三番瀬は今のままがいい

牛野くみ子(千葉の干潟を守る会副代表)

 三番瀬円卓会議はこの1月、2年間の議論を報告書にまとめ解散しました。
 後継組織である再生会議は、いつ立ち上がるのかと心待ちにしておりましたが、6ヶ月過ぎても何の音沙汰もなく、しびれをきらして堂本知事に質問したところ「私の任期中には条例を通すことは出来ない、それに漁業者が同席しないので」と言われびっくりしました。知事にとって条例が記載されている報告書は宝物だったはずです。それなのに、それなのにです。
 やっと8月と9月の末に、再生会議準備会が開かれましたが、漁業関係者である漁協は2回とも欠席をしました。
 準備会では県が用意した「市川塩浜護岸の改修」「市川漁港の整備」「環境学習および利用・管理に関する検討会議」など、5つの先発事業について担当部局より説明がありました。これには円卓会議の元委員からも「制度小委員会で条例をまとめた。それが今になっても出されていない。不満である」「知事はやる気があるのか」「個別事業が再生会議の下でなく、知事の下で行われる。円卓会議の方法が部局に広がっていない」「順応的管理の手法がまったく見えない」などと批判が相次ぎました。
何しろ、再生会議がいつ発足するのか見えない状況の中で、県が作った再生計画策定スケジュール(案)だけは粛々と進められているのです。
 10月の末、県は再生事業に関わる基礎的な調査の説明会を開きました。これには柏木さん、埼玉の伊藤さんも駆けつけて下さいました。説明によれば、「再生会議を何時立ち上げるとは言えない状況の中で、基礎的な調査は早くやらねばならない」ということでした。
 中でも、海岸保全区域を、海側に張り出す形での設定には、多くの人から「海域を狭めないとした円卓会議の合意を無視するもの」「石積み護岸は、今居る生き物がいなくならなければ良いというものでなく、生物の目標も護岸の設計に入れて欲しい」などと円卓会議遵守の声が挙がりました。この海岸保全区域の海側前出しは、元委員に意見の聴取もなく、6月に県が決めたものです。
 やっと、準備会や説明会が行われましたが、その内容は一方的で、2年間の円卓会議での手法はまったく活かされておりません。そこで、今まで三番瀬に関わってきた7団体は「再生会議を早急に立ち上げ、その中で議論・検討すること」「海岸保全区域は海側に20〜23m張り出すことは撤回せよ」「市川塩浜の護岸改修事業の調査には、底生生物や付着生物だけでなく、魚類や浮遊生物、海生植物なども調査すること」等の要望書を知事宛に提出しました。すると、三番瀬推進室は「この事業は河川計画課と河川環境課なので、そちらに行ってほしい」というのです。「何で推進室でないのですか」と言うと、「推進室は調整するところです」と応えました。個別事業はそれぞれの関係部局がやるものと言うのですが、これでは以前の土木工事と何ら変わりなく、前の縦割り行政に戻ってしまいました。
 いろいろ問題はありましたが、情報公開、住民参加をうたい、縦割りをなくした三番瀬円卓会議の手法は、2年間で終了したと考えられます。

ふるいを揺り動かす山下博由さん
(写真提供:三番瀬市民調査の会)

 三番瀬にのしかかる不安要素。
 その1.16年ぶりに、堂本知事は土地収用委員会を再建いたしました。知事は事あるごとに第2湾岸は必要と言っています。三番瀬にかかる第2湾岸は土地収用はありませんが、外環は?“外環は絶対反対で頑張っているから出来ない”はもう通用しなくなったのです。何しろ収用委員会ができたのですから。外環が出来れば2湾も。
 その2.三番瀬ヤミ補償裁判の問題です。
 先日、三番瀬保全と漁業問題を取り上げた議員が、県政の大きな課題となっている転業準備資金問題に対する知事の見解を求めたところ、知事は市川市行徳漁協と南行徳漁協からの提言を評価しているとのことでした。この提言は「望ましい水際線」の造成を検討して欲しいというもので、流れの停滞域を解消する必要性、そのための漁場修復と自然干出機能をもった砂浜造成の必要性を言っているのです。
 即ち、猫実川河口の所に土砂を入れ、弓なりにすると、潮の流れが良くなり、漁場にも良いといっているのです。埋立てです。これは、石積み護岸の計画とも通じます。
 その3.自治体の再生会議不参加です。
 新聞報道によると、浦安市は、市既存の都市計画が無視されているとして、再生会議不参加を表明していますし、市川市、船橋市も「計画をチェックする委員でなく、県と一緒に計画を作るのでなければ」と難色を示しているとのことです。
 ちなみに、円卓会議では、浦安の低・未利用地の部分は、アシ原にしたり砂地をいれて
後背湿地・干潟化が提言されています。また、再生会議準備会での県の説明では「再生会議は知事の諮問機関であって、県が作る再生計画や実施する事業について、委員は意見を述べることが出来る」になっています。即ち、委員は言いっぱなしに終わるのです。
 三市が難色を示しているし、本当かどうか知りませんが、漁協も出席を断っているとのことで、再生会議はいつ開かれるのか見通しが立っていません。また、開かれたところで言いっぱなしでは。よほど、委員さんに頑張ってもらわないと。それと、私たち独自の運動を今、やらないといけません。
 三番瀬に立つと、生きもののざわめきが聞こえるとは貝類研究家の山下博由さんの言葉です。豊かな自然環境の三番瀬を、高いお金を払って整形手術する必要性はまったくないのです。三番瀬は今のままが一番いいのです。

(JAWAN通信 No.79 2004年12月10日発行から転載)