博多湾・人工島の渡り鳥の保全を考える
――福岡市「人工島野鳥公園基本構想」の問題点

松本 悟(ウエットランドフォーラム代表)

 博多湾人工島(401ha)の埋め立て中にできた湿地(浚渫土砂搬入時にできた海水を含んだ水たまり)は、渡り鳥の重要な中継地・越冬地になっています。特に絶滅危惧種のクロツラヘラサギやツクシガモは国内最大級の越冬地となっており、福岡市のモニタリングデータによるとシギ・チドリ類については近年和白干潟の利用を上回っています。夏期にはコアジサシの繁殖もあり、サギ類、カモ類、猛禽類の利用も多く、一年を通じて野鳥の利用が見られます。しかし和白干潟を含む人工島周辺の渡り鳥は着工以来10年間で50%以上減少しており、特にシギ・チドリ類や海ガモ類の減少は顕著になっています。このように渡り鳥が激減している状況をみるとき、新しい環境ですが人工島の湿地は渡り鳥の保全において重要な役割りを果たしていることがわかります。

これでも予想の範囲内という福岡市の評価です。

 人工島は和白干潟の環境悪化の要因となっていますが、皮肉なことに和白干潟を含めた博多湾東部の渡り鳥を支える重要な湿地環境となっています。
 人工島の埋め立ては約80%が終了しており、すでに港湾施設は稼働し、居住者も多数おります。
 ウエットランドフォーラムは、この環境破壊の人工島に舞い降りた渡り鳥が、私たちに何を伝えようとしているのか考えました。人工島問題についてはいくつかの考え方があります。私たちは渡り鳥や湿地環境という視点で見たとき、ここを保全するという選択をしました。
 これまでウエットランドフォーラムは人工島の湿地の保全・再生をめざして、3度にわたり提案を福岡市へ提出しました。しかしながら5月末に検討委員会から市長に提出された「人工島野鳥公園基本構想」はこれらを無視したとんでもない内容でした。渡り鳥を守らない野鳥公園計画になっています。

博多湾人工島の湿地。写真だけを切り取ると自然の水辺のように見えます。 水域の周辺にシギ・チドリ類の群れが見られます。
人工島内の水域と野鳥公園の面積を比較できます。 人工島野鳥公園イメージ図。まさに机上の空論。目的の見えない「箱庭的」計画です。

渡り鳥を追い出して造られる野鳥公園

 野鳥公園予定地は、多くの渡り鳥が利用して既に野鳥公園の様相を見せているにもかかわらず、基本構想には予定地をあえて「白紙状態のひとまとまりの空間」と記しています。本当に驚きました。「鳥を見ていない野鳥公園検討委員会」の実態そのものです。
 野鳥公園は人工島の湿地をすべて埋め立てて、野鳥を追い出した後に、新しく池を掘って公園を造るナンセンスな計画です。「野鳥公園を造るために、野鳥を追い出してしまう」という歪んだ計画はとうてい市民には受け入れられません。こんな野鳥公園でどんな「環境教育」をするつもりなのでしょうか。
 現在、生息環境として機能している湿地を利用すれば、渡り鳥も追い出すことなく、事業費も大幅に削減できます。
 8.3haの面積は、鳥の干渉距離を確保できないばかりか、国内の湿地系野鳥公園と比較しても桁違いに狭くなっています。そもそも8.3haの広さには野鳥公園としての説明が一切ありません。この中に淡水池、汽水池、砂レキ地、干潟、緩衝緑地、芝生広場等々を配置する「箱庭型」整備になっていますが、それぞれが十分に機能できないことは、他の事例からも明らかです。
 また野鳥公園を造ってどのような生物種・数を守るのか明確に示されていません。これでは野鳥公園の環境づくりが成功しているのか、失敗しているのか、修正が必要なのか、誰にも判断できません。つまり基本構想にある「順応的管理」はできないということです。野鳥公園整備が単なる土木工事に終わってしまうことになります。

人工島内の水域と野鳥公園の面積を比較できます。

人工島野鳥公園イメージ図。まさに机上の空論。目的の見えない「箱庭的」計画です。

「人工干潟」は新たな環境破壊になる

 検討委員会はわずか5回です。その4回目の検討委員会で人工干潟案が盛り込まれました。野鳥公園が狭すぎて野鳥と人の利用の両立ができないことや、和白干潟とのアクセスがないことから来園者に干潟を体験してもらうためには「人工干潟」が必要になるという理由です。公園が狭いことを認めるならば人工島内にある湿地を広く利用すべきです。また和白干潟へのアクセス(橋)を造れば、来園者は“本物”の磯浜や干潟環境を容易に体感できます。
 「人工干潟」は和白海域の潮流を変え、地盤沈下や波浪浸食による土砂流出などの危険があります。国内ではまだ技術が確立されていないことから、ラムサール候補地にも挙げられている環境の質の高い和白干潟に面して人工的な環境改変を行うことは極めて不適切です。

市民参加を無視した無責任な野鳥公園

 基本構想には市民との恊働、連携が掲げられていますが、予定されていた「市民参加のワークショップ」、「パブリックコメント」はいずれも実施されませんでした。また整備予定時期も示されていません。
 人工島の野鳥公園は東アジアの渡り鳥にとって重要な中継地、越冬地として整備されることが求められているにもかかわらず、基本構想には国際的視点が欠落しています。福岡市は、スローガンとして「アジアの玄関口」を掲げていますが、世界中の人々が人工島の野鳥公園を訪れた時、福岡市と市民の環境意識の低さに悲しみ、失意と軽蔑を感じることでしょう。

 人工島の湿地は浚渫土砂の搬入が止まって以降淡水化が進んでいます。渡り鳥も減少傾向にあります。現在、ウエットランドフォーラムは、

  1. 野鳥公園づくりは、現在人工島を利用している渡り鳥を守ることから始める 野鳥公園が予定されている市5工区は淡水化が進み、渡り鳥は減少傾向にあります。そのため安全な広さを確保し、湿地に海水を入れて餌場環境を回復させ、現状の渡り鳥の保全を最優先させる。
  2. 湿地環境をそのままにして野鳥公園を広くする。
    将来の見通しを失った公共事業“人工島”にムダな事業費を投入せずに、今ある湿地を利用することによって、「環境破壊の人工島」から、「環境再生の人工島」へ大きな転換をはかる。
  3. 人工干潟は中止する。
    和白海域の人工干潟は新たな埋め立て事業であり、和白干潟の環境悪化がさらに進むことから、人工干潟は中止する。
    ことを求めて署名活動を続けています。またイベントや観察会を通じて多くのみなさんに訴えていきます。ぜひJAWANの皆様のご理解とご支援をよろしくお願い致します。
※福岡市の野鳥公園構想は以下のHPから「野鳥公園」を検索して下さい。
 全文が公開されています。http://www.city.fukuoka.jp
※この件に関する連絡先
 ウエットランドフォーラム 松本 悟
 E-mail : cocontei-matsu★nifty.com(★は@に変えてください:スパム対策)
 詳しくは(署名も)http://homepage3.nifty.com/wetlandforum/

(JAWAN通信 No.85 2006年7月20日発行から転載)