泡瀬干潟埋立・海上工事、8月再開を許すな

前川盛治(泡瀬干潟を守る連絡会 事務局長)

 昨年度(03年度)の泡瀬干潟埋立・海上工事は、8月再開予定でしたが、ニライカナイゴウナ(二枚貝に寄生する巻貝)、リュウキュウズタ(海藻)、ホソウミヒルモ(海草)等の新種や貴重種・重要種が続々発見され、その保全を沖縄県の環境部局と調整するため、ストップしていました。04年2月には一部再開されましたが、陸からの仮設橋梁が105m延長されたのみでした。
 今年度に入り、6月3日、環境監視委員会が開かれました。その委員会で、事業者は、ストップしていた海上工事を8月から再開したいと表明しています。多くの委員が、事業者の示した保全策は、「保全策になっていない」と指摘しているのに、無視されようとしています。
 これまでに事業者の示した新種、貴重種・重要種に対する保全策は、「主な生息地は埋立予定地外である」ので、埋立予定地内に生息しているものは生き埋めにし、周辺についてはモニタリングを継続する等でした。ニライカナイゴウナについては、埋立予定地内とその周辺が主な生息地ですが、生息適地と思われるところ(同種がわずか1個体生息しているところ・津堅島周辺)に移動するとしています。移動による「保全」は、専門家からも種の保全の「保証」にはならないと指摘されていました。発見者の山下博由さんは、その後の研究の結果、同種が「新種」である可能性がさらに高まったとして、事業者側に埋立予定地内の生息場の保全を訴えていますが、聞き入れられません。

左:ニライカナイゴウナ 右:ホソウミヒルモ

 また、今年3月に発見されたオサガニヤドリガイ(メナガオサガニに寄生する二枚貝)も主な生息地は埋立予定地内であるのに、周辺にも生息しているのでそこをモニタリングするとか汚濁防止幕で保護するといった対策で、まったく保全にはなっていません。同種は生態的な特異性、発見例が少ないこと等から貴重種・重要種に相当するのにこのありさまです。事業者の立場は、「環境に配慮しながら工事をすすめる」といいながら、種の保全・環境保全はまったく無視して「工事着工ありき」です。
 一方、埋立予定地内の海草藻場の保全のため、事業者は01年11月〜03年3月に海草の移植実験や手植えによる移植を行ってきましたが、現時点ではっきり「失敗」です。リュウキュウアマモ等の大型海草の移植による保全が困難であることがはっきりしてきました。埋立の前提(移植)が崩れたわけで、大型海草の移植は失敗したが「大型海草のかわりに、小型海草が少し生えてきて、新しい海草藻場が創造された」という誤魔化しは、問題のすり替えであり、工事の続行は許されないはずです。

オサガニヤドリガイ

 ところで現在、普天間基地の代替で辺野古に新基地を建設するとして、環境アセス方法書が縦覧されており、基地建設の陸上作業ヤードの候補地として「遊休化」している中城湾港新港地区(特別自由貿易地域・FTZ)があげられています。新港地区の港・航路の浚渫土砂捨て場として泡瀬干潟が埋立てられることになっていますから、陸上ヤード案がそのまま実現すれば、新たな米軍基地建設のために泡瀬干潟が埋立てられることになります。新港地区の本来の目的外の利用になり、泡瀬埋立て事業そのものを問い直さなければなりません。これはまた、FTZ構想による新港地区の航路浚渫の緊急性・合理性の無さを改めて証明するものです。また、本来方法書にしめすべき辺野古海域のボーリング調査を、護岸を作るための事前調査の名目で着工しようとして、辺野古住民の反対行動で着工できない状況が続いていますが、その資材が、なんと沖縄県が管理している新港地区の港の一角に保存されています。新港地区が辺野古基地建設に利用されつつあります。
 各種の世論調査の結果でも、沖縄市民の立場は「埋め立て反対」ではっきりしています。また、埋立て後の土地利用(海洋リゾート地)もバブル期の発想であり、沖縄市のアンケート結果でも立地希望のホテルはほとんどなく、実現性がありません。栽培漁業センターや海洋研究所も目途はありません。
 以上のように、ラムサール条約事務局や日弁連等国の内外から保全が求められ、世界に誇る貴重な泡瀬干潟が、合理的な理由もないまま埋立て工事が強行されることは、一部のゼネコンに奉仕する無駄な「公共」事業の典型であり、埋立て事業の「回避・代替・中止」が今求められています。8月工事再開を止めさせるため、全国からの「中止」の運動が緊急に必要になっています。ご支援をよろしくお願いいたします。

