生物多様性を壊す遺伝子組み換え生物
遺伝子組み換え魚が逃げ出したら
もし遺伝子組み換え(GM) 生物が野外に逃げ出したらどうなるでしょうか。現在、GM動物で最も早く食品として出回ることになりそうなのが、カナダで量産化が進んでいる、3 倍のスピードで成長する鮭で、野生の鮭に比べて最大25 倍の体重をもち、稚魚の段階から、いち早く市場に出ることを可能にしました。
しかしながら『ニュー・サイエンティスト』誌2007 年3 月8 日号によると、最新の研究で、このGM 鮭は性格を変え獰猛になることが分かり、もし環境中に逃げ出すと、生態系に予測不能の影響をもたらしかねないことが分かりました。
米国インディアナ州パデュー大学の研究者らは、コンピュータ・モデルを用いて、GM魚を放流した際の環境への影響を検証しました。それによると、雄の生殖能力を抑制した遺伝子組み換え魚を放流した時に、環境中に生息する野生種が絶滅に追いこまれる時間は、想定されていたより短くなる(20 世代)というのです。3 倍のスピードで成長する鮭は体が大きく、その分、雌を引きつける能力を高めています。
しかし、生命を操作した上に体が大きくなったことから、生殖能力が弱まっています。もし逃げ出したりすると、種の絶滅をもたらすなど生物多様性に与える影響が大きいことが分かりました。
この魚はまだ、市場に出ていません。すでに私たちの食卓に食品として登場しているのは4 種類の作物で、さまざまな影響が顕在化しています。次に、それを見ていくことにしましょう。
米国で農薬の消費量が爆発的に増大
現在、作られ出回っている遺伝子組み換え(GM) 作物は、大豆・ナタネ・トウモロコシ・綿の4 種類です。遺伝子組み換えによってもたらした性質は、除草剤耐性作物と殺虫性作物の2 種類です。
除草剤耐性作物は、ラウンドアップのような植物をすべて枯らす除草剤に抵抗力を持たせた作物で、その除草剤を散布すると、作物以外のすべての植物を枯らすことができるため、省力化・コストダウンが可能になるとして、開発されました。
もうひとつの殺虫性作物は、作物自体に殺虫毒素を生産させ、害虫が作物につくと死ぬようにしたものです。そうすると殺虫剤を撒かなくてすみ、これも省力化・コストダウンになるというのです。この殺虫毒素は、Bt菌と呼ばれるバクテリアの遺伝子を用いるため、殺虫性作物のことを、よくBt 作物と言います。
ところがここ数年、その省力化・コストダウン効果が失われ、マイナスに転じ始めました。
除草剤耐性作物では、除草剤で枯れない雑草がはびこり、殺虫性作物では、殺虫毒素に耐性をもつ害虫がはびこり、ほかの農薬を使わざるを得なくなり、省力化・コストダウン効果が減じただけでなく、農薬の使用量が増え続けているのです。
昨年、米国有機農業センター、憂慮する科学者同盟、食品安全センターの3 者は共同で最新の調査報告を発表しました。それによると、除草剤の使用量が顕著に増大、1996 年から2008 年までの間で3 億8300万ポンドも増えたことが分かりました。またその増加幅の46%が、2007 〜 2008 年の2 年間の数字だというのです。( ロイター2009/11/17)
さらには除草剤耐性大豆が、世界で栽培される大豆の栽培面積の70%に達したことなどから、除草剤ラウンドアップの使用量が莫大な量に達しています。同農薬の主成分グリホサートだけでも、2010 年の使用量は90万トンに達すると見られています。その結果、地球上の大地はこの強力な一つの農薬漬けとなり、環境悪化は避けられず、生物多様性への影響が懸念され、食の安全が脅かされる、と指摘されました。(Live-PR 2009/6/5)
米国雑草科学協会は、最近、環境保護局に対して、除草剤耐性雑草が9 種類まで増えた、と報告しています。とくに米国南部の穀倉地帯で増え続けており、農家は他の除草剤を用いるか、従来の作物に戻るか、農業を捨てるか、選択を求められています。しかし、種子市場がモンサント社に独占されており、非GM 種子の入手が難しくなっているのです。
死なない害虫、死ぬ益虫
