「湿地の管理―賢明な利用ハンドブック」を
使用しての学習会

伊藤よしの 日本湿地ネットワーク副代表

 「湿地の管理」は琵琶湖ラムサール研究会の宮林泰彦さんをはじめ環境省他たくさんの方々にお手伝いいただいて出来上がりました、改めて皆様のご協力に感謝いたします。
名古屋で行われた「湿地の管理」の学習会
 この「湿地の管理」を教科書とした学習会が、6月、名古屋市においてに開催されました。生物多様性条約学習会という位置づけで開催されたこの学習会では、釧路公立大学の小林聡史教授に、ラムサール条約と環境関係の国際条約、湿地の賢明な利用などとともに、この本の速読法もご教示いただき、大学生や自治体関係者を含む参加者に大変好評でした。その速読法と、質疑応答の部分を抜粋して紹介します。

速読法の紹介

●時間がない場合は以下の★印の章を読むだけでも一応の理解は可能です。

「湿地の管理」目次
I はじめに
II 総合的ガイドライン
III 湿地の管理の河川流域及び沿岸域の管理を含む広域の環境管理計画策定への組み込み
IV 湿地管理計画策定の機能
V 地域住民と先住民を含む利害関係者
VI 環境管理への予防原則の適用
VII 管理計画策定はひとつの過程である
VIII インプット、アウトプット、そして成果
IX 順応的管理
X 管理ユニット、ゾーニング、そして緩衝地帯
XI 管理計画書の様式
XII 前文・方針
XIII 湿地の記載
XIV 湿地評価
XV 管理目標
XVI 根拠
XVII 行動計画(管理プロジェクトと見直し)

●冊子に出てくる個別のガイドライン(住民参加や沿岸域管理など)は勉強したほうがよりよいのですが、管理計画作りの基本をおさえれば管理計画自体は策定可能なので、本当に時間のない人はこの部分は見出しを読むだけでもかまわないでしょう。
●まず大切なのは目標を話し合うことです。
●日本国内では個別湿地(特に条約湿地)には断片的なデータはすでに存在するはずなので、管理計画を作るという意思があれば、それらを収集してみることから着手すれば、最初の枠組みは比較的簡単にできるはずです。
●目標の話し合い+具体的な行動のリストアップ⇒素案の完成 となります。
●大変だから「誰かがやって」ではなく、思った人が管理計画を作りましょう!

参加者との質疑応答

(1)「旧ガイドライン」との違いについて
 「考え方は同じであるが、新版の特徴は他条約(生物多様性条約など)のコンセプトを入れたものになっている。例えば「順応的管理」という言葉は釧路(旧)ガイドラインには入っていないが、フィードバックという考え方はすでに用いられている。マスタープランが管理計画と同じものかどうかはわからないが、今後フィードバックを考える機会があれば、その段階で新要素を組み込む必要があるかどうかを考えればよいのではないか」

(2)作った管理計画が適切であるかどうかわかない
 「計画を作ることが目的と言うよりは保全や管理を目的と考えればよい。結果的に管理がうまくいっているようであれば、計画やその過程は成功していると考えていい。ガイドラインは管理計画の作り方がわからないときのためのツールである。マスタープランと管理計画ガイドラインをすり合わせて新しいガイドラインを入れこんでみてはどうか。」

(3)順応的管理・定量的目標が組み込まれている国際的な管理計画の例は
 「数値目標ということの例であれば、ラムサール登録したときの水鳥の数値などが入っているはずである。減少傾向があるなら、減少の原因を突きとめて減少させないために何らかの介入をすることが、数値目標達成のための取り組みに近いものとなるだろう。」

今後の学習会

 今後いくつかの地域でこの本を基にした学習会の開催が予定されており、藤前では10月に続きの学習会を開催予定です(16頁のイベント情報参照)。また、この「湿地と管理」は環境省がラムサール関連自治体(県・市町村)にすでに配布しています。みなさんの方から自治体に「講師を呼んで学習会を開催してください」とお願いしてみてもよいかもしれません。

*  *  *

 5月に韓国で開催された「海の日記念・COP10準備シンポジウム」で、柏木実さんがJAWANの政策提言の例として、「湿地の管理」を環境省が買い取り、地方自治体へ配布してくださったことを発表しました。同じく招待されていたラムサール事務局CEPAコーディネーターのサンドラ・ヘイルズさんは、この例を挙げて、「CEPAというと子どもたちへの教育を考えるけれども、このような形の行政への働きかけはそれ以上に大切なことである。」と、発表の中で、大きく評価してくださったとのことです。
 「湿地の管理」はラムサール関連の資料の中では易しいはずですが、それでもさっと読み通せるような本ではありません。しかし、思いがけない発見も多々あります。巻末資料は、ウェブの検索や条約の出版物などの確認のための資料として、特に有用だと思います。
 湿地の管理計画策定に役立てるばかりではなく、いつもそばにおいて、いろいろな使い方を工夫してみてください。
 出版チームでは、さらなる翻訳・出版で湿地の賢明な利用に貢献したいと願っています。

(JAWAN通信 No.88 2007年9月15日発行から転載)


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