自然再生法成立とNGO

竹下 信雄(雁を保護する会顧問)

 昨年12月4日、「自然再生推進法」が参議院本会議で可決成立しました。今年1月東京新聞が社説に、この法律が「ひっそりと成立」した、と書きましたが、それほど静かにひっそりとできた法律ではありません。

 JAWANを始め、多くの自然保護団体が反対し、あるいは懸念を示しました。日弁連など弁護士団体や法律家グルーブが6つも同様態度を表明しています。

 最大野党の民主党は「こんな良い趣旨の法案なら早く通そう」という議員が多い中、賛成するが修正させるという方針が決まり、5月末の与党案に対し、7月に大幅な修正要求が行われました。また、国会できちんと議論をすることも、このとき決まりました。衆議院環境委員長の大石正光議員は「こんな良い法律……」グループの最右翼でしたから、党内で大変な議論がくりかえされたようです。環境省幹部も半ば公然と影響力をふるおうとしました。

 民主党内では、さらに大きな亀裂をおこす事件がありました。国会での審議中の11月、鳩山由紀夫党首が突然「この法案はつぶすべきだ」と言い出したのです。しかしこの騒ぎは1日も続かず、同氏の影響力を大きくそぐ結果に終わっただけでした(その後降板)。これらひとつひとつに、NGOの発言や行動がからんでいました。

 最初、政府提出の法案として考慮されたが、環境・国土交通・農水各省の官僚同士の協議ではまとまらないであろう、という判断が働き、議員提出の法案が練られていくことになった……という説があります。私の知る限り、この説は正しいのです。最初からきな臭さを漂わせていたといってよいでしょう。多くの自然保護関係者は私も含めて、このきな臭さに昨年5月まで気がつきませんでした。少数ですが、早くからこのことを知り、いい香りだ、と思った人たちもいたようですが。

 この法案の作成に早い段階からかかわった人たちは、夏に終わる通常国会中に、公式な議論は全くせずに成立させる、という目標を持っていました。そのやり方はこうです。法案がほぼ固まった段階で、「自然再生を積極的にやっていく、そのための法律をつくる、環境大臣どうですか」というような質問を国会の環境委員会で複数の議員が日を替えてしていくのです。大臣は「必要かもしれません。できたらいいですね」と答弁をくり返します。そして、国民にとっては全く突然にある日、法案が提出され、今までもなんども委員会で取り上げてきましたようにぜひ成立させましょう、ということになり、その場で議論もせずに採決してしまうのです。与野党で多少もめたとしても、それを環境委員長がまとめると、委員長の大きな功績となるはずでした。実際にそのような筋書き着々と進行していたのでした。

 しかし、多くの人が関心を持ち、議論をし、意見を述べたことによって、法案提出前に修正があり、継続審議扱いとなり、9月から始まった臨時国会で実質的な審議が行われました。参考人招致も実現し、JAWANからも参考人が出ました。委員会会議録と参議院の附帯決議があとに残りました。衆議院でも一部修正がありました。既に再生・復元が行われている現場(埼玉県くぬぎ山など)の状況が、環境省などが言っているようにうまくいっているわけでは決してないことも明るみに出ました。法案反対の立場にたったJAWANとしても、得るものが少しはあったのではないでしょうか。

(JAWAN通信 No.75 2003年6月1日発行から転載)