三番瀬の状況
牛野くみ子
千葉の干潟を守る会副代表
堂本知事が、埋め立ての白紙撤回、そして里海の再生を表明してから、既に6年が経ちました。円卓会議を2年、再生会議を2年議論してきて、この度、新規の再生会議が発足しました。
堂本知事のあいさつ
(1月31日の再生会議にて)
1月31日第1回再生会議に先立ち堂本知事より「千葉県では生物多様性ちば県戦略として、タウンミーティングを昨年7回開催したこと、また2010年の開催を閣議決定した名古屋での生物多様性条約締約国会議に三番瀬の再生のことを盛り込みたい」と’09年を意識したごあいさつがありました。
続いて大西会長の発言も「知事は生物多様性の専門家。今期の三番瀬再生のテーマはPlan(計画の策定)Do(実施)Check(評価)Action(対策の検討)というマネジメントサイクルを県民一体となって進める所存」と意気込んだごあいさつがありました。
この日、配布された資料は、再生会議のこれまでの経過と実施計画案、塩浜護岸改修事業の概要等です。が、実施計画案の前に諮問された事業計画はまだ確定されていません。
一つ一つステップを踏んでいないので、議論されたことがどう活かされたのかがさっぱり分かりません。ましてや、今回からは新規の委員も7名参加しているので面食らったことでしょう。その上、実施計画案には再生会議で、これまで議論されてこなかった流域下水道や三番瀬再生実現化推進事業等が盛り込まれ、予算が付けられているのです。
県がめざす三番瀬再生と第二湾岸道路の予想ルート(クリックで拡大)
総額87億円の予算のうち、77億円が流域下水道に当てられています。江戸川左岸流域下水道は、茨城県境の関宿から管渠を通して、延々60km先の市川市に下水を持ってくるというもので、そのため河川流量が減少します。その上、建設費がかかりすぎるため下水道整備の期間は長くなります。既に、事業に着手して30年以上も経っているのに、進捗率は60%と極めて低いのです。やっと県も合併浄化槽の普及に腰を上げましたが、今後考えられることは、更にお金の嵩む高度処理、そして河川流量の減少を危惧して、下水高度処理水を河川に導入する等が事業計画に上がっています。これこそ再生会議の場で議論しなくてはならないことです。
江戸川左岸流域下水道と第二湾岸道路は、三番瀬の再生とは切り離して行うことで、円卓会議や再生会議でこれまで議論されてきませんでした。これらは、当初の740haの埋め立て計画があったときも、101haに縮小されたときも埋め立て計画の中心に含まれていたものです。
現在、埋め立て計画はなくなりましたが、まさに“公共事業は死なず”化けて出てくるのです。住民参加、情報公開を謳った円卓会議、再生会議ですが、ここにきて環境団体委員の強引な公募方法の変更も含め、県主導がはっきりと出てきました。また、結論が出ていないものを、あたかも決定したかのごとくに、再生会議に報告されます。
現在行われている塩浜2丁目の護岸改修に関しては、護岸直下の生きものが埋め殺されるので、さまざまな方法を考えよう、すなわち、粗朶とか木材を利用しながら、多様なバリエーションを考えながら護岸改修をし、モニタリングをし、順応的管理で進めるとしてありました。しかし、議論された工法は実施計画案からは姿を消しました。
先日行われた護岸検討会議の勉強会では、19年度の工事は、改修が実施されている隣から進める案と反対側からも進める案とがありましたが、両側から進める案には結論が出ておりませんでした。
しかし、再生会議では両方から進めると県が報告したのです。さすがにこれには委員から「あれは勉強会であり、決をとったのはおかしい」「賛成してない」の声が上がりました。
予算が付けられた新事業の一つに三番瀬再生実施実現化推進事業があります。字面を見ただけでは何のことか分かりませんが「陸と海との自然なつながりを回復するために干出域を形成する」と県の説明にあります。これこそ県が目指している猫実川河口域に土砂を入れるというもので、これが第2湾岸道路に繋がると考えられることから、傍聴者が具体的にはどこの場所かと質問しました。すると議長である大西会長は「会場からの質問には答えないことになっている」と答えました。「千葉モデル」とか「全国モデル」と言われているこれが三番瀬再生会議の実態です。
いま、三番瀬で注目を集めているのが、カキ礁です。
猫実川河口域に広がる5,000m
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の泥干潟に立つカキの山。水質浄化はもちろんのこと、稚魚にすみかを提供したり、高波から守ったり、餌を提供したりと様々な働きをしていますが、評価されていません。ですから「邪魔だからとってしまえ」とか「あんなものはどこにでもある」とうそぶく人たちがいる始末です。三番瀬の宝物が正当に評価されるようにと、4月8日にアメリカからの研究者を招いて「日米カキ礁シンポジウム」を開催したところです。
研究者の方は「三番瀬のカキ礁は規模も大きく、都会の中に生き生きとした生物がいるということと、東京湾は頑張っているなと思った」「自生しているカキ礁を持っている皆さんは幸せだ」とおっしゃっていました。カキ礁の保全が三番瀬ラムサール登録湿地につながるでしょう。
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(JAWAN通信 No.87 2007年4月25日発行から転載)
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