ゴミ埋立断念から6年、藤前のあらたな出発

辻 淳夫(NPO法人藤前干潟を守る会/日本湿地ネットワーク代表)

センター施設オープン

 3月27日、藤前干潟に2つの環境省施設、稲永ビジターセンターと藤前活動センターがオープンする。この施設にはいろいろ不本意なことがあったが、ともかくも、私たちがめざしている活動を展開する場、拠点ができることを喜び、それを活かしていこうと、悩みながらも、両施設の管理運営業務を引き受ける決断をし、今、その準備に追われている。
 これだけ聞くと「良かったね」といわれそうだが、「悩み」というのは、今回引き受ける請負業務の内容が、施設の開閉と来訪者への応接、管理と清掃業務であって、パート程度の人件費しかなく、環境学習を進める人材の雇用を想定していないという点である。そのため、センター施設の発足を契機に、当然増えると予想される総合学習や体験学習のガイドを担うガタレンジャーからも常勤者4名が取られ、本来活動に支障の出ることだ。
 当初「施設は環境省が、運営は地元自治体とNPOで」としてきた環境省も、ラムサール登録への要件とした鳥獣保護区設定で、ごみ埋立断念時の経緯から名古屋市の強い要望が出て、「国が管理運営までやる」と譲歩した。国は施設を作っても、運営は地元にまかせる方針は変わらず、光熱費含めて1施設1千万程度しか予算がとれないという。
 環境学習を柱とする施設に、必要な資質と能力を備えた人材の配置は何より重要なことであり、干潟として日本で初のラムサール登録地になった谷津干潟(1993年)では、習志野市が総額10億円の施設に、1.2億円の運営費をかけ、(財)日本野鳥の会に業務委託されたレンジャー専門職を含む12人で運営されていると聞く。
 私たちは、こうした状況を打開できないかと、「持ち寄り協議会」を提案し、名古屋市や愛知県の対応を打診してきたが、市議会も絡む経緯があって、多面的な形での協力意志はあっても、予算的な協力は、現段階では得られないことがはっきりした。
 藤前干潟を守る会としても、ラムサール登録が確実となった時点から、それを期待して、NPO法人格の取得と、藤前の魅力と本質を伝える担い手として「ガタレンジャー」の養成に取り組んできたが、ここは環境省の要請を受けて、敢えてこの業務を引き受け、守る会が社会から期待されている活動につなげる足場としていく他はないと決断をした。
 指定管理者制度など、ボランティアを安く使う風潮への批判や、本来必要な人材確保のための予算的努力が忘れられないかと心配もいただいたが、請負契約の際にもあらためて環境省に要請し、その点は「継続して努力する」意志を伺った。
 どんなに不足でも、藤前干潟の危機に直面してきた経験からみれば、願ってきた活動の場ができるのはありがたく、この機会を精一杯活かすことが私たちの使命と考えている。苦境を発展のバネにする藤前流として、ここは少し背伸びしても、ガタレンジャー修了生にがんばってもらい、また若い人、経験を積みたい方々の参加を呼びかけたい。

藤前干潟協議会の発足

 もうひとつ嬉しいのは、藤前干潟協議会が発足することだ。本来なら施設設計前の段階に始まってほしかったが、昨年8月に環境省から、当会を含む野鳥4団体と関係自治体への呼びかけ招集に対して、より広範な市民活動グループや個人、地元住民にも呼びかけた藤前フォーラムから、実質的な準備協議、市民がリードする行政との対等な関係づくり、場づくりが始まった。
 当初は、施設ができても、必要な人材を確保する予算がないところで、社会全体でこれをどう支援していけるかという視点で始まったが、お金のことになるとなかなか話が進まないので、それも協議会で協議すべきこととして後回しとし、まずは、藤前干潟に関わる情報や課題を共有し、互いの不足を言い合うのではなく、互いにできることを「持ち寄り」、オープンで対等な対話の場をつくることを主眼として進めてきた。
 明治天皇の5か条のご誓文という、いささか古い言葉遣いだが、「広く会議を興し、万機公論に決すべし」という精神を再認識し、関係者がお互いにある「壁」を超えてなんでも率直に話し合えば、自ずから良い解決の方向が見えてきて、お互いがそれを「持ち帰る」ことができるという信頼と希望を育てる場をつくってゆくことが藤前にふさわしい協議会のあり方ではないかと考えている。
 その目的は、「長年の市民活動によってゴミ埋立から守られ、名古屋市のごみ行政に画期的な転機を与え、ラムサール条約の登録湿地となった、日本有数の渡り鳥渡来地である藤前干潟の歴史的・社会的意義をふまえて、その魅力と本質を伝えながら、藤前干潟の保全と活用をはかり、それを通じてゆたかな伊勢湾と流域環境をとりもどし、持続可能な社会を実現することに寄与する」とし、この目的に賛同し、意欲的に参加し、協働することをのぞむ団体、個人を会員に、関心を持って見守り、支援することをのぞむ団体、個人をオブザーバーにして進める。
 藤前干潟協議会が何を創ってゆくのかは、協議の進め方として決めた、
  1. 協議会は、会員全てに共通する、地球的なつながりの中で生かされているひとつの生命として、歴史的、社会的なつながりをもって今を生きている人間として、次の世代の幸せを願うひとりの市民として、出会い、話し合える場とする。
  2. 協議会は、それぞれの自発的な意欲をもっとも尊重し、それぞれの持つ力や個性を合わせた「協働」をはかる。
  3. 協議会は、行政から市民への「通達」、「諮問」、「委嘱」といった、「トップダウン」ではなく、市民からの「自発」、「参画」、「提案」を行政が支援する「ボトムアップ」を基調とする。
の実践にかかっていて、参加するものの意識とそれを見守るものの「協働」になるだろう。これまで、遠隔の地から藤前の保全に力を貸していただいたり、その後の進展にも強い関心を持っていてくださる方々の思いや知恵をつないで、その規約が作られた。
 これからも、そのつながりを暖めながら進められることを願っています。どうぞ、よろしく。

(JAWAN通信 No.80
 2005年3月20日発行から転載)