タイラギ壊滅・ノリ不作・「原因不明の浮遊物」・・・・
異変つづく有明海の漁業被害を
「公害等調整委員会」へ申請!!

菅波 完(諫早干潟緊急救済東京事務所)

今年5月初旬から、有明海で新たな「異変」が起こっています。茶色い糸くずのような、ぬたのようなものが有明海の広い範囲で大量に浮遊しているのです。この浮遊物の正体や発生のメカニズムは、はっきりしていない部分もありますが、珪藻プランクトンや、その他の有機物などが、粘液状のものに凝集したようです。

▲浮遊物がべったりとついた漁網
 漁民の方からは、この浮遊物が魚を獲る網にからみつき、通常の数倍もの重さになったため、「漁船が沈みそうになった」との話を聞きました。一部の海域で育ちかけているタイラギや、その他の魚介類の産卵・生育への悪影響も心配されています。

 有明海異変は、収まるどころか、さらに状況は深刻化しつつあります。一日も早く諫干工事を中止させ、水門開放・潮受堤防撤去による有明海の再生を実現するために、私たちは、この4月から、「原因裁定」という新たな取り組みをスタートさせました。

「原因は諫干」との裁定を「公害等調整委員会」に申請


▲原因裁定の申請のために上京した有明海沿岸の漁業者(4/16)
 今回の「原因裁定」では、有明海沿岸四県の漁民19人が申請人となって、近年、有明海でノリ・タイラギ・アサリ・クツゾコなどが極度の不振に陥り、漁業者が深刻に被害を受けていることについて、「諫早湾干拓事業が原因である」との「裁定」を公害等調整委員会(公調委)に、求めるものです。

 ご承知の通り、諫早湾干拓については、ムツゴロウ裁判や森裁判、「よみがえれ有明海」裁判などで、事業の不当性を訴えていますが、被告である国(農水省)は、特に問題の根本にある「諫干と漁業被害の因果関係」について、資料は出さない、審議は先延ばしするなど、「逃げ」の戦術に徹しています。

 また、諫早湾干拓に関する専門家の委員会が、これまで何度と無く設置されてきましたが、結局、調査や検討に時間がかかるばかりで、事業の問題性を明らかにし、ストップさせる力にはなり得ませんでした。ノリ第三者委員会も、まさにその一例ですが、これらの委員会がいずれも農水省のもとに設置されてきたことに限界があったといえるでしょう。

 これらに対抗する新たな戦略として、諫干関係の3つの弁護団や市民グループなどが協力して、「原因裁定」を申請することにしました。

 「原因裁定」(公調委のHP参照)は、裁判とよく似た手続きではありますが、公調委が独自の立場で(農水省の姿勢とは関係なく)原因関係を調査・認定することができます。また、裁判に比べ、結論が出されるまでの時間が短く、費用も安いなどの利点もあります。

 「原因裁定」自体に強制力はありませんが、まず「漁業被害は諫干が原因である」との裁定を、できるだけ早く勝ち取り、それを武器に、裁判や運動を強化していく考えです。

 6月27日に第一回の審問が行われることに決まりましたが、できれば9月頃までには、論点整理や現地検証なども終わらせ、公調委に迅速な裁定を迫りたいと考えています。

農水省への要請行動で漁民の怒り爆発!!
水産庁は実態調査の実施を確約!!

 原因裁定を申請した4月16日と、公調委事務局との協議を行った5月15日には、「公共事業をチェックする議員の会」の仲介で、農水省・水産庁との直接の交渉が実現しました。特に、水産庁と接触できたのは大きな収穫でした。

▲農水省との交渉(5/15)
 水産庁側は、当初、この冬のノリ不作についても、「今年の不作は、一昨年ほどではないので、一昨年並みの対策を講じることはできない。」「各県などを通じて情報の収集に努めている。」という、いかにも“お役所的”な姿勢で、実情を全く理解していない、むしろ、理解しようとしない状態でした。

 漁民側からは、「事態は極めて深刻であり、有明特措法22条に基づいて、漁業者の救済にあたるべきではないか。」「水産庁は、漁家経営の実情を全く理解していない。」「現実の問題に対処するには、これまでのような包括的な調査手法自体を根本から改める必要がある。」と徹底的な糾弾を受けました(漁民からはもっと生々しい発言があったのですが、活字ではうまくお伝えできません)。

 水産庁は、今回の2回の交渉を通じて、ようやく実態調査に乗り出すことを約束しました。この調査では、漁連ではなく、漁業者の生の声を直接聴取することなどを折り込んだ上で、直ちに準備にかかり、8月中を目処に調査を完了させるようなテンポで実施するよう、強く申し入れています。

▲浮遊物で汚れた網を持参して有明海の惨状を直訴する漁民。
 一方、諫干事業の主管である農村振興局は、4月16日の交渉でも、「有明海異変の原因は、まだ特定されていない」と開き直り、5月15日は、出席もしてきませんでした。先日の「よみがえれ裁判」での国側の反論でも同様ですが、諫干による有明海全体への影響は、多くの研究者から指摘されているにもかかわらず、農水省は、断片的なデータをよりどころに、「一概にそうとは言い切れない」というレベルの反論をしながら、とにかく事業完成の既成事実を作り上げようとしています。

 5月15日の交渉により、水産庁とは、次回6月27日に、再度協議の場を設け、被害実態調査の具体化の話し合いをすることになりました。これと合わせ、水産庁を窓口として、農村振興局との交渉を、同時に行うことを申し入れています。水産庁とは、建設的な関係ができつつありますが、農村振興局については、難癖をつけて逃げ回る相手を、追い回す状況を続けざるを得ないでしょう。

 冒頭に述べたとおり、、有明海の状況は、ますます悪い方向に進んでいく可能性があります。

 今回の公調委と、水産庁による被害実態調査・漁業者救済策の具体化が当面の大きな課題となりますが、この動きに、改めて世論の注目を喚起することが重要な局面となってきました。

▲有明海の異変をよそに、内部堤防(白く見える線)の工事が進む諫早湾干拓地
 諫早の問題は、全国の干潟保全運動の原点であり、ここで勝ってこそ、各地の干潟・湿地の保全があるとの決意で取り組んでおりますので、全国の皆さんのご理解とご協力をよろしくお願いいたします。

(JAWAN通信 No.75 2003年6月1日発行から転載)