山下博由(貝類保全研究会) フェリーの着く島の表玄関であり中心地である石間浦(いしまうら)は、島の南端にある。石間浦の東海岸に、大分県土木建築部(国土交通省国庫補助事業)による大入島東地区港湾環境整備(廃棄物埋立護岸)事業(事業期間、平成9年〜22年)があり、6.1haの埋め立てが計画されている。公有水面埋立免許願書は平成14年7月に提出され、15年1月に認可された。
石間区(=石間浦)では、古くから、地先の海藻や貝などを地区民が採取し、その権利を地区として所有・保護してきた。これが「磯草の権利」と呼ばれる慣習的漁業権であり、いわゆる入会権や地先権の一種である。地区住民全員が自由に採貝・採草する権利を有する他、入札によって権利を独占することもできる。入札によって得られた収入は区の運営費にあてられてきた。現在では、海藻の採捕は住民が主に自家消費として行ない、経済価値の高いアワビ・サザエの採捕について入札が行なわれている。入札額は30〜60万円であると言われる。現在、埋立事業との関連において「磯草の権利」訴訟が大分地裁で行なわれている。熊本一規氏はその著書の中で「磯草の権利は地区の持つ財産権には間違いありませんから、それを無視して埋立はできません」と述べている。また、石間浦の埋め立てを、石間区以外の組合員の多数決で決めたことについて、漁業権放棄無効の訴訟も行なわれている。 埋立必要理由書には、埋立の動機として、(1)市民が水辺と親しむための緑地の整備、(2)住宅用地の確保、(3)港湾整備及び道路整備に伴う土砂処分場の確保、が挙げられている。しかし豊かな自然を破壊しての公園化は疑問であるし、緑地も宅地も大入島の既存の陸地に充分に存在している。埋め立ての実質的な最大理由と考えられる土砂処分においては、佐伯港内の浚渫土砂も持ち込まれるが、これは興国人絹パルプなどの排水によって長年の汚染にさらされてきたもので、現在も住民達がヘドロと呼ぶ汚染の疑いの強いものである。しかもこの埋立地は大入島小学校の正面に位置している。子供たちがダイオキシンなどの被害にあう可能性もある。 大分県は山下らの貝類調査結果を受けて、2003年11月14日から数日間、追加調査を行なったが、その分析結果を待たずに11月18日に着工の指示を出した。これは環境保全措置を含む事業の手続きとしては極めて非常識なものであり、大分県には環境NGO、研究者から多くの抗議が集中した。石間浦の住民は11月18日から、現地に3つのテントを張り、着工に対する監視・実力阻止を始めた。このため大分県は現在も着工していない。
小学校の眼前にあり、イルカが泳ぎ、地域の人が生活の糧を得、限りなく愛している、この海を埋め立てようとしているのは何者なのか? (JAWAN通信 No.77 2004年2月20日発行から転載) |