日本の地域NGOによるCEPA活動実施状況
アンケートのまとめ

伊藤よしの 日本湿地ネットワーク副代表

 日韓NGO湿地フォーラムに先駆けて実施したアンケートにご協力下さいましたNGOの皆さまに感謝いたします。

1.はじめに

 NGOは、CEPA(広報・教育・普及啓発の英語の頭文字で、湿地の賢明な利用をすすめるため、人々へ湿地の価値を伝える手段のこととされる)が、ラムサール条約の賢明な利用を達成するための最も重要な活動の一つであることを理解したうえで、さまざまな活動を実施している。しかし政策決定者や湿地に開発を行う企業、住民などがその価値を十分に評価できていないことが湿地保全の進まない大きな原因の一つになっているようだ。
 そこで、ラムサール条約がすすめるCEPAプログラムと比べてみることで、より効果的なCEPA活動にしようという目的で、アンケート調査を実施した。(CEPAプログラムについては琵琶湖ラムサール研究会のホームページhttp://www.biwa.ne.jp/~nio/ramsar/projovw.htmlをご参照ください)

2.アンケート実施要領

 JAWAN、ラムサール条約湿地を増やす市民の会、干潟・湿地を守る日参加団体など約50団体を対象にインターネットで回答を依頼。添付資料はラムサール条約2003〜2008年CEPAプログラム。
 質問は6項目(活動内容・対象・目標・資金・ネットワーク・評価)について選択肢と自由記入方式による回答。

3.アンケート結果まとめ

 NGO 24団体(内訳:沿岸域17団体、湿原など4団体、河口域2団体、その他1団体)から133件の活動について報告。活動報告数は多いほうから順に、NPO法人南港ウェットランドグループ(29件)、藤前干潟・伊勢、三河湾関係(20件)、和白干潟を守る会(12件)、とくしま自然観察の会(10件)NPOウエットランド中池見(8件)、ウェットランドフォーラム(福岡 8件)ほか。
 報告数の多い団体のほうが、よりCEPAを意識した活動をしている傾向があるといえるようだ。回答した団体が関東から西日本にかけてのグループに偏ったことや、回答記入方法が統一されないなど、データ資料としての正確さに欠点はあるが、以下のことがわかった。

活動の内容(表1)
  • 総数133件のCEPA活動項目は多種多様であり、「すべての活動がCEPAのプロセスの一部であり、CEPAはラムサール条約の目標の達成の中心的な活動である」という考え方は理解されている。
  • 湿地の管理作業・調査・投稿・教育資料作成など、専門的知識や経験を必要とする活動も担っている。
  • ラムサール条約そのものの普及啓発を目的とする取り組みは全体で11件あり、登録に向けて自治体へ資料を提供しレクチャーを実施したという報告もあった。
  • ラムサール登録の横断幕をつけたバスの走行、くちばしが折れて死亡したクロツラヘラサギの剥製作りと区役所での展示、「ワンモアライフ勤労者ボランティア賞」を受賞した「ほりほり作戦」、幅広い人々に湿地の価値を伝えるためのコンサートや人形劇など独創的な取り組みも多数あった。
  • 湿地の専門家を養成する連続講座・研修なども各地で実施されている。
表1 活動内容
活    動 件 数
講座・学習会 29
観察会(野鳥・底生生物など) 22
出版 14
管理作業 13
シンポジウム 13
調査活動 8
提言・計画作り 7
専門誌などへの投稿 6
街頭行動・展示 5
エコツアー 5
他団体との交流 3
まつりなど 2
署名 1
剥製づくり 1
そのほか 4
133

対象(表2)
  • 企業・マスコミをターゲットにする活動が計52件:社会経済の組み込みや湿地の知名度の上昇につながる可能性がある。
  • 児童生徒・教育関係者をターゲットにする観察会・学習会・講習は計61件:CEPAの重要な対象である青少年の参加を得ることができている。学校の先生がメンバーになっているNGOでは、先生が担当することによって、より効果的なCEPA活動が組み立てられる。
  • 議員、漁師さんなど、日ごろ活動を共にしない方々を対象とする活動は計13件:政策決定者や異なる利害関係者の参加を得て、相互理解が促進され、もたらされる効果は大きくなる。
  • 平日の日中しか家を空けられない主婦を対象とした取り組みが1件:女性は話すことによって理解者を増やしていくことが得意なので、女性の参加は重要とされている。
  • 地域によって課題が異なるので、課題に応じた対象・取り組みが必要。
表2 対象(複数回答)
対    象 件 数
地元市民 80
NPO/NGO 62
学生・児童生徒 42
自治体・湿地管理者 41
マスコミ 33
教育関係者 21
企業 20
省庁(条約担当省庁・関連省庁など) 14
議員(国3、地方3) 6
漁師 5
日弁連 1
主婦 1

