泡瀬干潟「自然の権利」訴訟、いよいよ始まる
―全国からの支援をお願いいたします―

前川盛治(泡瀬干潟を守る連絡会事務局長)

(1)今工事している区域の西側は非常に貴重な場所である。
 泡瀬干潟は、沖縄県が「自然環境の保全に関する指針」(1998年)で、厳正に保全すべき地域に指定したところであり、絶滅危惧1A類(環境省)のトカゲハゼ、同1類のクビレミドロが生息している場所でもあります。そして、工事着工後も私たちや海草藻類・貝類・カニ類の専門家によって次々と新種・貴重種が発見されました。
 特に、私たちがホットスポットと呼んでいるところ(今工事している区域の西側)は、ホソウミヒルモ・ヒメウミヒルモ・リュウキュウズタ・ニライカナイゴウナ・スイショウガイ・深場のコアマモ等、新種・貴重種・重要種の生息場所であり、「場の保全」により「種の保全」を図ることが大事であると事業者に要請してきました。しかし、事業者は、自ら新種の可能性があると認めているニライカナイゴウナ、オサガニヤドリガイを「移動によって生存が保証されるもではない」と認めながら、工事区域外に大量に移動してしまいました。
 また、工事区域内の海草藻場の被度は、事業者と私たちの合同調査で56.6%の区域があること(連絡会調査結果)が明らかになっているのに、海草藻類を移植しないで、04年10月に工事を再開してしまいました。

サンゴ
(埋立予定地のスギノキミドリイシ)

(2)ホットスポット隣接西側及び西防波堤北西海域に、沖縄ではほとんど見られなくなった貴重なサンゴ生育地を発見。
 ところで、私たちは、このホットスポットの西側に隣接するサンゴ類生息地(埋立予定地・以後「サンゴホットスポット」)及び西防波堤北西海域(航路予定地、将来掘削される)の調査を改めて行いました。次はその調査概要です。
1)西防波堤北西海域でヒメマツミドリイシ群落(被度50%以上、面積は2500u以上)が確認された。
2)サンゴホットスポットでスギノキミドリイシ群落(被度50%以上、面積は400u以上)が確認された。同群集は海藻の群落の中に見られる。
3)サンゴホットスポットでリュウキュウキッカサンゴの群落(被度30%以上、面積は150u程度)が確認された。
4)確認されたヒメマツミドリイシ、スギノキミドリイシ、リュウキュウキッカサンゴは、近年沖縄の西海岸では絶滅し、東海岸でも泡瀬、大渡海岸など限られている。サンゴの増殖、移植を考える上で重要であること

 以上の調査結果と、事業者は上記の海域での調査をほとんど行っていないこと等から、去った5月18日に記者会見し、「早急な調査と保全、沖縄市・県の観光資源(エコツーリズム)としての活用、サンゴの供給資源としての活用」等を事業者に要請しました。

(3)沖縄県包括外部監査人の報告で、泡瀬干潟埋立工事は「事業内容の抜本的な変更や見直しも必要」と指摘。
 去った3月末、外部監査人は報告書で、埋立事業について次のように報告(概略)しています。客観的・公正に県の事業を評価するのが「外部監査人」の制度です。沖縄県知事の任命によって行われ、知事に報告し、事業の検討を求めるものです。
1)「海洋性レク拠点」等の形成の根拠が明確でなく、需要予測が甘い。計画も抽象的であり、巨額(約491億円)を投ずべきか検討必要。事業内容の抜本的な変更や見直しも必要である。
2)事業費の財源として起債を行うことから、隣接の新港地区同様の厳しい財務状況に向かう可能性が十分想定される。

 これらの問題点は私たちが以前から指摘してきたことです。私たちの訴えてきたことが正しかったことが明らかになりました。

泡瀬干潟の工事現場

(4)泡瀬干潟「自然の権利」訴訟が始まりました。全国の支援をお願いいたします。
 私たちはこれまで、訴訟を提起しその準備を進めてきましたが、今度、泡瀬干潟「自然の権利」訴訟を起こしました。去る3月に沖縄県・沖縄市に住民監査請求を行ってきましたが、4月末却下され、5月20日提訴となりました。
 この日は、環境省が沖縄の慶良間諸島海域、石垣名蔵アンパル等をラムサール条約登録湿地に指定することで地元自治体と合意したとして、専門家による検討会に報告したことが報道された日でもありました。価値が匹敵、いなそれ以上と思われる泡瀬干潟が失われようとしていることは残念なことです。
 原告にニライカナイゴウナ(貝)、ホソウミヒルモ(海草)、ムナグロ(渡り鳥)等を加える「自然の権利」訴訟にしました。原告(人)は監査請求を行った613名です。相手は沖縄県知事、沖縄市長です。埋立事業への公金支出の差し止め、損害賠償を求める裁判です。弁護団は原田彰好団長を含め9名の日本環境法律家連盟所属の弁護士です。国(沖縄総合事務局)相手の工事差し止め訴訟も検討しましたが、訴えの利益が弱いこと(漁協・漁民は補償金をもらい、原告に漁民が入ることが困難である)、工事そのものの不当性を追及できないで早期に結審(却下)する恐れがあること等の理由で「住民訴訟」の形式をとりました。これから約2年間裁判が続きますが、全国からの物心両面からの支援をお願いいたします。

(JAWAN通信 No.81 2005年6月30日発行から転載)