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ラムサール条約湿地 沖縄「漫湖」

〜残したい自然、残さなければならない自然〜

漫湖水鳥・湿地センター主査 広川ヨシ子

追憶

「名も知らぬ遠き島より流れ寄る椰子の実一つ…」(島崎藤村の詩より)
 遠き日の幼い頃、白い砂浜を素足でかけ、拾った空き缶に潮溜まりで捕まえたカニ、チンボーラー、アーマンなどの貝、色鮮やかな魚を入れて遊んだものでした。
 また遥か水平線の彼方にゆらゆらと沈んでいく夕日を眺めながら、海面に石ころを下手から投げ、ピシャピシャと波間に浮いてはねていくのを「3 段跳びだ!!」と手をたたいて喜んでいたのを覚えています。
 あれから50 年余が経ち、私の記憶もおぼろげではありますが、やはり自然の中で遊んだ日々が人生の中で一番の思い出ではないでしょうか。顧みますと、沖縄の先人たちの生活は、自然とともに歩み、自然をいたわり、何よりも自然に対して畏敬の念を持ち、そして祈りの暮らしでした。潮の干満が何時であるのか、それによりその日のことを決めたりして、本当に自然の中から生活の術を生み出していたようです。

残しておきたい沖縄の自然

 交通機関の発達に伴う人の移動、物の流通、ペットを連れてのアウトドア(時には捨て猫、捨て犬に変身)、生き物の移動、めまぐるしい現代社会です。環境が大きく変わる時代だからこそ、自分たちの歩んできた自然との関わりをしっかり見つめなおしておくべきではないでしょうか。
 沖縄の諺に「ケラマー見ぃしが、マチゲーや見ぃらん」(方言です)という言葉があります。沖縄本島の約30㎞西にある慶良間列島の島影は、本島からでもよく見えます。その慶良間はよく見えるが、自分のまつ毛は見えないということです。
 人間遠くのものはよく見えるが、自分の足元をよく見ていないという意味です。まさしく、今の沖縄の自然環境ではないでしょうか。本当に厳しいものがあります。
 沖縄県は、美ら島(ちゅらしま)沖縄にすることで、観光立県を目指しているのですが、真の美ら島とはどういうことなのか、ここらあたりで小休止して、沖縄の自然の素晴らしさを再認識してみてはいかがでしょうか。ただ海が好き、山が好きという部分的な、あるいは行楽的な(全面否定はしませんが)ものではなく、つながりの部分、海岸線、波打ち際など、つまり地形の美しさが本当の自然の美しさだと思うのは私だけでしょうか?
 今、沖縄の海岸線が失われつつあります。県内各地で開発が進み、コンクリートで固められた箱型の自然に変わってきました。
 ゆるやかな曲線、険しい岩山、打ち寄せる白波、白い砂浜、そこにゆったりと生き物が息づいている、亜熱帯の島、沖縄の自然、それこそが世界に誇れる宝物です。“東洋のガラパゴス”だ、“世界遺産登録”だと注目されている沖縄であるが故に、大きい自然も小さい自然も大切にしなければならないと思うのです。

漫湖水鳥・湿地センター。2009 年に木道を新設
漫湖水鳥・湿地センター。2009 年に木道を新設

漫湖水鳥・湿地センターからの発信

 渡り鳥の中継地である漫湖の自然をご紹介しましょう。
 漫湖は、沖縄本島南部の那覇市と豊見城市の間に位置し、国場川と饒波川の合流する河口域にできる泥質干潟です。
 秋には多くの水鳥が、中国北部やシベリア、アラスカなどから日本を経由して、東南アジア、オーストラリアなどへ渡ります。漫湖は、そのルート上にあり、エネルギー補給の中継地、越冬地として重要な役割を果たしています。今まで、約200 種の野鳥が確認されていますが、そのうち105 種が、サギ、カモ、シギ、チドリ、カモメ、アジサシなどの水鳥です。しかし、ここ2・3 ヶ年、カモ類が減少してきています。
 漫湖は、鳥たちの餌となる底生生物が非常に多く、生産性に富んでいる場所でもあり、1 m四方に、約400 匹以上のヒメヤマトオサガニが生息し、ゴカイやミナミトビハゼがひしめき合って、生活しています。貝類や甲殻類は、那覇市の環境調査で55 種が確認され、中には絶滅が心配される種類もあります。都市化された環境にあって、しかし身近な人間の生活の中で、これほどまでに街の中に自然が残っているのは素晴らしいことです。
 現在は、世界でも数少ないクロツラヘラサギが羽を休め、首を振り振り、エネルギー補給に大忙しです。
 1999 年5 月には、国内で11 番目のラムサール条約にも登録されました。そして、その4 年後の2003 年5 月、環境省が漫湖水鳥・湿地センターを設置しました。
 この施設は、水鳥をはじめとする野生生物の保護と湿地の保全、賢明な利用について理解を深めていくための普及啓発活動や、調査研究、観察などを行う拠点施設です。また、総合的な学習を支援する環境教育の場でもあります。さらには、地域住民が自然に親しみ学ぶ場でもあります。施設には、漫湖が見渡せる展望室に望遠鏡が設置してあるほか、屋外では、2009 年10月にマングローブ林の中に木道が設置されました。木道からは湿地の中に住む底生生物の命のにぎわいを観察することができます。最近では、地域の人たちの癒しの空間として親しまれています。

終わりに

 残しておきたい沖縄の自然の場所を、一つ一つ紹介しませんでしたが、それは沖縄が丸ごと残したい自然だからです。

総合学習に取り組む中学生
総合学習に取り組む中学生

(JAWAN通信 No.97 2010年7月10日発行から転載)

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