日本のIBA選定の意義

山田泰広(財団法人日本野鳥の会 自然保護室)

泡瀬干潟
 守るべき重要な生息地があっても、誰も知らなければそこは保全されません。保護区を指定する自治体や政府の関係者、開発を行おうとする事業関係者、そしてなによりもその地域に暮らす人々、これらすべての人が、その場所が「重要である」ということを「知る」ことから保全活動は始まるのです。
 このような観点からIBAプロジェクトでは、鳥類を指標として重要な自然環境を選定し、そのサイトの情報を広く一般に公開することで、その自然環境の重要性や場所、保全状況などを知ってもらうと共に、開発などの脅威に対して、事前に察知し中止・改善してもらうことを目的としています。

IBAの歴史

 Important Bird Areas(以下:IBA)とは、世界共通の科学的基準にしたがって選定された、野鳥およびその生息地を保全していくために、最優先で保全するべき場所のことです。IBAを直訳すると「重要鳥類生息地」と訳すことができますが、これは重要鳥類の生息地という意味だけではなく、鳥類の環境への指標性から、多くの鳥類が生息する重要な生息地、すなわち「生物多様性の高い重要な自然環境」を指し示す言葉となっています。
 このプロジェクトは、BirdLife Internationalの加盟団体が中心となり進める国際プロジェクトで、その背景は1979年にヨーロッパでベルン条約(欧州の野生生物と自然の生息地・生息地の保全に関する条約)が結ばれたことにあります。EUでは鳥類を含む動植物の重要な自然環境に対して、「特別保護区(SPA)」を定めていますが、その選定基準として作られたのが、現在のIBA基準の原型です。
 IBAプロジェクトでは、これまでにヨーロッパ・中東・アフリカ・アジアで選定作業を終了しています。(財)日本野鳥の会はアジアのIBA選定作業の中心的な役割を担い、日本のIBAの選定を行いました。そして現在では各地域別にIBAの目録が出版され保全活動が進められています。
 IBAプロジェクトは、このように全世界で保全活動が進められることで、鳥類のような移動性生物の生息地が、1つの国で保全されるだけではなく、移動先の国においても保全される活動となっているのです。

日本のIBAの保全状況

 日本では鳥獣保護法、自然環境保全法、自然公園法など、環境関係の法律で保護区を指定しています。しかし必ずしも野生動植物の観点に立って保護区が指定されているわけではなく、社会的な事情により指定を受けずに残されているところも数多くあります。
 右のグラフは、日本のIBAのうち、現行の国内法によって、どれだけ動植物の生息が法的に担保されているか(※1)を検証した結果です。
 全体では53.2%においてサイトの一部分が保護区等に指定されています。しかし砂浜では0%、浅海域・干潟などの海に繋がる環境のサイトでは40%以下しか保護区の指定がないことが判りました。
 この検証では、IBAサイト内に※1で示した担保が一部でも含まれる場合は『指定あり』、一部分も含まれない場合は『指定なし』としたため、実際にはさらに厳しい現状が想定されます。
 このような状態は、鳥類だけでなくそこに住むすべての生物にとっても、大きな問題であることは明らかなため、今後はこれらすべての環境において、サイト全体が法的に保全されるように、個人個人が、そして時には個人や自然保護団体が力をあわせて、行政に働きかけて行くことが必要です。

※1 動植物の生息が担保されるレベルの保護区とは、自然公園法の「特別地域内の特別保護地区」、自然環境保全法の「原生自然環境保全地域」、鳥獣保護法の「特別保護地区」です。

IBA白書の出版

 (財)日本野鳥の会では、日本のIBA目録を年次報告書形式で出版していくこととしました。IBA白書は地元で保全活動を行っている方に書いていただくことをベースとしています。第1冊目となる「IBA白書2005」は全167サイトのうち105サイトの貴重な情報と写真を盛り込んでいます。ご興味のある方は1冊1500円+送料でご提供する予定ですので当会自然保護室までご連絡ください。

(財)日本野鳥の会 自然保護室
 〒191-0041 東京都日野市南平2−35−2
 TEL 042-593-6871 FAX 042-593-6873

(JAWAN通信 No.84 2006年3月25日発行から転載)