吉野川河口と東環状大橋・四国横断自動車道
山内 美登利
(日本野鳥の会徳島県支部共存部長)
(日本野鳥の会徳島県支部共存部長)
徳島市市街地の東北の方向にある吉野川河口は川幅1.3km、南岸寄りに約70ha の中州干潟と上流に大小の干潟があります。約15km 上流まで生態系豊かな汽水域です。
吉野川河口には、国内最大級で密度の濃い生息地であるシオマネキをはじめ、底生生物が多く生息しています。水鳥を中心とする野鳥も多く観察され、約200 種が記録されています。特にシギ・チドリ類の渡りのルート上に位置し、中継地として重要な役割を担い、「東アジア・オーストラリア地域におけるシギ・チドリ類重要生息地ネットワーク」に、1996 年、谷津干潟と共に日本で最初に参加しています。
この生態系豊かな吉野川河口の河口端から1.8km 上流に、現在巨大な吉野川渡河橋「東環状大橋」の建設工事が進行中です。これは徳島市を取り巻く環状道路計画の一部です。日本野鳥の会徳島県支部は1994 年当初から橋建設に強力に反対してきましたが、力が及びませんでした。そこで、せめて環境への悪影響を最小限に留めるよう、橋脚と橋脚の間が260m あり中州干潟をまたぐ世界初の工法「ケーブル・イグレット工法」を採用するよう県へ働きかけ、この工法が採用されました。工事中の悪影響も心配されるため県や設計者と話し合い、堤防や干潟を傷めないよう最南岸の一部を除きほとんど水上(台船)で輸送や工事をしています。これにより環境への負荷がかなり軽減されたようです。2011 年度に完成予定です。
環境変化、影響については、私たち自然保護団体の要望により、学識経験者等で構成された「東環状大橋環境アドバイザー会議」でモニタリングされています。
この東環状大橋は、ケーブル・イグレット工法などを採用し、環境に配慮した設計ですが完成後どんな悪影響がでるのか懸念しています。その上、すぐ下流に四国横断自動車道(高速道路)の吉野川渡河橋が計画されています。2km の間に2 橋も建設されようとしています。吉野川河口南端から南へ直角に生物相豊かな沖洲海浜があります。吉野川渡河橋はこの沖洲海浜を埋め立てた道路へと続きます。四国横断自動車道は自然を破壊する事業なのです。
2006 年、要望書「吉野川河口の自然環境を破壊する『四国横断自動車道・徳島JCT から小松島IC』のルート変更について(お願い)」を県内7団体連名で、全国1101 の賛同団体名を添えて、国土交通省、環境省、西日本高速道路株式会社に提出しました。徳島JCT( 吉野川北岸) −吉野川渡河橋(北岸から南岸)―沖洲海浜―小松島IC のルートを断念し、徳島JCT −徳島東環状線(東環状大橋経由)−小松島JCT にルート変更するよう要望したのですが、聞き入れてはくれませんでした。
先の衆議院選挙で民主党が大勝し、徳島県選出の仙谷由人氏が行政刷新大臣に任命されました。これは四国横断自動車道のルート変更のチャンスだと思い、当会は2009 年10月、仙谷行政刷新大臣宛に要望書「徳島県下における税金の無駄遣いと自然環境破壊について(お願い)」の中に「吉野川河口の自然環境を破壊する『四国横断自動車道・徳島JCT から小松島IC』のルート変更について(お願い)」を添えて、確実に仙谷大臣に届くように徳島市内の仙谷事務所を通じて提出しました。また、同じ文面のものを前原国土交通大臣宛に郵送しました。
内容は「高速道路が沖洲海浜から南進するには、新町川河口と勝浦川河口にはそれぞれ渡河橋が必要です。これにも莫大な建設費(税金)がかかり、そのうえ貴重な自然環境の破壊を伴います。因みに、この高速道路は沖洲海浜(徳島東IC)を起点に北側は西日本高速道路株式会社が建設し、南側は国交省直轄で建設される予定です。
そこで私たちは以下の代替案「ルート変更のお願い」を国交省や徳島県に要望してきました。即ち、吉野川河口渡河橋〜勝浦川河口渡河橋ルートを中止し、代わりに徳島JCT(川内町)から徳島東環状線に接合し、東環状大橋を利用して小松島につなぐルートです。これだと貴重な吉野川河口干潟の自然を守り、巨額の税金を浪費せずに済むからです。
ぜひ、私たちの要望をお聞き下さり、税金の無駄遣いと自然環境破壊を止めてください。強くお願いいたします。」というものです。いたずらにマスコミに流すと高速道路推進派が今までのように巻き返しを強めると判断し、着実な方法を選んだのです。
吉野河口は、第十堰可動堰化計画、四国横断自動車道、東環状大橋、マリンピア沖第二期工事などの環境に悪影響を及ぼす公共事業のほかに、釣用の餌であるパッチン捕りの水中ポンプにより、底生生物が壊滅的な被害を受けています。
干潟・湿地の大切さを一人でも多くの人々にわかってもらえるよう、普及啓発し、自然破壊を伴う開発計画には、真正面から強い意志を持って取り組んでいかなければと思っています。
(JAWAN通信 No.96 2010年3月15日発行から転載)
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