笹木 進(NPO法人ウエットランド中池見理事) 敦賀市の管理になって1992年春、大阪ガス鰍ェ中池見に内陸型LNG備蓄基地建設計画を発表。その後の紆余曲折の末、99年秋に工事着工10年延期を、2002年春には計画そのものの中止が決定された。そして、大阪ガスは代替利用策がないとして計画地として取得した用地と造成した施設を今春、敦賀市に寄付(全82ha、うち湿地部分25ha)した。寄付を受けた敦賀市は、基本的には従来どおりの保全策を継承するとして、造成された施設とエリア(大阪ガスが代償措置として造成した「環境保全エリア」約10ha。以下「造成エリア」という)のみに重点予算配分。そして、その保全業務も従来どおり大阪ガスのグループ会社・潟eクノグリーンへ随意契約でおろすという図式で管理が行われている。私たちも従来どおり農道の草刈りと小川の水環境保全の作業を継続しているものの、保全のための協働・前進がみられないのが現状である。 その背景には、中池見保全協議会の存在がある。2年任期のこの協議会での結論が出ない限り具体的には動けないとする敦賀市側の後ろ向きな姿勢がある。また、センター施設の運営を任されている元市職員の館長も同様な答弁を繰り返すのみで、現場では対策に苦慮している。
中池見の持つ特異性の認識が希薄中池見は典型的な袋状埋積谷という地形と類例のない厚さの泥炭層、さらに豊かな生態系を併せ持つという現存稀なる内陸低湿地である。この特異性が寄付を受けた敦賀市、さらには福井県にはあまり認識されていないということである。その典型として、この中池見湿地を「都市公園」として保存・整備していくとする敦賀市の方策に福井県も同調である。私たちの「自然公園」として保存して欲しいとの要望に対し、敦賀市は、都市計画地域内に存在するので都市公園に指定し、「風致公園」と位置付けるという短絡さである。 この意向に対し、JAWANをはじめ日本弁護士連合会や日本生態学会中池見アフターケア委員会、IUCN(国際自然保護連合)生態系管理委員会副委員長(北東アジア地区担当)などが意見書や要望を提出したが検討されることなく、担当課の書類つづりにファイリングされただけという案配であった。 昨年秋、敦賀で開催された国際湿地シンポジウムにおいて、リチャード・リンゼイ氏(英・国際泥炭地保全グループ元代表)が特別講演で泥炭地について「見えないこと(blindness)」「先進世界は、こと泥炭地となると見ることができない・見ようとしないという妙な文化にとらわれている」と強調され、保全の意義を熱く語られた。参加者、特に市内・県内からの参加者に共感を得られたと感じたのだが、やはり目に見えないということで地味な存在ととられていることは否めない。 中池見検討協議会の現況寄付が表明された04年夏に敦賀市は保存・活用策を検討するとして、「中池見検討協議会」を設置した。その協議会委員に環境団体・NPO法人ウエットランド中池見が指名され参加することになった。しかし、中池見を知らない、足を運んだこともないような人が多い、当て職ばかりを並べた会議であり、学識者としては環境保全エリアの造成・運営に関わった人を多く配置したという結論ありきの会議である。その証拠に、その後、情報公開で入手した資料の中に、寄付を受けるにあたり北陸農政局への申請書「農地法第5条の規定による許可後の事業計画変更申請について」があったことである。それには受領後の敦賀市の対応が記されていたのである。[1]中池見事業計画書(案)、[2]中池見管理活用計画、[3]平成17年度中池見年間活動計画、[4]敦賀市都市公園の設置公告までのフロー図(H17〜21年度)などなどを添付し、平成17年2月24日付けで提出されていたのである。これらのことは協議会には知らされておらず(座長及び保全エリア造成・運営に関わった委員は当初より知っていた模様)、3月19日に開かれた第3回協議会で公園の性格を決定する以前ことであった。 さらに各年度、保全に3300万円を計上することまで記載されており、筋書きができている中、今さら何を協議させるのかと設置の意義を疑いたくなるような舞台裏が露呈したことについて、事務局の担当課は、マスコミの取材に対し、協議会に知らせる必要、義務はないと突っぱねたという。 今年度、さらに4回の開催が予定されており、提言がまとめられることになっている。
今後の課題と展望中池見の今後の保全方策については、現在継続中の中池見検討協議会の結論が出るまで具体的な動きがとれないという状況である。昨年度開催の3回の検討会を傍聴した限り、期待できるものではない、との印象であった。造成エリアの今後の保全のみに固執し、全域保全が視野にない敦賀市の姿勢が再々指摘されてきたが、一向に認識を改める様子が伺えなかった。また、多くの委員も事務局の市の意向に同調していた。しかし、7月2日に開催された今年度最初の検討会では、やや雰囲気が変わり、委員の中から、私たちが訴えてきたことに前向きな意見が出るようになった。第4回目のこの日、保全の方向性を「開発計画以前の里地里山の風景、環境に戻すことを目標とする」とし、「水環境に影響を与えていると考えられる湿地内に敷設されている工事用仮設道路の撤去を検討する」との了解が得られ、市も検討するとした。 私たちは以前から中池見はラムサール条約登録湿地の要件を満たしている、未来のこども達にいい形で継承するためにも登録をと訴え、運動を進めてきた。特に第8回締約国会議での決議[.11「泥炭地に関する地球的行動のためのガイドライン」を重視、その啓発に務めてきた。その結果、中池見検討協議会でも中池見は「泥炭層」「生物の多様性」で重要との統一認識が醸成され、将来的にはラムサール条約登録を目指したいとの方向性も確認されるに至った。 個別の課題は山積しているが、協議会の検討を見据えつつ、私たちはラムサール会議の決議VIII.16「湿地再生の原則とガイドライン」にのっとった計画も策定し、提示していかねばと考えている。本来は協議会が検討すべき事項である。 今年の第9回締約国会議での登録を目指していたが、国際的に登録への後押しをされながら、環境省の登録地選定のための要件がネックとなり国内での選定から漏れた。今後、環境省が決議VII.11付属書41(法的な保護区という地位)をどう認識するかである。とにかく、次回の締約国会議での登録を目指して、保全活動と運動を展開したい。 (JAWAN通信 No.82 2005年9月25日発行から転載) |