三番瀬公金違法支出裁判の判決を活かして

牛野くみ子(三番瀬公金違法支出訴訟原告団代表)

 2006年6月に提訴した三番瀬公金違法支出裁判(通称ヤミ補償裁判)は、5年間に19回の公判を経て2005年10月25日千葉地裁にて判決が言い渡されました。
 判決主文は
・沼田前知事に対する請求に係る訴えを却下。
・中野企業庁長に対する請求を棄却。
とする内容でした。
 理由書には
・本件融資の融資額について、その全額を融資する必要性があったとは認めがたい。
・本件埋立て計画の実施が遅れた場合や実現しない場合に、県に多額の債務が無限定に発生する構造になっており、経済性の発揮という地方公営企業の基本原則にも反することから契約内容の相当性を欠くものと言わざるをえない。
・三者合意は契約目的に合理性を認められるものの、契約内容の相当性を欠き、企業庁長の裁量権を逸脱するものとして、瑕疵があるといわなければならない。
と指摘した。つまり、判決は、被告らの責任こそ否定したものの三者合意には瑕疵があり、違法であることを裁判長が認めたのです。二被告の責任を問えなかったことは、誠に残念ですが「三者合意の違法性」「裁量権の逸脱」を、はっきり述べられていることは評価できる判決です。行政マンを相手取った裁判では画期的といえるでしょう。実質的に勝訴に近い判決でした。

2005年10月25日の判決後、千葉地裁前にて 10月25日判決後の弁護団報告集会

 そもそもこの裁判とは、どういうものだったのでしょうか。
 一言でいえば、県が三番瀬埋め立て計画のない時点で違法な漁業補償をしてしまったことです。さすがに、漁業補償とはいえず、転業準備資金融資という名目を編み出したのです。
 私たちがこのことを知ったのは、1999年11月の新聞報道によってです。それによれば17年前の1982年、県企業庁と金融機関、市川市行徳漁協の三者で協定を結び、企業庁は市川市行徳漁業協同組合に埋め立てにともなう漁業補償金を支払う前提で県信用漁業協同組合連合会、千葉銀行から転業準備資金として約43億円の融資をさせること、融資にともなう利息を県が負担するとの約束をしたことです。その結果、1999年までの利息が56億円にも達し、県が予算化を図ったことです。
 埋め立て計画もないのになぜ補償を前提に融資したのか、融資を受けた人が利息を支払うことが当然なのに、なぜ県が原資を上回る利息を負担するのか、議会議事録にも記載されていないのはなぜか、17年間も県民に知らせてこなかったのはと次々と疑問が生じました。千葉県の金権、癒着、腐敗、開発優先の体質を暴き、糺してゆかねば、埋め立てといっさい手を切ってもらわねば県民にとって明るい未来はないということで裁判に踏み切りました。
 19回の裁判の中で二人の被告尋問がありました。そのうちの一人、中野企業庁長は、埋め立て計画はあったのですかとの質問に「当時埋め立てはオーソライズされていなかった。遅延しているが必ず埋め立ては行う。そのために推進努力していた」と答えました。県としては、埋め立てがあるから補償でなく、補償してしまったからなんとしてでも埋め立てをしなくてはならなかったのです。
 堂本知事によって2001年9月に埋め立て計画は白紙撤回されました。そして三番瀬の再生に向けて、円卓会議が発足し、「三番瀬再生計画案」がとりまとめられました。現在は三番瀬再生会議で議論が続いています。しかし、今なお埋め立ての亡霊がチラチラ覗くのはどうしたことでしょうか。やってはいけないことをやってしまったツケが尾を引いているのです。ここできっぱりと埋め立てと手を切ってもらわなくてはなりません。1982年当時、「浦安の埋め立てにより漁場が悪くなったので、何とかして欲しい」との漁民の声に、本来なら漁場の回復、改善、水産資源の振興をはかるのが県の務めのはずです。行徳漁協の組合員の中には、真面目に漁業の発展を考え、いそしんでこられた方々が、少なからずいらっしゃることを私たちは知っています。漁民は県・企業庁に翻弄され続けた最大の被害者と言っていいでしょう。
 訴訟弁護団代表であった中丸弁護士は、「私たちの評価と決断・今後の運動の継続・発展のためになすべきこと」として、
(1)裁判によって明らかにし、獲得目的とした課題について大きな成果をあげることができた。所期の目的をほぼ達成できた。
(2)判決だけではなく、総体的な総括・評価が必要。
  @三番瀬埋め立て計画の白紙撤回A県・企業庁の開発優先・癒着の実態を余すことなく暴くことができたB今後の行政(特に公共事業。開発政策)のあり方に反省と警鐘をあたえた。そうした意味でも、大きな役割を果たすことができた。
(3)控訴はせず、裁判としては確定させる。
(4)この裁判で勝ち取った成果を、今後の取り組みの武器とし最大限に活かす。
と述べています。
 原告団、弁護団、支援する会の三者は、控訴をするか、しないか色々と議論をしました。そして、中丸弁護士が述べているのと同じ結論に達しました。すなわち、勝ち取った成果を武器に三番瀬の保全と43億円の融資の解決に向けて動きだしたのです。その名も「三番瀬公金違法支出判決を活かす会(略称活かす会)」と命名して。既に活かす会では「判決で指摘された問題点を真摯に受け止め抜本的な見直しと反省に加え、今後の施策に生かす」申入書、また「転業準備資金問題について」という意見書を知事、企業庁長宛てに提出しています。
 裁判は終わりましたが、東京湾奥に残されたかけがえのない干潟・浅海域である三番瀬を保全するための取り組みをいっそう強化するため私たちの運動は続きます。今後ともご支援くださるようお願い致します。

「三番瀬公金違法支出判決を活かす会」からの意見書を受け取る堂本千葉県知事(右) 千葉県知事との会見に臨む「活かす会」のメンバー

(JAWAN通信 No.84 2006年3月25日発行から転載)