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生物多様性条約市民ネットワーロゴ

生物多様性条約

市民ネットワークの意義と役割

高山 進
(生物多様性条約市民ネットワーク共同代表)

 今年10 月に名古屋で開かれる生物多様性条約第10 回締約国会議(COP10)には、世界各地からNGOや地域住民(先住民)などの市民団体が集まります。2 年前にドイツのボンで開かれたCOP9 には総勢約6000 人のうち市民団体から約1200 人が参加したといわれています。条約会議の正式メンバーは各国政府とされていますが、政府だけではできないことを、市民サイドが担っていくことになります。こうした国連会議に市民が積極的に参加してほしいというのが国連の考え方で、その役割も期待され、条約事務局のアフメッド・ジョグラフ事務局長も市民の声を条約会議に反映したいと強調しています。
 ドイツ・ボンのCOP9 では、NGO が全国一つの連携組織を作り、存在感のある働きをしました。生物多様性条約の目的は自然保護にとどまらず、南北間格差を是正しようとする国際関係、第一次産業の在り方にかかわるテーマなど幅の広いものでした。政府とNGO の連携もしっかりしていて、資金面のサポートも十分にありました。ドイツでは1992 年に地球サミットに出席したドイツの政治家が、ドイツにも持続的発展問題を扱えるNGO が必要であり、政府の政策をチェックする役割を期待して支援をするべきという主張をしたとのこと。その時誕生したNGO が連携組織の一翼をしっかり担いました。会場近くには市民団体の本部とミーティングルームがあり、ここにEUやドイツの環境大臣らが訪ねてきて意見交換し、市民団体の意見をふまえてドイツ政府は開発途上国への支援を打ち出すなど、市民サイドが影響力を発揮しました。逆に会議にマイナスの働きをする国や企業などへの批判もします。日本もやり玉に挙がりました。
ドイツ・ボンで行なわれたCBD−COP9
ドイツ・ボンで行なわれたCBD−COP9

 COP9 に参加したNGO メンバーが中心に準備を重ね、日本でも昨年1 月に全国一つの連携組織(生物多様性条約市民ネットワーク、略称CBD 市民ネット)が結成されました。CBD 市民ネットには2/1 現在正会員(団体)が62 団体、サポーター会員(団体)が16 団体、個人会員が62 名参加されています。現在8 つのテーマ別作業部会と2 つのタスク別作業部会、1 つの地域別作業部会が機能しています。
 CBD 市民ネットの役割は大きく3つあります。1つは、現場で地道な活動をされている市民の力を集め、生物多様性の意義を確認し広く普及すること、第二に、政府や自治体に生物多様性条約が求める政策をおこなうように提言し働きかけること、そして第三に、海外のNGO と連携して会議を成功させ、交流することです。政府に働きかけ、市民に呼び掛ける、そして両者の意見をしっかり聞く。これがCBD 市民ネットの役割と考え、これをシンボライズしたロゴも作りました。
 政府が何かを提案する場合に、省庁間の権限が絡む事例や長年続けてきた政策が壁になり、どうしても歯切れが悪くなりがちです。利害に縛られず先を見通す市民がより優れた提案を行う可能性があります。市民側も政策提案の能力を鍛える良い機会にしたいものです。また、現在「アイ・ダイアログ」という国内外の対話を促進する仕組みを準備中です。これは通常はインターネット上で対話をし、各地の経験を交流したり、政策提言作りを進める手段として活用し、節目で顔を合わせて議論していくための手段で、実は世界各地の生物多様性条約にかかわろうとする団体の意見もここに集めながら、英語と日本語で橋渡しをしたいと考え、鋭意準備を進めています。

 先日1 月23 日には発足集会以来の第2 回総会が行われ、その翌日に「アイ・ダイアログ」の一環で顔を合わせる集会を行いました。その中の企画で秋辺日出男氏(阿寒アイヌ民族村専務理事)から「アイヌの伝統的知識・知恵と生物多様性」という報告を受け、そのあと秋辺さんも囲んでパネルシンポジウム「先住民社会の知識・知恵と地域社会の暗黙知」を持ちました。このシンポを通じて私たちにとって生物多様性はどのような意味があり、本来そして今後どのようにかかわっていくべきなのか、という奥の深いテーマで議論が進みました。
深いテーマが議論された対話集会
深いテーマが議論された対話集会

 ヒトはかつて自然資源と直接向き合い、保全しながら利用する絶妙な技法や知恵を世界中で、しかし地域独自の方法で育んできました。それらは先住民や地域住民の中に今でも残っていますが、彼ら自身のコミュニティの持続性が危うい状態になっているとともに、その価値が正当に認知されてきませんでした。日本でも「限界集落」が問題となったり、第一次産業の後継者不足といわれるように、村落社会そのものが非持続的な状態になっています。しかしそこにこそ、大地の生態系サービスを地域の多様な自然的条件にかなった形で最大限に発揮させた上で、その恩恵を利用する大いなる知恵が、いわば暗黙知として営々と機能してきました。
 秋辺さんは「寒さのために土が育たずアイヌは、田んぼは作れなかった」と言いました。水田なしに定住を図ろうとすれば、生物多様性は彼らにとってまさに「運命共同体」であったでしょう。そこから川、風、火、土、生き物、人間がたがいに育て合う大地という意味の「ウレシパモシリ」という言葉が生まれたと言います。「和人も山の面倒を見ないと自分の田んぼに水が来ない、だから山や水の管理に励んだ」と秋辺さんは語りました。「ほんの200 年ほど異常な世界に入ったけれど、また正常な世界に戻るはず」という言葉は奥深い言葉です。
 今日、財源と資源(エネルギー)を節約すべき時代、環境、生物多様性への配慮を飛躍させるべき時代にさしかかり、人工的な施設への過度の依存を改め、大地の生態系サービスを最大限引き出す政策が現実的な意味を持ち始めてきました。ダムと河道で水を制御する「線の河川政策」から、森林や氾濫原とのかかわりでコントロールする「面の河川政策」の展開が象徴的です。

(JAWAN通信 No.96 2010年3月15日発行から転載)

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