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 泡瀬干潟の貴重性は、これまでたびたび紹介されていることですが、以下にまとめておきます。

泡瀬干潟の貴重性 ( )は環境省RDBの表示及びRDおきなわの表示
1.沖縄で残された干潟で、最大であり、ラムサール条約登録湿地の漫湖より、シギ、チドリ類の渡り鳥の飛来が多い。泡瀬干潟で確認された種は約150種(沖縄野鳥の会)特にムナグロは全国の53%が泡瀬干潟で越冬している。次は貴重種。

サンカノゴイ(1B)、クロツラヘラサギ(1A)、ハイタカ(U)、ハヤブサ(U)、アカアシシギ(U)、ホウロクシギ(U)、セイタカシギ(1B)、ズグロカモメ(U)、ベニアジサシ(準)、エリグロアジサシ(準)、コアジサシ(U)、サンショウクイ(U)、アカモズ(準)、カイツブリ(RDおきなわ・希少) リュウキュウヨシゴイ(RDおきなわ・希少)、ムラサキサギ(RDおきなわ・危急)、オオバン(RDおきなわ・希少)、シロチドリ(RDおきなわ・希少) カワセミ(RDおきなわ・希少)、ヘラシギ(今年4月、泡瀬干潟で20年ぶりに撮影)

2.貝類が約308種も確認されるように、沖縄に生息する貝のほとんどが泡瀬干潟で確認される。しかも生産量が非常に多い。貴重な貝も多い。家族連れで潮干狩りできる数少ない場所の一つである。次は最近見つかった貴重種。

オボロヅキ(日本新産、事業者は確認していない)、 スイショウガイ(希少種)、ニライカナイゴウナ(新種)、オサガニヤドリガイ(貴重種)

3.沖縄に生息する海草の12種の内11種が確認できる(無いのは、ウミショウブのみ)。海藻の新種リュウキュウズタも埋立予定地に生息している。

ウミヒルモ(NT)、ヒメウミヒルモ(U)、ホソウミヒルモ、ウミヒルモsp、リュウキュウスガモ(NT)、 ベニアマモ(NT)、リュウキュウアマモ(NT)、ボウバアマモ(NT)、ウミジグサ(NT)、マツバウミジグサ(NT)、コアマモ(DD)、(ウミショウブ)

4.生息している新種、貴重種・重要種。

クビレミドロ(T)、ホソエガサ(T)、トカゲハゼ(1A)、ヒメウミヒルモ(U)、オキナワヤワラガニ(RDおきなわ・希少)、ミナミコメツキガニ(RDおきなわ・地域)、ルリマダラシオマネキ(RDおきなわ・希少)、トビハゼ(環境省RDB・地域、RDおきなわ・希少)、ヤマトウシオグモ(DD)、ヒラモクズガニ(DD)、ミゾテアシハラガニ(RDおきなわ・希少)、アコヤガイ(水産庁・減少)、イボアヤカワニナ(準絶滅)、シラヒゲウニ(水産庁・減少傾向)、リュウキュウズタ(海藻新種)、ホソウミヒルモ(海草新種)、ウミヒルモsp(海草新種)、ニライカナイゴウナ(貝の新種)、オカヤドカリ・ムラサキオカヤドカリ・ナキカヤドカリ(国指定・天然記念物)、カワツルモ(種子植物、TB)

5.環境省は泡瀬干潟等全国550箇所を重要湿地に指定している。また泡瀬干潟を含む琉球諸島を世界自然遺産に登録しようとする動きがある。

6.泡瀬干潟の近く北側の金武湾でジュゴンが目視され、食み跡が見つかっている。泡瀬干潟は昨年8月、ジュゴンの糞と思われるもの(事業者は否定しているが)が発見されている。また、南の知念半島の岬沖でもジュゴンの食み跡が見つかっている(環境省発表)。金武湾と知念半島の間の泡瀬海域にジュゴンが生息している可能性は高い。

(JAWAN通信 No.78 2004年7月1日発行から転載)