柏木 実(日本湿地ネットワーク運営委員) セマングム住民裁判ソウル行政法院は昨年7月、セマングム干拓工事中止の仮処分命令を出しました。この仮処分判決は潮受け堤防工事から生じる水質汚染とそれに基づく干潟の環境の損失を認め、潮受け堤防補強工事等に要する損失より大きく、差し迫った事情があるとした執行停止決断でした。2004年2月、ソウル高等裁判所がこの仮処分判決は無効であるとの判決を下し工事が再開ました。この判決は、環境上の損失は確定が難しいとして、2.7kmの開放区間を除き海水の流通がすでに整備されており、潮受け堤防工事を中断する等の緊急な必要性がないこと、海水が2.7kmの開放区間を通るとき、流速が普段の4倍に達し潮受け堤防が壊れる危険性があり、工事が執行停止になれば臨時補強工事費用および漁場の荒廃などの公共福利への悪影響の恐れがあるとしました。 ソウル行政法院における本裁判は、11月19日、最終弁論が終わりました。裁判長は最終弁論で両者に和解を勧告しました。和解が出なかった場合にも、来年2月ごろ判決が下されます。 全羅北道の動き地元の干拓推進派の割合はかなり高く、諌早湾の場合同様、全羅北道選出の議員も事業推進の立場をとっているといいます。それを受けてか、8月末、全羅北道は干拓地の南端部分に540ホールのゴルフ場建設の計画を明らかにしました。しかしこの計画はゴルフ場に伴う環境への影響があるだけでなく、農地造成という事業目的にも反しています。住民・環境団体の動き2003年4月末から5月末にかけたセマングムからソウルに至る350kmの「三歩一拝」行進からソウル行政法院における工事停止仮処分決定にかけてのもりあがり以後、必ずしもまとまった動きが作れてきませんでした。しかし工事進行に伴って、潮流が変わり、堆積が進行するところもあり、それまで採れていた貝も採れなくなるなどの被害が顕著になり、10月26日、セマングム干拓工事被害住民上京集会という集会がソウルの国会議事堂前で行われました。漁民を中心とする住民を国内複数の主要環境団体が支え、国会議員も巻き込み、日本からもメッセージを寄せました。この集会をきっかけとして、漁民を中心として工事被害住民組織が準備され、発足にいたりました。 セマングムの問題は、韓国内で起こっている多くの開発事業の象徴であり、また、諌早をはじめとする日本の開発事業とのつながりも大きなものです。どちらかに保全の決定がなされることは日韓両国、そしてアジアの保全に大きなインパクトを持っています。 (JAWAN通信 No.79 2004年12月10日発行から転載) |