ヘラシギを通した、
ロ・韓・日の若い人々の交流

柏木 実(日本湿地ネットワーク運営委員)

 ハマシギとヘラシギに焦点をあて、繁殖地を中心にして2000年から行ってきた日本湿地ネットワークとロシア科学アカデミー共同の標識調査は、日本・韓国で新しい動きが出てきました。(今年は日本経団連自然保護基金の活動援助を受けています)。
 9月はじめからの3週間、繁殖地での調査を続けてきた調査メンバーを中継地に招きました。世界で600つがい以下というヘラシギの繁殖地での様子と、日本・韓国の中継地での様子をたがいに伝え会おう、という試みです。未知のヘラシギの生態を立体的につかみ、人と人が直接知り合うことで、より多角的な情報の交流が今後できればと考えました。

 繁殖地から呼んだのはロシアのモスクワ国立大学動物学大学院生のイヴァン・A・タルジェンコフ。極東シベリア・チュコト自治区の繁殖地で2ヶ月以上の繁殖期間を通して2002年から毎年参加してきたメンバーです。対応した中継地の韓国では韓国国立教員大学大学院生のキム・インチョル(金忍鐡)と、2003年12月より毎月行われているセマングム干潟市民生態系調査団。日本では、ふくおか湿地研究会の服部さんと、大阪南港野鳥園南港グループ96の村田朋子さん。もちろん、福岡でも大阪でもグループの多くの方々が一緒に支えてくれました。そして、韓国では1997年からのNGOによる干潟の水鳥調査の中心、キム・キョンウォン(金敬源)や、環境運動連合(KFEM)、また日本では土谷光憲さんや高田博さんをはじめとするそれぞれのグループの方々がしっかりと支えてくださいました。
 経済的なめどがなかなか立たず、ロシアからのビザ取得にも手間取ってしまったため、広報が思うように行かない中、調査は9月4日のセマングムにおける干潟生態市民調査団の集まりから始まりました。この日柏木がヘラシギの繁殖地での調査とその渡りについて発表。翌日セマングムの干潟の水鳥を観察。イヴァン(ヴァーニャ)はまとめの会合から参加。9月5日から韓国南西端モッポ周辺の干潟から韓国西海岸を北上して、水鳥個体数の調査をしながらヘラシギを探しました。春には200羽ほどの個体が観察されたこともあるセマングムで10日に2羽の幼鳥を観察することができました。
夢洲埋立地・採餌場所で泥質採取
(写真提供:榮本和幸氏)

 日本では、16日からこれまでも観察があった博多湾人工島と大阪南港の夢洲(ゆめしま)埋立地で観察を行い、幼鳥をそれぞれ2羽ずつ観察しました。また、福岡、南港野鳥園と、ちょうど21日まで奈良市で開催中だった日本鳥学会のシギ・チドリ類自由集会でもイヴァンのヘラシギについての発表と、情報交流の機会を持ちました。
 今回の日本での観察地はどちらも埋立地であり、特に博多湾人工島と和白干潟との比較ができなかったことや、広報の不足は、きちんと反省しなければなりません。
 しかし、ヘラシギを媒介として水鳥たちと湿地の保全を求める若い人たちが国境を越えて直接接することができたことの意義は非常に大きかったと思います。直接交流をした人たちを中心に、日本でも、韓国でも、今後の調査への期待が高まっています。また、この希少種の情報が集まり始めています。

 この調査・交流の後、10月はじめにかけて、日本の岡山県倉敷市と韓国チュンチョン南道ユブ島(セマングムのすぐ北にある島)で、繁殖地でフラッグを付けた幼鳥がそれぞれ観察されました。来年1月には、ヘラシギの越冬地で初めての調査が、インド・オリッサ州ガンジス川河口で行われます。希少種ヘラシギ・普通種ハマシギを通したシギ・チドリ類の移動調査に今後も注目してください。

(JAWAN通信 No.79 2004年12月10日発行から転載)