竹川未喜男(三番瀬再生会議委員) 再生の事業計画が進むにつれ海が狭くなる 5月から2カ年計画で、塩浜2丁目の護岸改修工事として100mの石積み傾斜護岸工事が始まっています。海側に22m張り出して捨て石が落とされ、完成形としての20mは1トンの石で被覆します。三番瀬再生の“先発事業”なのです。この事業費は2年間で2.6億円。砂を前に付けるというので《砂護岸》とマスコミが宣伝したり、設計をめぐって県が土盛り工事には“円弧すべり”なる危険があると自信満々で選択させた設計が、国交省から、液状化現象や、津波の返し波などの危険があると指摘され、簡単に設計変更をしたことでも話題になりました。護岸の専門家からは地震、津波危険には8.5とか9.5mの護岸高が必要だと叩き込まれました。“最も危険といわれた塩浜1丁目”を含む総延長3.3kmの塩浜護岸なのに、5年かけて長さが900m、高さは5.4mの捨石護岸です。「人命に関わる緊急事態」だといっていた声はどこへいったのでしょう。「これでは“緊急危険”には対処できない」、「何が再生なんだ」という声も上がってきます。このままでは円卓会議の三番瀬再生計画案は“画餅”に終わるのではないかと懸念すら生じてきました。
猫実川河口の現況把握が本年度の調査課題
土木工事に先だって行われた生物調査では、護岸直下の生物だけでなく周辺海域の豊かな生態系への影響がはっきり指摘されました。今、何より必要なのは、施工者である千葉県が塩浜2〜3丁目護岸が囲んでいる“猫実川河口域”の現況をきちんと認識することです。この泥干潟は「三番瀬総合解析」の中で“折り紙つき”の貴重な泥干潟として明記されています。その結果、人の入らない保全海域として円卓会議でも、市川市も入ったワーキンググループでも合意されていて、その現況は市民調査の活躍によってさらに明らかにされてきました。有数のカキ礁の存在、汽水域の見事な生態系、その高い浄化機能、希少種を含め驚異とも言える海生生物の実態です。不思議なことに、これまで行政側は、平成7〜9年の補足調査を含め、平成14年の環境基本調査でも、またこれに倍する規模で行われる平成18年度調査においても、なぜか重点調査海域にはしていません。しかし4年前の測点53カ所から今年は100カ所に増やしました。県として今年こそ自慢できる調査を行って欲しいものです。再生会議としてもぜひ評価委員会に指示を出すべきです。 もう一度問い直そう、三番瀬「再生の概念」 「再生」とは何か。3年前の円卓会議で、合意なしに一人歩きしていた「再生の概念」があらためて問題となり、1年かかって書き換えられた経緯がありました。「先ず埋め立て中止の手当てを」というのはおかしいと追求された結果です。そして「海の自然環境・生態系の回復と保全」が主題に打ち出されたのです。しかし今、“保全海域”の目の前で進んでいる「再生事業」の現場では、旧い“再生の概念”がまたも一人歩きしているようです。県の計画策定作業では、基本計画から事業計画、そして実施計画へと進むにつれて、干潟・浅海域の保全から人工海浜、干出域の創造へと一気に“開発志向”に向けて後戻りしているようです。先月、県の事業計画素案に対するパブリックコメントが発表されました。そこでもまた市川市や地元企業、漁協代表などの動きが読み取れるものでした。これまで20〜30件ほどのパブリックコメントが今回は91件も出ました。上位は「人工海浜を」が9件、「1〜3丁目護岸の早期完成」が8件、「お台場や幕張のようなまちに」が6件、「企業活動のため道路や下水道整備を」が7件、例の通り、環境・生態系の重視派の“長文のコメント”が16件という具合です。 堂本知事は真に「県民の信託に応える」べきです 平成18年度6月の千葉県本会議で、75%を占める自民党の山口議員が行った「三番瀬問題」の質問に答え堂本知事は「三番瀬に関する諸問題は、複雑かつ困難な問題でありますが、県民の信託にこたえるため、県議会をはじめ、地方市、地域住民漁業関係者などのご理解、ご協力を得て引き続き解決に向けて努力したい」と述べています。 漁業問題と第二湾岸道路で知事には説明責任がある 三番瀬は東京湾の一部です。河川の負荷も、埋め立てといった環境変化も、そこを漁場とする漁業にしても三番瀬だけでは論じられません。食料の問題しかり、沿岸市民抜きでは三番瀬も漁業問題も考えられません。ところが再生会議には4人の漁協代表が出なくなっています。漁場再生検討委員会だけが“特別扱い”です。なぜ漁業再生のために三番瀬を大規模に埋めなくてはいけないのか。なぜラムサール条約登録に反対しているのか。なぜ第二湾岸道路に賛成なのか。なぜ実質漁業補償という転業資金問題の解決が進まないのか。このまま放置しておいて三番瀬の環境保全も、本格的な再生の事業もできないことは明白ではありませんか。 (JAWAN通信 No.85 2006年7月20日発行から転載) |