和白干潟をラムサール条約登録地に!

山本廣子(和白干潟を守る会代表)

 博多湾の東奥部にある和白干潟は、約80haの砂質干潟です。和白海域は約300haあり、1〜2mの浅海域が続きます。アシ原、砂浜、岩礁地帯などの自然海岸が残り、クロマツ林もあります。干潟本来の景観を現在に留める日本でも数少ない干潟の一つです。沿岸にはハマニンニク、ハママツナ、シバナ、ウラギクなどの貴重な塩生植物が自生しています。
 ここでは海岸から、鳥と同じ高さで水鳥たちを間近に見ることができます。全国の干潟は干拓や埋め立ての歴史があり、堤防の護岸になっているところが多いと思います。和白干潟も北側には護岸がありますが、東・南・北西側に自然海岸を残しています。水鳥たちは護岸の上から見た方が警戒心もなくよく見ることが出来ますが、自然の海岸線の砂浜やアシ原から鳥たちを見るのもまたいいものです。気をつけないと音や人の気配に鳥たちは飛び立ちます。

 玄界灘や博多湾は東アジアの水鳥の渡りルートが交差する地点にあり(日本列島を南北に渡るルートと、中国から朝鮮半島を通り九州北部に入るルート)、特に野鳥の種類数が多い場所です。和白干潟周辺では、1980年以降235種の野鳥が観察されています。特に春の渡りの時期の和白干潟は、シギ・チドリ類が立ち寄る中継地となります。 また10月には越冬するミヤコドリやカモたちも渡ってきます。そして、一番水鳥の多い冬を迎えます。ハマシギは1500羽程の群れで越冬しており、ミユビシギやシロチドリと混群を作って美しく群舞します。その他に絶滅が心配されているクロツラヘラサギ、ズグロカモメ、ツクシガモなども越冬しています。

和白干潟に飛来した春の渡り鳥とミヤコドリ

 和白干潟は、底生動物の豊富さと多様な環境が水鳥の種類を豊富にしています。しかし和白干潟沖では、1994年7月から401haもの人工島埋め立て工事が進んでいます。浚渫を含む工事海域は1000ha、工期は、当初は10年間と福岡市は言っていましたが、10年を超えた現在も埋立中です。着工以来、博多湾の海水中のCOD値は博多湾のほぼ全域で基準値を超えています。海水の富栄養化によるアオサの大量発生も恒常的になりました。和白海域を全面緑にして、吹き寄せられたアオサが干潟沿岸で腐り、ヘドロになります。福岡市のモニタリング調査でも、人工島着工以降、水鳥や底生動物が減っています。日本野鳥の会福岡支部のガンカモ調査でも、和白海域で越冬する水鳥の総羽数は、多かった時期の1992年1月の約26000羽と比べて、最近は約3分の1に減っています。
 福岡市の人口増加による家庭排水の流入増と、博多湾の相次ぐ埋め立てで浅海域を失い、浄化能力を落とした博多湾は弱ってきています。人工島建設によりさえぎられた博多湾の潮流と、和白海域の海水の交換をいかに復活させるかが今後の課題です。

和白干潟での潮干狩り

 こんな中、03年11月に和白干潟は国指定鳥獣保護区に指定されました。保護区の範囲が狭いことや特別保護区が無いことなどまだまだ課題はありますが、これからラムサール条約登録湿地に指定されるまでの第一歩だと思います。和白干潟を守る会ではこの国指定和白干潟鳥獣保護区指定のための基礎調査となる博多湾全域の鳥類調査を、環境省・WWFジャパンの委託を受けて実施しました。国指定となったことを記念して、写真絵はがき「みんなの和白干潟」を発行しました。
 04年9月に環境省はラムサール条約の登録湿地の候補地を発表し、その54ヵ所の1つに和白干潟を選びました。内10箇所程度の湿地が、05年11月にウガンダで開催される第9回締約国会議で登録を申請される予定です。和白干潟では隣接する地元の農地の野鳥被害対策が課題になっています。和白干潟を守る会では和白干潟がラムサール条約登録湿地になるようリーフレット「ラムサール条約と和白干潟(仮称)」を発行したいと考えています。
 都市化の進んだ福岡市の中心部から約30分のところにある和白干潟は、人々に心休まる憩いの場を提供しています。潮干狩りやバードウオッチング、自然体験や環境教育の場所にもなっています。

 「和白干潟を守る会」では大切な和白干潟の自然を未来の子どもたちに残すために、自然観察会や和白干潟まつり・クリーン作戦・鳥類調査・和白干潟通信やパンフレットなどの発行・ホームページでの広報・シンポジウムの開催などの多くの活動を、17年間に渡って行ってきました。また2003年1月には「博多湾・和白干潟保全のための提案」を福岡市長に提出しました。私たちはこのような地道な環境保全活動を通して、博多湾・和白干潟の自然の大切さを多くの人に伝えたいと願っています。

(JAWAN通信 No.79 2004年12月10日発行から転載)