那覇地裁が泡瀬干潟埋め立て中止の判決を下す

 2008年11月19日に、那覇地裁は沖縄県と沖縄市に対して、泡瀬干潟埋立事業の中止を命じる画期的な判決を言い渡しました。
 JAWANは大切な湿地である泡瀬干潟を守るために、全国の団体・個人のみなさまとともに、この事業に反対してきました。この判決によって、いま、わたしたちの思いを実現する大きなチャンスが訪れています。しかしながら、報道によると、沖縄県、沖縄市は、早々に控訴して解決を先延ばししようとしています。控訴を許さず、破壊から保全へと泡瀬干潟の歴史を転換するために全国から声を上げましょう。

埋め立て工事中の泡瀬干潟

 JAWANでは下記の控訴断念を求める要請書を作成し、11月25日に沖縄県と那覇市に提出する予定です。

※現地の泡瀬干潟を守る連絡会からの最新情報はこちらのページをご覧ください。



内閣総理大臣  麻生  太郎 様
沖縄県知事  仲井眞 弘多 様
沖縄市長  東門 美津子 様

泡瀬干潟埋立事業公金支出差止訴訟判決の控訴断念と,
泡瀬干潟の保全を求める要請書

2008年11月22日
日本湿地ネットワーク(JAWAN)
共同代表  辻 淳夫
共同代表  堀 良一

1 11月19日,那覇地方裁判所は沖縄県と沖縄市に対し,泡瀬干潟埋立事業は,2007年12月に沖縄市長が「第I区域は土地利用計画を見直す,第II区域は推進が困難で計画の見直しが必要」という方針を表明した後の現時点においては,経済的な合理性を欠くとして,事業の中止を求める画期的な公金支出差止の判決を言い渡しました。
 同時に判決は,違法とは言えないまでもと断りながら,この事業の全般にわたって問題点を指摘しました。すなわち,環境影響評価においては,鳥類,サンゴ類,海藻草類,貝類等の調査,サンゴ類やサンゴ礁生態系等に対する予測において検討が不十分な部分があること,トカゲハゼに関し,先行する新港地区埋立事業の環境影響評価の予測と結果等を踏まえた検討がされていないことなど,不十分な部分が散見されると指摘しています。そもそもの経済的合理性については,宿泊需要等予測に種々の疑問点が存すること,宿泊施設以外の立地予定施設は計画に見合うだけの企業の進出が見込まれるかについては厳しい状況にあったことを指摘しています。
 大規模公共事業が,環境面への悪影響と経済的合理性の両面にわたって裁判所から厳しい指摘を受け,結局,現時点における経済的合理性すなわち公共性なしとして,工事途中において,公金支出差止が命じられるのは,この国の裁判史上例のないことです。
 それだけに,この事業を推し進めてきた国,沖縄県,沖縄市は,被告となった沖縄県,沖縄市はもとより,住民訴訟の枠外にあるため被告とならなかった国を含め,今回の司法による異例の断罪を厳しく受け止めなければいけません。

2 泡瀬干潟は、多様な生物相を誇る,南西諸島の生物地理的特徴を代表する干潟であり、環境省の重要湿地500選に取り上げられた、ラムサール条約登録湿地の条件を満たす国際的に重要な湿地です。したがって,その保全は,地域的課題にとどまらず,全国的,国際的な課題でもあります。
 当ネットワークは、埋立免許直前の2000年10月に沖縄市で国際湿地シンポジウムを開催して以来、この事業が,諫早湾干拓事業と並ぶ,この国の無駄で有害な公共事業の典型であるとして,事業中止と泡瀬干潟の保全を訴え続けてきました。このような指摘は,当ネットワークのみならず,様々な団体・個人からもなされています。
 先般,韓国で開催されたラムサール条約第10回締約国会議や同会議に先立って開催された世界湿地NGO会議においては,この事業は,韓国のセマングム干拓事業や,わが国の諫早湾干拓事業とともに,東アジアにおける環境破壊事業の典型として,国際的な注目を集めました。締約国会議において採択された決議案X.22「水鳥のフライウェイ保全のための国際協力の促進」においては,これらの湿地破壊事業を意識して「東アジア・オーストラリア地域フライウェイの中で、水鳥にとっての生死を左右する生息環境を提供しているだけでなく、漁業をはじめとするさまざまな生態系サービスを通じて非常に多くの人々とその社会を支えている、潮間帯湿地に対する強烈な圧力に特に留意」すると指摘されています。
 この湿地破壊事業を断罪し,泡瀬干潟保全に向けた歴史的展開の契機となりうる今回の那覇地裁判決は,このような内外の世論から歓迎されています。
 国,沖縄県,沖縄市は,今回の判決を契機に,改めて,こうした内外の世論に真摯に耳を傾ける必要があります。

3 以上をふまえて,当ネットワークは,この事業を推し進めてきた国,沖縄県,沖縄市に対し,次のとおり,要請します。

(1) 沖縄県と沖縄市は,今回の判決に対する控訴を断念すること
(2) 国,沖縄県,沖縄市は,この事業を中止し,すでに行われた工事によって破壊された自然を再生するための取り組みを開始すること

以 上


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