辻 淳夫(藤前干潟を守る会/日本湿地ネットワーク代表) 世界の指導者を自認するアメリカ大統領は、国連調査団を押しのけ、「大量破壊兵器」を理由にイラク侵攻を進めたのに、自国CIAの調査団長がその「存在」を否定すると、「やったことは正しかった」が、「私も事実を知りたい」とトボケている。 意図的であったかどうかはともかく、結果として明らかになった「判断の誤り」からの侵攻が何を引き起こしたのか、イラクの民間人1万人以上と自国の兵士500人を犠牲に、どんなに抑えつけても、「自爆テロ」によるレジスタンス(抵抗)が広がる現実がある。 「力は正義」と、抵抗するものは圧倒的な火力で粉砕する身勝手な暴力と、民族の誇りを無視して、「自分の都合」を押し付ける傲慢さこそが、9.11を引き起こした本質であることを、その被害者の遺族ですら気がついているのに。 問題は大方のマスコミも、「どうしてこうなったか?」の調査団設置に大統領が同意したと、まるで同じ側に立つ報道をしていることだ。「判断の誤り」と「侵攻の過ち」を反省し、元の状態に戻していく努力を求めることが先だろう。 湿地保全とは場違いなようだが、「いのちの尊厳」を忘れ、「判断の誤り」を認めず、「調査」が必要と、問題をすり替え、先送りしていくのは、「諫早」における農水省と同じで、それを許してきた私たちの社会も、同質な問題を抱えている。 「有明大異変」から3年、復元すすまぬ諫早干潟をもう一度思い起こしてみよう。 そもそも、諫早干拓事業は、アセスメント(環境影響評価)で「諫早を閉め切っても、その影響は近傍に限られ、有明海に及ぶことはない」という判断をもとにはじめられた。 そのとき、誰もがその判断に同意し、その結果を予想しなかったのだろうか? 故山下弘文さんはこの事業に一貫して反対してきた。諫早湾全域を閉め切る当初構想の3分の1になったとはいえ、漁師が「有明海の子宮」、「いのち湧く泉水海」と呼んでいた諫早湾内の干潟全てを、一気に失うことの結果を正確に見ぬいていたのだ。 誰の目にも明らかに「有明海への影響」が出た以上、上記のアセス審議会を再招集して、アセス判断の当否を確認させるべきだった。そうした判断をした委員個人としても、良心があるなら、山下さんや漁師たちの言った通りになったと、土下座してでも謝罪し、水門を開き、締め切り堤防を撤去する「原状回復」を進言すべきであった。
佐賀地裁の差し止め判決や、公害審議会の「裁定」に期待しながらも、私たちは、この3年間の「茶番劇」に、もっと怒らねばなるまい。 (JAWAN通信 No.77 2004年2月20日発行から転載) |