活動の評価
  • 参加者が自分のサイトに持ち帰るなどして、他のグループでの活動につながった取り組みが31件あり、ネットワークによる活動の広がりが実証されている。
  • 政策や計画に活かされる事例は12件あった。国会議員・地方議会議員・関係省庁・地方自治体への参加呼びかけや協働などで政策決定に影響を与え、資金的な支援獲得の機会も増える可能性があると考えられる。今後この方面への働きかけを増やすことや、省庁などが主催する取り組みに積極的に参加・提案することも重要だ。
活動資金
  • 自治体、省庁などからの資金提供を受けたのは30件、23%。
  • 助成金での活動は24件18%。残りは自己資金、カンパ、参加費などで、実際にはこれらの組み合わせで活動していることが多くなっている。
  • ほとんどのNGOにとってWWF-JやNACS-Jなどの助成基金は大きな助けとなっている。これからは地域の企業との協働などで資金の調達を図ることもありえるだろう。
 以上のように、地域NGOが実施してきたCEPA活動は、条約のプログラムの地方版といった感じで、プログラムのかなりの部分をカバーし、質・量ともに健闘している。地域NGOはネットワークなどを通じて得た情報などをもとに、活動資金不足に苦しみながらも、湿地の価値を伝える魅力的な方法を工夫してきている。

4.さらに効果的にCEPA活動を進めるために

国の担当窓口との協働
 条約では「締約国は、それぞれ政府とNGOに、国レベルのCEPA担当窓口を任命し、国のCEPA行動計画を作成すること」としている。日本では、国レベルのラムサール条約に沿った「湿地CEPA行動計画」はまだ作られていないが、数年前にCEPA担当NGOの日本国際湿地保全連合(WIJ)より素案が提出されている。これをすすめる一方、NGOが国や行政などからの人的、財政的支援を得やすくするための仕組みづくりも必要だ。

JAWANのCEPAへの参加
 JAWANでは、特に地域のNGOが保全活動に役立てることのできる情報やツールを提供するように努めている。これまでの主な活動としては、「国際湿地シンポジウム」や「モニタリングサイト1000交流会」、毎年の「干潟・湿地を守る日」の開催、ラムサール条約の決議を中心とした学習会、「ラムサールハンドブック」などの翻訳出版、エコツアーやフォーラムなどを通じたNGO間の交流、日本国内の湿地の状況のレポート作成、ラムサール条約締約国会議参加のための情報提供や諸手続の代行、政策提言、環境省や議員へのロビー活動などがあり、COP10に向けて現在活発に動いている。

NGOからの要望事項一覧

*ラムサール条約事務局へ:
 (1)NGOとの関係の強化
 (2)環境関連条約の協働による締約国への強い働きかけと、影響力を持つ国際的組織へのアピール

*国の担当省庁へ:
 (1)条約湿地を増やす
 (2)開発関係省庁・部局への影響力の強化(統合的な保全策をすすめるために)
 (3)ラムサール条約の決議やガイドラインなど、国際条約のツールを活用しやすくし(翻訳出版例:「湿地の社会経済学」・解説書作成・学習会など)、全ての湿地の賢明な利用をすすめる
 (4)NGO参加による国のCEPA行動計画の作成

*JAWANなど国レベルのNGOへ:
 (1)国やラムサール条約事務局など国際的な組織と地域NGOとの橋渡し
 (2)「締約国会議」「ワールドウェットランドデー」(2月2日)や、JAWAN主催「干潟・湿地を守る日」などの国際・国レベルの一斉行動への参加呼びかけや、全国規模の集会の計画
 (3)国際的または国内の相互湿地訪問・調査活動、エコツアーなどを通じた交流による地域の問題や知識の共有化

(JAWAN通信 No.89 2007年12月15日発行から転載)


>> トップページ >> REPORT目次ページ