2004国際湿地シンポジウムでの「中池見宣言」

　日本湿地ネットワークでは、10月16〜17日、10万年の泥炭の体積を持つ中池見湿地のある敦賀市で、「ラムサール登録・未来への贈り物〜その役割と展望」というテーマで2004年の国際湿地シンポジウムを開催しました。このシンポジウムでは参加者によって、以下の「中池見宣言」が採択されました。

　この貴重な泥炭湿地に石油備蓄基地を計画していた大阪ガスが、2005年春にこの土地を敦賀市に寄付することになったことを受けて、中池見湿地だけでなくその他、日本中の省みられていない貴重な湿地にとってのラムサール登録の意味を考えるシンポジウムでした。ゲストスピーカーとして国際泥炭地保全グループ（IMCG）前代表のリチャード・リンゼイ氏、環境省野生生物課長の名執芳博氏、元ラムサール事務局アジア地域担当官の小林聡史氏を招き、ラムサール登録をすることの意義についてさまざまな角度から話し合いました。この宣言はその成果を表現しています。

中池見宣言

　湿地は、賢明に利用され、未来の子どもたちに受け継いでゆくべき、地球の財産です。日本にも、ここ敦賀の中池見湿地をはじめとして、たくさんの素晴らしい湿地があります。
私たち人間一人一人が、かけがえのない個性を持っているように、湿地も一カ所一カ所それぞれが貴重です。21世紀となった今、湿地は、たとえわずかな面積であっても、私たちの無知によってそこなわれてはなりません。

　しかし今、佐賀地方裁判所の道理ある仮処分決定に抗して、農林水産省は諫早湾干拓事業の工事を再開しようとしています。有明海八代海の環境異変は深刻で、漁業不振から地域経済に与えているダメージもはかりしれません。一日も早く中長期の開門調査を実施し、環境異変の真相が解明されることを、私たちは望んでいます。
　沖縄の中城湾・泡瀬干潟では、大型の開発計画を再考すべきです。埋立予定地の土地利用は見通しが立っておらず、貴重なうみくさの移植は難航しています。代替うみくさ場の創造などは、環境保全策とはいえません。すみやかに、埋立事業そのものを、道理にもとづいて抜本的に再考すべきでしょう。
　また、全国各地でさかんに立案・実施されている自然再生事業は、それぞれの事業が、湿地の賢明な利用になっているのか、生物多様性をそこなっていないのか、真摯に検証されるべきです。
　博多湾の和白干潟・人工島擬似湿地・今津干潟、東京湾の三番瀬・盤州干潟などは、まず、内湾全体の環境保全を考え、それにもとづいて、個別湿地の保全計画を策定すべきでしょう。東アジア・オーストラリア地域シギ・チドリ類重要生息地ネットワークに登録されている、四国の吉野川河口干潟では、環状大橋の建設など、生態系をズタズタに断ち切るような開発計画が実施・計画されています。そのような、湿地の賢明な利用に反する生態系の「分断」は許されるべきではありません。
　ラムサール条約登録湿地となった藤前干潟は「にがしお」と呼ばれる貧酸素水塊の問題などを抱えています。あらためて、伊勢湾三河湾全体から環境改善をはかっていかなければなりません。流域や海域全体の環境をどうするのか、伊勢湾三河湾でも問われています。大阪湾・瀬戸内海についても、流入河川の流域全体や、広域の環境保全を考えなければならない時がきています。

　湿地には泥炭地のように、私たちにその価値が見えにくく、したがって無知によってそこなわれやすいものもあります。しかし、ここ敦賀の中池見では、10万年の歴史を持つ泥炭地が湿地として後世に受け継がれてゆくことになりました。大阪ガスと敦賀市長の賢明な英断を高く評価し、中池見湿地が一刻も早くラムサール条約登録されることを、私たちは望んでいます。
　英国のラムサール条約登録湿地は150カ所にものぼっていますが、日本はまだ13カ所にとどまっています。登録湿地面積の合計も、日本は英国の10分の1ほどに過ぎません。現在、環境省は22カ所以上の湿地登録を目指しており、私たち市民も登録湿地を増やすことに賛成です。登録湿地を増やすためには、選定の基準に、気候配慮や生物地理学からの観点、流域や広域の環境から個別の湿地を考える視点の導入が不可欠ではないでしょうか。私たちは、中池見をはじめ、日本の数多くの湿地がラムサール条約に登録され、賢明な利用の精神のもとに、次世代に受け継がれてゆくことを願ってやみません。
　以上を、2004年国際湿地シンポジウムin敦賀の参加者一同は宣言します。

2004年10月17日
2004年国際湿地シンポジウムin敦賀　参加者一同

Nakaikemi Statement

Participants, International Wetland Symposium
Tsuruga
17 October 2004