蒲生干潟と自然再生事業の行方
佐場野裕
(蒲生を守る会)
蒲生干潟は、仙台市の北部を流れる七北田川河口にある約11haの潟湖状の湿地で、周囲に広がるアシ原と松林に囲まれ、東側には波が打ち寄せる白い砂浜が続くという豊かな自然に恵まれた環境にある。そこでは、四季を問わず、さまざまな動植物を目にすることができる。とりわけ、この独特の環境を利用する鳥類は多く、干潟を中心とする48haは、国設の仙台海浜鳥獣保護区蒲生特別保護地区に指定されている。
蒲生干潟全景
この蒲生干潟は、実は、36年前(1970年)には消滅の危機にあった。現在の蒲生干潟の北には仙台港が隣接しているが、仙台港ができる前は、干潟が北へ現在の倍以上も延びていた。仙台港建設の当初の計画では、蒲生干潟全体を埋め立てる予定であったのだが、蒲生の自然を大切に思う市民らが「蒲生を守る会」を結成して反対運動に立ち上がり、粘り強い運動の結果、干潟全体の埋め立てが回避され、約1/3の干潟が残され現在の姿となったのである。蒲生を守る会は、干潟の全面埋め立てを阻止した後も、仙台港関連工事の干潟への影響を監視し続け、市民への啓発活動や行政への要請などの活動を続けている。
コクガン
ハマシギ
蒲生を守る会は、会の発足当時より、蒲生干潟の自然環境をモニターするために、蒲生干潟およびその周辺に生息している鳥類について、定期的に同じ方法で、月例蒲生鳥類生息調査を実施している。1971−2003年の33年間にわたる調査結果は、「蒲生海岸鳥類生息調査結果1971−2003」としてまとめられている。この結果によると蒲生海岸で記録された鳥種は273種にのぼり、年間を通してさまざまな鳥類が、干潟とその周辺の環境を利用していることが示され、蒲生干潟の重要性が再認識される一方で、個体数と種数の経年変化から深刻な自然環境の悪化が懸念される状況にあることも浮き彫りにされた。
とりわけ、干潟に特徴的なシギ・チドリ類やガン・カモ類の水鳥は、守る会の発足当時から激減を続けており危機的な状況にある。図1-1、図1-2に、水辺の代表種であるガン・カモ類についての個体数と種数の経年変化を示した。種数ではあまり変わりはないが、個体数は約1/5に減少している。図2-1、図2-2は、干潟に特徴的なシギ・チドリ類についての結果であるが、種数・個体数ともに大きく減少していることがわかる。調査期間中に、個体数で約1/10に、種数で約1/3に激減した。
水鳥の生息環境悪化の原因としては、干潟の北に隣接する仙台港の影響の他に、干潟周辺の開発や海岸へのサーファーなどの人出による影響も考えられる。
※各グラフはクリックすると拡大して見ることができます。
このように蒲生干潟の自然環境が危機的状況にまで立ち至った中、2002年12月に制定された「自然再生推進法」を背景に、蒲生干潟での自然再生事業が環境省の事業として計画され、2002年に「蒲生干潟自然再生事業検討委員会」が設置され、2005年からは「蒲生干潟自然再生事業協議会」として進行中である。「自然再生推進法」については多くの問題点が指摘されてはいるが、自然再生事業が、計画の準備段階から市民・NGOと共同で行われることや、会議の内容などの情報を公開しながら進められることなど、従来の行政の事業形態とは異なる評価できる面もあり、蒲生を守る会も検討委員会に続いて協議会にも参加している。自然再生事業が市民主導で行われていくためには、広範囲の市民とともに、どのような自然復元をめざすのかを考えながら進める必要があるので、蒲生を守る会は、これまで、「蒲生干潟の明日を考える集い」を2回(2003年3月、2004年3月)開催した。そこでは、“「自然再生推進法」と各地の自然再生事業”や“蒲生干潟の明日を考えよう”のテーマで熱心な討議がなされてきている。
再生事業は、現在、第4回の協議会が2006年2月にもたれ、自然再生全体構想がまとまりつつあるところである。今後、本格的な自然再生事業が進む中で、有効な対策や改善策が実行され、蒲生干潟がかつてのような命あふれる、いきいきとした姿に復元されることを期待し、努力していきたい。
(JAWAN通信 No.84 2006年3月25日発行から転載)
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