佐々木純一 雨竜沼湿原を愛する会副会長 雨竜沼湿原の条約登録
雨竜沼湿原の登録はある意味意外でした。北海道は「北海道湿原マスタープラン」に基づき、平成12年に「雨竜沼湿原保全プラン」を制定しました。制定に当会も係わり、「第6、保全施策の推進」に「ラムサール条約登録湿地の指定について検討します」と最後に一文を記載しましたが、行政も当会も実現性は乏しいと捉えていました。既登録湿地では道内の釧路湿原、ウトナイ湖、クッチャロ湖、厚岸・別寒辺牛湿原や道外の登録湿地など水鳥の生息地として重要な湿地・湖沼・干潟が主体で、山岳域の雨竜沼はオオジシギが数少なく飛来するほかは一般的な野鳥だけで「水鳥の集団飛来地」を満たす湿原ではないからです。 ところがCOP9を控えた国内の条約湿地検討会は雨竜沼湿原を「基準3. 生物地理区の生物多様性を維持するのに重要な湿地」で、候補湿地としました。しかし雨竜沼湿原は折からの中高年登山ブームでオーバーユースの懸念を抱えており、雨竜町は更なる来訪者の対策と条約登録による法規制と諸整備など、ラムサール条約の認識の相違もあり消極的でした。当会は世界基準の重要湿地・雨竜沼湿原の登録に強い賛意を表し、雨竜町も理解を示しCOP9で登録されました。雨竜沼湿原の登録は国内の湿地生態系の多様性を反映させた結果です。 池塘と水草が織りなす山岳湿原日本海に山裾を落とす暑寒別山系の標高850m台地で、北海道の山岳湿原で最大規模の高層湿原です。しかし散策するにもバリアフリーでなく、標高差300m、約1.5時間の登山が必要です。利活用は6月から10月初旬までの無雪期の5カ月間だけ、10月下旬に降雪、日本海多雪地帯の湿原は5mを超す積雪で塞がれ人も動物も寄せ付けません。湿原には約4kmの周回木道が整備され、湿原中央部を蛇行して流れるペンケペタン川と世界に類を見ない直径50mを超す大型円形池塘群を含む700余の池塘が散在、池塘複合体など山地高層湿原特有の微地形が良く発達しています。そこに生育する150種余の湿原植物は群落多様度、種多様性に富み優れた景観を醸し出し、特に水生植物が豊富で、雨竜の名を冠したウリュウコウホネ(スイレン科)、ウキミクリ(ミクリ科)、カラフトカサスゲ(カヤツリグサ科)など特産種・稀産種が木道散策から観察できます。
先人たちの慧眼に学ぶ雨竜沼湿原が自然度豊かな湿原を保ってきた理由を振り返って見ます。
今日まで、そして明日に向かって登録後2シーズンが経過した今、一時のブームは静まり、町内には案内看板も見当たりません。残念ながら「ラムサール条約」の知名度・認知度が低く、その立地特性から誰しもが利用できないのが一因です。原生の自然が保たれた雨竜沼湿原をより良く知り、楽しめる「湿原センター」の設置が不可欠です。特徴的な湿原生態系や地形・地質、生息する動植物、これらが織りなす湿原景観と各種の標本、ジオラマを通して見て聴いて触れて、五感で湿原の風と太陽が感じられ、さらに泥炭が有する炭素蓄積効果や水環境による気象現象の緩和など、湿原が併せ持つ地球環境保全への重要性もPRできる施設です。雨竜町の基幹産業は農業、暑寒米、暑寒メロンで好評を得ています。これらを育む農業用水は雨竜沼湿原一帯に降り注ぐ雨と雪を集める尾白利加川から取水し、雨竜の農業はラムサール条約湿地の水で涵養されています。「湿地と豊かなくらし」、この地に入植以来、生活と産業を育み続け、今後はラムサールブランドの付加価値で高めていくことが期待されます。雨竜町民の宝物、世界に誇る重要湿地はより身近な生活の一部となり観光・産業振興に寄与することでしょう。 市民グループ 雨竜沼湿原を愛する会平成2年、「この美しい雨竜沼をそのまま未来人に受け継ごう」と集まった小さな町の小さな市民団体で、財は無くても志は高く、雨竜沼湿原が大好きな仲間たちです。湿原・登山道の環境保全・外来種対策・美化清掃・自然ガイドなどの啓発活動と学術調査などを通して湿原の利活用と保全に取り組んでいます。道内ラムサール条約湿地12サイトがネットワークで結ぶ「北海道ラムサールネットワーク・HRN」など新たな芽も育ち、活動の輪の拡がりは心強い限りです。一人ひとりは小さな手だけどみんなで力を合わせれば大きな自然も守られることを願って活動しています。(JAWAN通信 No.91 2008年7月1日発行から転載) >> トップページ >> REPORT目次ページ |