危機が続く三番瀬
〜人工干潟化を求める請願が
千葉県議会で採択された〜
中山 敏則
(三番瀬を守る連絡会代表世話人)
(三番瀬を守る連絡会代表世話人)
東京湾奥部に残された干潟・浅瀬「三番瀬」(さんばんぜ)は、2001 年9月に埋め立て計画が撤回された。しかし、その後も開発の危機にさらされている。それはなぜか──
■「第二湾岸道路は通す」
撤回された埋め立て計画の目的は、三番瀬に第二湾岸道路(第二東京湾岸道路)を通すことだった。堂本暁子前千葉県知事は、2001 年春の知事選で「三番瀬埋め立て計画の白紙撤回」を唯一の選挙公約に掲げて当選した。ところが知事は、「埋め立て計画は撤回するが、第二湾岸道路は通す」という矛盾する方針を貫いた。そのため、三番瀬はその後も危機にさらされつづけているのである。■人工干潟化のウラに再開発計画も
昨年4月、森田健作知事が誕生した。森田知事は三番瀬問題について、「いちばん大事なのは地元の考えだ」と述べている。地元の市川市長などは昨年5月、森田知事と面会し、三番瀬の猫ね こざねがわ実川河口域(市川側海域)に土砂を入れて「人工干潟」(中身は人工海浜)をつくってほしいと要望した。知事の発言はこれを受けてのものである。市川市長らの要望は、三番瀬再生会議の議論を打ち切り、人工干潟を早く造成してほしいというものだった。
市は、地権者や産業界といっしょになり、猫実川河口域に面する塩浜地区の再開発計画を進めている。いまは工業専用地域などとなっている市川市塩浜2、3丁目を、マンションやホテル、レジャー施設、商業施設などが林立する街に変貌させたいというのが願望である。大型ホテルの誘致も力を入れている。
そのためには、そこに面する猫実川河口域を人工海浜にし、横浜市「海の公園」のようなものにしたい。そうすれば、人工ビーチを擁した街ということで採算がとれる。土地もマンション業者などに高く売れる──というわけである。
再開発のコンセプト(基調)は「Love ismoney」である。「採算性のあるまちづくり」とのことだが、直訳すると「カネが大好き」あるいは「カネもうけが第一」である。
■猫実川河口域が埋まったら ゲームオーバー
猫実川河口域は多種多様な生き物が生息する重要な浅瀬であり、三番瀬の中で最も生物相が豊かな海域である。大潮の干潮時には広大な泥質干潟が現れる。県の生物調査では、動物195種、植物15 種が確認されている。そのなかには、県レッドデータブックに掲載されている希少種も11 種が含まれている。「三番瀬市民調査の会」(伊藤昌尚代表)が2003 年から続けている市民調査でも、動物132 種、植物16 種を確認している。また、この海域には約5000 平方メートルの天然カキ礁も存在する。カキ礁は、水質浄化機能が高いだけではなく、魚礁としての機能も高く、海外においてはその価値が高く評価されている。
まさに、ここは三番瀬の中でもっとも生物の多い海域であり、東京湾漁業にとって魚類を育てる“いのちのゆりかご”となっているのである。これは、6億円をかけて実施された県の「補足調査」でも明らかにされている。
そんな大事な浅海域をつぶすことは、一連の三番瀬の生態系を分断することであり、多様な環境と生物、漁業などの人間活動が微妙なバランスを保ちながら関係しあい成り立っている三番瀬全域の生態系に重大な影響をおよぼすことになる。
この点は、たとえば大野一敏・船橋市漁協組合長も、「海にいろいろな生き物がいないと漁業は成り立たない。あそこが埋まったら、ゲームオーバーだ」(『サンデー毎日』2005年7月24 日号)と述べている。
ところが、再開発を進める勢力などの考えは、「そんなのクソ食らえ!」である。生物相がどんなに豊かでも、カネもうけに役立たなければ無意味、というわけである。
■「生物多様性ちば県戦略」はお飾り
再開発区域の地権者らでつくる市川市塩浜協議会などは、猫実川河口域の早期人工干潟化を求める請願を昨年9月県議会に提出した。これが自民・公明両会派の賛成多数で採択された。県も、猫実川河口域に第二湾岸道路を通したいため、「干潟的環境の形成」という名で人工干潟化をめざしている。県は今年度、人工干潟化をにらんで砂付け実験に着手した。県が三番瀬のラムサール登録に消極的なのは、第二湾岸道路を通したいからである。
三番瀬保全団体は、請願が県議会で採択されたあと、人工干潟化の中止を求めて県と交渉した。その際、県は、猫実川河口域が生物多様性に富んだ海域であることを認めながら、「地元の意見を尊重したい」と答弁した。要するに、“生物多様性も重要だが、開発の方がもっと大事”というわけである。
県は、「本県の豊かな生物多様性を次の世代に引き継いでいくため」として「生物多様性ちば県戦略」を策定している。しかし、それはただのお飾りとなっている。また、生物多様性に関するイベントをひんぱんに開いているが、それも“お祭り”と化している。
■貴重な干潟・浅瀬を次世代に!
大切な干潟・浅瀬を一部の人たちのカネもうけ(再開発)やムダな高速道路のためにつぶすことは絶対に許せない。そのため、三番瀬保全団体は人工干潟化に反対する運動を進めている。また、三番瀬を恒久的に保全するため、ラムサール登録運動も旺盛に展開している。(JAWAN通信 No.96 2010年3月15日発行から転載)
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