羽諸国は山ばかりで、それも一山で百文ぐらいの値うちしかない僻地である」。官軍はこうさげすんだ。東北の人びとにとって、「白河以北一山百文」は反権力を標榜する逆のスローガンになっている。

1987年に東北自動車道が開通した。開通によって首都圏のゴミを積んだトラックがドッと押しよせてくる。影法師はそんな腹立ちを『白河以北一山百文』で歌う。「ゴミにまみれて生きてみろよ」「原発背負って暮らしてみろよ」と、都会人の理不尽さを皮肉る。この歌は大きな反響をよんだ。

影法師のメンバーは「葉山の自然を守る会」に加わっている。1986年、長井市や白鷹町にまたがる葉山(標高1236m)に大規模林道を通すという計画がもちあがった。影法師は『葉山参道』をつくって集会などで演奏し、計画中止に貢献した。

◆原発事故で村を追われた人たちの記録

ドキュメンタリー映画『飯舘村 わたしの記録』は、福島第一原発事故で全村避難を強いられた人たちの記録である。長谷川健一さんが伝える「あの日」からの記録だ。

長谷川さんは福島県の飯舘村で酪農を営んでいた。原発事故によって避難を強いられ、辛酸をなめた。「自分が味わっていることを当事者目線で伝え、後世に残さないとだめだ」とし、ビデオカメラを購入して独学で撮影をはじめた。

飼っていた牛が売られていく様子。荒れ果てていく田畑。村の自宅で家族が集まった最後の晩餐。放射能に汚染された風景。これらが当事者の目線で描かれている。

長谷川さんは、放射能に汚染された飯舘村の現状を訴えつづけた。しかし2021年10月22日、甲状腺がんで亡くなる。68歳だった。佐高信さんはこの日の意見発表で、「長谷川健一さんは国家に殺された」と話した。

◆東北人の不屈の精神を歌で伝える

“東北の歌姫”と呼ばれる白崎映美さん。中央に支配されない、迎合しない「まつろわぬ民」と呼ばれた東北人の先祖をイメージし、赤いびらびらの衣裳で熱唱した

白崎さんは“東北の歌姫”と呼ばれている。東北を中心に全国各地で精力的に歌いつづけている。東北を盛り上げ、東北人の不屈の魂を世に伝えるため、酒田弁で東北賛歌を届けている。

この日は、『まづろわぬ民』などを熱唱した。「まづろわぬ民」(まつろわぬ民)は、支配されない、従順でない民という意味である。「オラがたの先祖はまづろわぬ民だ そごを越えてゆげ 苦難越えでゆげ」とたくましく歌う。白崎さんは、東北人の不屈の精神をこの歌にこめ、あちこちで伝えつづけている。

歌手の白崎映美さんは山形県酒田市の出身である。佐高信さんと同郷だ。二人は酒田市の「酒田北前大使」(酒田ふるさと観光大使)に任命されている。白崎さんは酒田ふるさと栄誉賞も受賞した。

◆“いい人”をやめ、「まつろわぬ民」になろう

評論家の佐高信さん。日本の政治がひどい状況になっていることを話し、“いい人”をやめて「まつろわぬ民」になろう、と語りかけた

佐高信さんは日本の政治がひどい状況になっていることを話した。

国家権力や統一教会(世界平和統一家庭連合)がいかに恐ろしいものであるかも語った。統一教会の政治組織、国際勝共連合が1987年3月に発行した『週刊思想新聞』の号外を見せ、こんなことを話した。号外の見出しは「暗躍する左翼弁護士」。統一教会と闘ってきた4人の弁護士を顔写真入りで批判している。山口広弁護士などだ。各弁護士の住所と電話番号も書いてある。これを弁護士たちの事務所や自宅の近くにばらまいた。その結果、一日に百何本も無言電話が山口弁護士たちにかかってくる。それが3週間もつづいた。だが山口さんたちはそういうものにめげずに闘ってきた。

佐高さんはまた、いまの自民党は国会議員の4割が世襲議員であり、「ミコシは軽くて“パー”がいい」議員が多すぎる、と指摘した。

最後にこう語りかけた。

「世襲議員の岸田が軍拡を推し進めるような世の中をそのままにして子どもたちに渡すわけにはいかない。“いい人”をやめ、徹底して『まつろわぬ民』になっていただきたい」

フィナーレでは、影法師の『美しい村』を出演者と来場者がいっしょに歌った。

(文・写真/中山敏則)


JAWAN通信 No.143 2023年5月10日発行から転載)