浅野正富(日本湿地ネットワーク運営委員) 1971年に成立したラムサール条約はわずか12条の条約ですが、条約の第6条に基づき3年に一度締約国会議が開催され、今年は9回目となります。日本でも、1993年に釧路でCOP5が開催されました。 締約国会議では毎回数十に及ぶ決議や勧告(2002年のスペインのバレンシアで開催されたCOP8からは決議だけになりました)が採択されています。12条の条文はあくまでも条約の枠組みを定めているだけで、条約の中身はこの決議や勧告によって構成されていると言っても過言ではありません。条約の最も基本理念とされる湿地の賢明な利用(ワイズユース)や、登録湿地の選定基準(クライテリア)に関する決議・勧告も何回となく採択され、その内容も深化しており、ラムサール条約を理解するためには、決議や勧告の検討が不可欠です(過去の締約国会議の決議や勧告の日本語訳は、環境省のホームページ、あるいは琵琶湖水鳥・湿地センターのホームページ内の琵琶湖ラムサール研究会のコーナーで閲覧することができます)。 COP9では、「条約の賢明な利用の概念を実施するための科学的・技術的な追加の手引き」や「条約と魚類資源の保全と持続可能な利用」等の決議が採択される予定です。 JAWANでは、過去の締約国会議の決議・勧告について環境省等が行なう翻訳作業に協力してきましたが、COP9で採択される決議についても、日本の湿地関係者が一日も早くその内容を知ることができるように、他の湿地保全に関する団体と協力しながら従来と異なり自主的な翻訳活動ができないかと検討しています。 また、COP7の決議11によりCOP9までに登録湿地を倍増するという目標が掲げられていましたが、日本はCOP7当時の11カ所(現時点は13カ所)を倍の22カ所にするという目標を達成するのは確実で、今回の新規登録により登録地は30カ所近くになりそうです。それ自体は大変喜ばしいことで、環境省をはじめ関係者のご尽力に敬意を表さなければなりません。 しかしながら、まだまだ重要湿地で登録されていないものが数多く存在し、湿地保全を目的とした単一の法律がなく、直接的に湿地保全目的で地域指定されているのはラムサール条約登録地だけというわが国の現状においては、流域単位や渡来する鳥の種類、湿地タイプ毎等の様々な湿地ネットワークの核となる登録湿地を増やさなければ国内の湿地ネットワーク全体の保全を図ることができず、全体の保全を図るためには少なくとも100カ所程度の登録地が必要です。JAWANでは、2026年のCOP16までにわが国の登録地を100カ所とすることを当面の目標にして国内の湿地ネットワークの保全を図るべきであると提唱しています。 COP9には、蕪栗沼をはじめ今回登録される湿地の関係者が多数参加されますが、積極的に意見交換を行い、登録された湿地の関係者が自分のところだけでなくネットワーク全体として湿地を保全していくため新規登録地を増やさなければならないという共通認識を持ち行動を起こしていくためのきっかけをJAWANがつくることができればと考えています。 また、COP9の討議によってCOP10の開催地が決定されますが、韓国が最有力視されており、COP10が韓国で開催されることを契機に、諫早、セマングムという日韓それぞれで開発による破壊が進んでいる重要干潟について開発を中止させ保全・再生に途をつけるとともに、蕪栗沼のふゆ・みず・たんぼのように東アジアモンスーン地帯特有の水田が湿地として果たしている重要な機能を世界に広く認識してもらうために、日韓から強力に情報発信して行きたいと考えています。COP9参加はそのための地ならしとなります。 以上のとおり、私たちJAWANがこれからめざしていくものを実現していくためにCOP9への参加は極めて重要な意味を持ち、カンパラでの会議傍聴、展示、サイドイベント、交流等あらゆる機会を生かして、今後のわが国の湿地保全に繋がる活動を展開したいと思います。 (JAWAN通信 No.82 2005年9月25日発行から転載) |