国際湿地シンポジウム、敦賀で盛会に開催
――中池見湿地のラムサール登録へ弾み

笹木 進(NPO法人ウェットランド中池見理事)

 さる10月16日、17日と福井県敦賀市でJAWAN主催「2004国際湿地シンポジウム in 敦賀」が開催されました。敦賀市で中池見湿地の保存活動を展開しているNPO法人ウエットランド中池見と中池見湿地トラスト「ゲンゴロウの里基金委員会」が運営を主管しました。
 中池見湿地での開発計画が中止となり、事業者である大阪ガス鰍ェ買収した土地と造成した施設の全てを敦賀市に寄付するとの表明を受けての敦賀市開催でした。
 テーマを「ラムサール登録・未来への贈りもの“その役割と展望”」に、講演やパネルディスカッション、ポスター展示などが行われ、北海道から沖縄まで各地で湿地の保護活動に携わっている人々や関係者、地元県民・市民など多彩な顔ぶれ150人が参加、盛会でした。

快晴に恵まれた現地観察会

 初日、午前中の中池見現地観察会は、台風23号の接近から天候が心配されていましたが、何と快晴。敦賀駅で全国からの参加者をお迎えして貸切バスで湿地入口の樫曲へ。私たちが「うしろ谷」と呼んでいる細長い谷から中池見へ向かいました。途中、カヤネズミの球巣も見てもらいました。トラスト1号地前広場では鳥類標識調査中のメンバーから説明を受け、それぞれ希望のコースに分かれて中池見を見学しました。通常は閉鎖されている保全エリアへの湿地北側ゲートも開放していただき、造成エリアに関心のある方には自由に見学していただきました。また、山際の「シボラみち」コースでは、途中、愛称「トトロの木」(ハゼノキ)の下で午後のシンポ講師陣によるレクチャーがあり、中池見ならではの湿地環境を感じていただきました。

現地観察会で中池見江尻を行く
参加者
「トトロの木」の下でのレクチャー

わかりやすかった「ラムサールおばあちゃん」

 本会場とした敦賀短期大学は郊外の高台にあるため景色はいいのですが、交通の便が悪く、2日目には敦賀マラソンとバッティングして、一部参加者の皆さんにはご迷惑をお掛けしました。
 JAWANの辻代表の開会挨拶と河瀬敦賀市長の来賓挨拶をいただいて開会。名執芳博・環境省自然環境局野生生物課長が「COP9に向けた環境省の取り組みと課題」と題して特別講演。来年の締約国会議に向けての登録地倍増の選定作業について話され、選定のために内規的に運用されている3点セット―条約基準、国の指定、地元の了解―に基づいてのフロー図と具体的な手順を説明されました。
 続いて海外からのゲスト、リチャード・リンゼイ・イーストロンドン大学(英国)教授が「中池見湿地―展望、価値、選択とラムサール」の演題で、世界における泥炭地の現状や価値、保護の必要性などについて話され、その中での中池見が泥炭湿地として世界的に貴重な特別なサイトであることを強調されました。特に印象的な言葉が「見えないこと(blindness)」ということでした。「先進世界は、こと泥炭地となると見ることができない・見ようとしないという妙な文化にとらわれている」と指摘されました。名執課長も耳を傾けて聞いておられました。3点セット以外の登録基準の参考にと捉えていただけたらと思いました。国際泥炭地保全グループ(IMCG)代表として20年も世界中を飛び回り調査されてきただけに説得力のある内容でした。
 ラムサール条約事務局勤務を経験した釧路公立大学の小林聡史教授はラムサール条約に登録される意義について、「ラムサール条約入門―湿地の価値を見直し、賢明な利用に取り組んでみよう」と簡潔にわかりやすく解説しました。地域にある登録該当地を家庭の中でのおばあちゃんに例えて説明。「国際的に重要なおばあちゃん条約」があったとします。常々、普通に生活し、家族も特別に世話をしていない「おばあちゃん」がある日突然、「あなたのおばあちゃんが国際的に重要なおばあちゃんに指定されました」と通知を受けたら……何が変わると思いますか、と笑いと和やかな雰囲気の中でその意義を説明しました。
 最後に藤前干潟を守る会の辻淳夫理事長がラムサール登録地からの報告として「藤前干潟から伊勢湾へ」と登録までの経緯と現状・課題を報告。そして、これから目指すことは伊勢湾丸ごとのラムサール条約登録と表明して、第1日目が終了しました。
10月16日夜の交流会
 その後、同キャンパス内の学食で交流会が開かれ、地元の酒と食材を堪能していただきながら講演者と参加者が意見を交したり、各地の情報を交換したりと和やかなひとときを過ごしました。特に地元の肴「鯖の丸焼き(浜焼き)」と特注ラベル「羅夢早有留」の地酒、新記録樹立を祝って蔵元がイチロー選手に贈った純米大吟醸酒「夢は正夢」が振る舞われ、会場を盛り上げました。

選定基準に「生物多様性」も!

 2日目は、伊藤よしのさんの「ラムサール条約と私たちの東京湾」の活動報告からスタート。有明海諫早干潟、沖縄泡瀬干潟、東京湾三番瀬からの重点報告があり、その後、各地を結ぶリレートーク。博多湾会議(福岡)、泡瀬干潟を守る連絡会(沖縄)、ウエットランドフォーラム(福岡)、とくしま自然観察の会(徳島)、紺屋田・印所の森を守る会(愛知)の5団体がそれぞれ現地の状況などを報告しました。
 午後のパネルディスカッションでは、名執課長が中池見の生物多様性にふれ、条件が整えば登録可能との認識を示し、会場から大きな拍手が湧きました。その後、中池見宣言を採択して2日間にわたる今年のシンポが終了しました。
 翌日には、リンゼイ氏と関係者5人が敦賀市長と福井県副知事を表敬訪問、リンゼイ氏は、驚異的な層厚の泥炭地は希少で、さらに生物の多様性を併せ持つ中池見湿地は世界的にも稀で貴重だと述べたのに対し、市長も副知事も重要性を認識したと対策への前向きな姿勢を表明、中池見湿地のラムサール条約登録への展望が開けた有意義なシンポジウムとなりました。
 海外ゲストのリンゼイ氏は19日に京都・深泥が池の視察と西本願寺の「白雁の図」を特別拝観、20日は奈良市内を散策され、21日朝、離日されました。

パネルディスカッション 敦賀市表敬訪問。リンゼイ氏(左)と河瀬市長(右)

(JAWAN通信 No.79 2004年12月10日発行から転載)