殺虫性(Bt) 作物が作りだす殺虫毒素に耐性を持つ害虫は、栽培開始からまもなく現れ始めています。
中国の環境保護省・南京環境科学研究所は、Bt 綿が環境にもたらす影響を調査し、主要な標的となっている害虫に耐性ができ、死ななくなってきたこと、世代を経るほど耐性害虫の割合は増えつづけることを明らかにしました。その他にも、害虫の天敵が減少し、アリマキなどの新しい害虫が増大しているため、農家は農薬使用を継続せざるを得なくなっている、と報告しています。(ガーディアン 2002/06/11)
スペインでも、耐性を持った害虫が広がり、環境に有害な強い殺虫剤の使用量が増えていると報告されました。
また、Bt コーンが作付けされている地方で、隣接した農地に栽培されたBt コーンからの花粉汚染で、2 人の有機農家の認証が取り消されるという事態も起きています。有機農作物は非GM であることが求められているからです。この有機認証取り消しという事態は、最初から想定されていたこととはいいえ、欧州の農家に大きな衝撃を与えました。
Bt 作物がもたらす、標的昆虫以外の昆虫への影響も報告が相次いでいます。インディアナ大学の研究者が、Bt コーンが水系の生態系に有害だとする研究結果をまとめました。それはBtコーンの花粉などが河川に流入して、水生昆虫のトビケラの成長率が半減以下となる成長阻害が起き、死亡率が高くなると指摘したものです。
これまで殺虫性作物がもたらす生態系への影響の中で、水生昆虫で調査されてきたのは、ミジンコだけでした。トビケラは、魚や両生類などのエサとなるため、研究者は、生態系に大きな影響がでかねないと指摘しています。(National Science Foundation2007/10/9 など)
Bt 作物の殺虫毒素は花粉にも含まれます。そのため花粉が飛散すると殺虫剤を撒いたのと同じ効果を持ってしまいます。それによってとくに大きなダメージを受けるのが蝶です。
さらには、除草剤耐性作物に用いる除草剤が、蝶の幼虫が好んで食べるトウワタを枯らし激減させたため、両者の影響で蝶が大幅に減少していることも明らかになりました。減少が確認されたのは、オオカバマダラです。この蝶は、メキシコの森林であるコロニー1箇所に集まり、米国を縦断する2000 キロの旅を行い、またこの森林に戻ってくる蝶として有名です。そのメキシコのコロニーの面積が、1990 年代の9ha から、2009 年には5ha に減少していることが判明しました。
(The Globe and Mail 2010/1/19)
日本でもGM 作物が自生している
除草剤使用量増大は、自然を破壊するだけではなく、人々の間で健康障害を拡大しています。
2002 年、コルドバ州の人口5000 人の町イトゥザインゴ・アネクソにおいて、白血病や皮膚の潰瘍、内出血や遺伝障害などが多く発生し、緊急事態宣言が発せられました。「イトゥザインゴの母親たち」の依頼で科学者が行った調査結果を受けて、自治体当局が住民避難勧告を出しましたが、それでも住民はその地にとどまらざるを得ませんでした。
生物多様性研究センターなどが2006 年1月にサンタフェ州で行った調査によると、多くの町で全国平均の10 倍以上の肝臓がん、3 倍に達する胃がん、精巣がんが見つかっています。(IPS 2006/11/17)
この事件をきっかけに調査が進み、アルゼンチン中で健康破壊が広がっていることが明らかになりました。
GM 作物による生態系破壊が日本にも及びつつあります。日本ではGM 作物は作付けされていません。
しかし、コントロールを失い、いたるところで自生しているのです。現在作付けられ流通している作物、大豆、菜種、トウモロコシ、綿は、いずれも種子の形態で輸入されます。そのためそれが落ちこぼれると自生します。
市民団体や生協の組合員が、2005 年からGM ナタネ自生全国実態調査が始め、毎年、GM ナタネの自生が広がっていることを確認してきました。GM 作物による生物多様性の破壊は、けっして栽培している外国の話ではないのです。
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