猿山弘子(渡良瀬遊水池を守る利根川流域住民協議会事務局) 渡良瀬遊水池は本州以南最大の湿地・ヨシ原である。条約登録の基準を満たす環境にありながらCOP9の登録に向けた運動は実らず、手探り状態のなか、JAWANの浅野、柏木両氏のお骨折りで、5月8日「ラムサール条約登録湿地を増やす議員の会」の渡良瀬遊池視察が実現した。
視察の目的は「遊水池の条約登録の可能性を探ること」であり、住民協議会は「遊水池の豊かで貴重な自然をアピール」したかった。議員の会では登録に向けての課題がある場合それを明確にする必要があるとして、日程が組まれた。登録への課題とは、今年2月に「利根川水系河川整備基本方針」が決まり、現在「河川整備計画」を策定中であるにも関わらず、国交省が治水容量増強のため掘削工事を考えていると、新聞紙上で発言していることである。 議員の会は、考察のポイントを「1)100年の節目を迎えた日本最大の遊水池の利用と保全、再生のあり方 2)治水目的で第2調節池の掘削を進めることの自然環境への影響」とし、住民協議会と国交省の異なる意見の説明を、時間をずらして聞いた。 前半は住民協議議会他が、最も湿地の多様性に富んだ第2調節池と谷中村遺跡を案内した後、国交省の「第2調節池の治水容量増強計画」の問題点を指摘、説明した(国交省・利根川上流河川事務所副所長他1名が同行)。後半には国交省が案内と治水機能等の説明をし、遊水池周辺の板倉町・藤岡町の町長が治水対策強化を要望した後、意見交換がなされたと聞く。この時NGOの同行が許されなかった。従って、その後の対応に苦慮している。 新聞報道(下野)によると、意見交換の後清水会長は「素晴らしい自然を目の当たりにして登録に向けて頑張りたい気持ちはあるが、治水の話にも説得力がある」と述べているし、谷議員は「現状のまま登録指定を受けるのが理想だが、ハードルは高そうだ」と厳しい見方を示したと言う。また、国交省・利根川上流河川事務所長は「湿地の回復を進めながら、治水安全度を高めたい。掘った土は堤防にも使える。これは地元の要望」と主張したとある。 今回の国交省の説明の内容について詳しくは解らない。しかし、住民協議会としては「国交省の治水対策が不合理である」ことを世話人のダム専門家(嶋津暉之)は明確に指摘した。繰り返しになるが、河川整備計画が策定されない現状での、掘削工事による治水容量増強の方向付けは、ラムサール条約登録地への道を困難にするものとなり、納得し難い。 治水問題と、ラムサール条約登録についての論議が必要になってきた今、JAWANのご尽力で、議員の会の視察が実現したことの意味は大きく、心より感謝申しあげたい。 視察後にも「議員の会」は、5月18日に議員会館内で勉強会を開き本会の代表世話人の高松と、JAWAN副代表浅野氏が環境省野生生物課の名執課長に、遊水池の自然について説明する機会を設けたり、国交省に直接話し合いをしたり、働きかけを続けてくれている。重ねて感謝申し上げる。 (JAWAN通信 No.85 2006年7月20日発行から転載) |