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干潟・湿地を守る日2010 宣言

辻 淳夫
(日本湿地ネットワーク代表)

 歴史的な政権交代を果した鳩山内閣の「コンクリートから人へ」、「いのちを守る」施政方針は、戦後の長期政権がとってきた経済至上主義の破綻、ムダな公共事業による乱開発が引き起こした環境破壊と生存基盤の喪失に対して、「このままではいけない」とする決意表明であり、私たちの期待であるはずです。

 それは同時に、長年のゆがんだ政治の結果として、3 割自治といわれる公共事業頼みの自立心を失った地方政治が全国に蔓延している実態をさらけだすことにもなりました。だが、その混乱に目を奪われて本質を見失ってはいけません。
 すさまじい環境破壊とその経緯が、かくもはっきりした諫早湾閉め切りと有明海大異変でさえ、国(農水省)と地方(長崎県)は、開門調査を命じた司法判断に抵抗している事実が問題の根幹であり、「干潟・湿地を守る日」を継続する理由でもあります。

 特に、生物多様性条約締約国会議(CBD/COP10)が愛知県名古屋市で開かれる今年は、地球上のあらゆる生命にとっての画期的な転換点にしたい。1992 年にリオサミットで制定された生物多様性条約は、”Conference for Life on Earth”( 地球上の全てのいのちのための条約) と言われたが、2002 年COP6 で採択された「2010 年目標=生物種の絶滅速度を著しく減少させる」の達成が絶望的と判定された今、これまでの議論の延長線上にとどまる限り、かけがえのない地球が壊され続けるのを止められません。リオサミットで「直し方の分からないものを、これ以上壊さないで!」と話した12 歳の少女セバン・スズキに、未だ誰も、有効な答えを示せていないのです。

 私たちは今あらためて、ラムサール条約の理念である、山から海までの水でつながる生態系(=生命流域Bioregion)の大切さと、それをズタズタに断ち切ってきた過去数十年の人為を見直さなければなりません。さらにその根源にある人間至上主義、海を埋め立てたものに私有権を与える公有水面の概念や、機械力で出来ることは何でもして良いとする考え、いのちの世界にさえ知的所有を主張する人間の奢りを反省し、地球のいのちが生き永らえるために、生命の尊厳と共生に焦点を当てた「いのち」の哲学、道理、掟、ルールを取り戻しましょう。以上宣言します。
2010 年4 月14 日
日本湿地ネットワーク

(JAWAN通信 No.96 2010年3月15日発行から転載)

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