和白干潟が国指定鳥獣保護区になりました

松本 悟(ウエットランドフォーラム)

和白干潟から国指定鳥獣保護区と人工島を望む(写真:港湾局資料より)
 2003年11月1日から、和白干潟及び前面海域254ha(干潟面積約80ha)が、これまでの県設鳥獣保護区から“集団渡来地の保護区”として「国指定鳥獣保護区」に移設されました。

 和白干潟は、すでに97年、第8次指定の候補としてリストアップされていましたが、この時は福岡市の強い抵抗によって実現されませんでした。人工島開発や道路計画に対する規制を福岡市が嫌ったためです。当時、博多湾市民の会などは、福岡市、県、環境省(庁)に出向いて指定に向けての働きかけをしましたが、福岡市は明確な拒否の理由を説明することはなく、環境省も福岡市の態度に困惑した様子でした。
 今回の指定は、2002年の予定で進められていました。2002年の10月には最終手続として地元説明会(オープン)まで開催されました。しかし、周辺の畑地の野鳥の食害被害や、地区の開発などの問題で、地元の農業関係、自治会などの了解が得られずに、地区単位での再調整を余儀なくされ1年間遅れてしまいました。周辺の開発は鳥獣保護区の範囲とは全く関係ありませんが、開発に規制がかかるというイメージが先行してしまっていることや、鳥の保護よりも人間の生活を優先すべきだという意見が出されたようです。これには行政、地元住民やNGOも含めた丁寧な説明会と意見交換、そして充分な理解が求められるところです。現在、問題になっている三番瀬のラムサール登録問題と根っこは同じではないでしょうか。

 指定範囲について、海の広場、雁の巣鼻の植物エリアは含まれましたが、新たな4車線道路計画がある奈多〜雁の巣の護岸は50m沖まで規制は及びません。またラムサール登録の前提となっている[特別保護区]の指定は今後の課題として残されました。地元の保護団体などは、博多湾西部の今津干潟も含めるように求めたのですが、今津周辺には、和白干潟以上に九州大学移転や福岡市の水処理場など複数の開発計画があり、今回は指定に及びませんでした。
 和白干潟の国指定は、人工島の埋め立てが80%程度進捗して、和白干潟の環境悪化が心配される状況の中でやっと実現しました。あまりにも遅すぎたと言わざるを得ません。人工島着工前に当時の桑原市長が「人工島の埋め立てが終わったら、ラムサール登録もある」と言ったことを思い出します。まさに典型的なラムサール登録の上手?な日本的利用法です。

 地元の保護団体の思いは、今回の指定については、「充分ではないが、一歩前進」だと受け止めているのではないでしょうか。国指定後は、野鳥被害に関する懇談会がスタートして補償額等が決定されることと、20本の鳥獣保護区用制札と2基の案内版の設置が決まっているだけです。決して「干潟が良くなるわけでもなければ、鳥が増えるわけでもない」のです。
 今回の国指定を機会に、早急に行政、市民、NGOなどが、和白干潟の将来像や改善、保全の目標をつくり、共有することが求められます。これから国指定鳥獣保護区という新たなステージで何をアピールし、獲得できるのかが問われてくるのではないでしょうか。

 今回の国指定にあたっては、和白干潟を守る会、野鳥の会福岡支部、博多湾市民の会など、多くの市民の長年にわたる献身的な努力があったことを記して敬意を表したいと思います。


点線の範囲が指定エリア

<国指定鳥獣保護区の指定目的/環境省>

 当該地域は、博多湾の最奥部に位置する和白干潟とその前面海域を中心とする地域で、東アジア・オーストラリア周辺地域渡り経路上に位置していることから、シギ・チドリ類、ガンカモ類等の渡り鳥が多数飛来する。
 特に春秋の渡りの時期および越冬時期には、シロチドリ、トウネン、ハマシギ等のシギ・チドリ類が多数渡来し、その渡来数は国内有数の規模である。また、ツクシガモ、クロツラヘラサギ、ズグロカモメ等の希少種の生息も確認されている。
 このように、当該地区は、シギ・チドリ類を始めとするする渡り鳥の中継地、越冬地として、国際的に重要なことから、集団渡来地の保護区として、鳥獣の保護及び狩猟の適性化に関する法律第28条第1項に基づく鳥獣保護区に指定し、当該地域を利用する渡り鳥の保護を図るものである。

(JAWAN通信 No.77 2004年2月20日発行から転載)